そうですか、これが私の罪ですか。
ただ生きていた。
それなりに仕事もこなし、人の道を外れる様なこともしていない、ただの平和な日々だった。
私が生きて来て、初めて幸せを感じたのはとある人との出会いだった。
今まで灰色だった世界に、甘く、柔らかい光が差した。
とても幸せだった。柔らかい時間の流れを知ると、もうあの灰色の日々が怖いとも思えるほどに。
けれど、その時間は永遠では無かったのだ。
連絡が途絶えた。
初めは数日、そこから数週間、1ヶ月と。
直前まであんなに優しく微笑んでくれていたのに、何故?私が、悪い事を言ってしまったのだろうか、何か気に触った?
それとも、一体何が。
何度も何度も考えていると、いつしか時間は音も無く聞こえなくなっていった。
ただ、私の目の前には虚無が現れたのだ。
あんなにも柔らかい時間の流れを感じていたのが嘘のように、本当に突然、色が無くなってしまった。
独りよがりな幸せだった?
あの人の笑顔に影があった?
それとも……初めから、私だけが……と、自問自答していても、日常はまた日が昇る、陰るを繰り返す。
涙はとうに枯れ果てた、ただ、寂しくて虚しかった。
いつもなら飲み込んで次の日が昇る瞬間と共に立ち直れると思ったのに、ダメだった。
声が枯れ、腕は動かず、ただ生きた。
思い込みの激しい女の最後は、そんなものだった。
優しかった温度も、暖かみを感じたあの腕も、もう今は無い。
ただ受け取ったそれが嬉しくて、暖かくて、幸せで、明日もまた受け取れるのだと過信していたのだ。愚かな。
ああ、私は。
私はあの人が好きだったのに。
気持ちを伝える前に消えてしまったあの人をうらめしいとは思わない、ただ、ただ、虚しかった。
私の心の中に空洞が出来て、そこから全ての感情が吸い込まれて行くかのよう。
虚しい、悲しい、辛い。
どうかもう一度、ただ抱き締めて欲しいと望むのも、罪なのだろうか。
せめて、伝えたかった。
暖かくて優しい陽だまりのような貴方に、ただ好きだと。
愛していると伝えたら、何かが変わっていただろうか。
……いや、変わらなかっただろう、それは、返事が途絶えた時点で千は考えたのだから。
私は選ばれなかっただけ。
あの人にとっての傍に置くほどでは無かっただけ。
ただそれだけ、私だけが、私だけが好いただけなのだ。
これは罪、これは罰、これは……ああ、虚しい。
「好きだとも、言えなかった」
枯れたと思っていた涙が熱く私の頬を滑った。