無人戦線:紅海とイエメンからのドローン群襲撃
【現地時刻 05:11】
【紅海南部上空、アデン湾沿岸監視ドーム「ベイ・センサー3」】
湿度87%。遠くで朝焼けが雲の下に広がりつつある。
だが、その空域を静かに、何十もの熱源が滑るように進んでいた。ステルス性を持たない旧式のプロペラ機型に混ざって、新型のイラン製Shahed-238(高高度長航続ドローン)が数機。さらに、大量の小型爆発ドローンShahed-136がその周囲を群れとして伴走していた。
その総数——推定で86機。明らかに単独テロ攻撃の規模を超えていた。
【05:13】
【サウジアラビア王国軍・南西戦域防空本部(KSA-JIDC)】
アラビア語の交信ログが高密度で飛び交う。
「ドローン群、アデン湾上空を北西進行。進行角112、速度時速180km。高度は変則パターン」
オペレータは、モニターに表示された熱反応群に目を細めた。
「これは偽装と実弾の混在群だ。群れの中に『指令機』があるはずだ。」
「迎撃優先順位変更。Shahed-238が本命だ。Shahed-136は妨害用」
「迎撃許可、KSA-FALCONサイトへ」
サウジはすでにこの数年間、イエメン・ホウティ派からの断続的ドローン攻撃に直面しており、パトリオットPAC-3の運用を超えて、**新型の中距離迎撃ミサイル Tamir-M(イスラエル提供)**を配備していた。
【05:17】
【イスラエル国防軍:統合情報監視室(Unit 8200サテライト監視棟)】
「イエメン・サアダ州アル・ジャウフ空軍基地跡地からの発射を確認。発射座標と軌道一致」
「ホウティの名を借りた、**IRGC-QF(イラン革命防衛隊・クッズ部隊)**の直接作戦と断定」
画面には、紅海西岸から緩やかな弧を描いて、イスラエル南部・エイラート、さらにはネゲヴ核研究センターへの軌道が重なっていた。
「標的は軍事施設ではない。“国体”そのものだ。」
【05:20】
【イスラエル空軍 第140電子戦中隊:ネゲヴ砂漠 第5ステーション】
空はまだ薄暗かった。
だが、地平線の向こうで警報灯が点滅した。
「ドローン群、目標エリア半径300km圏内に進入。ECM(電子妨害)展開モード移行」
「SHAKED-4送信開始——GPSジャミング範囲を20km拡張」
送信塔から、干渉周波数帯の連続波が空へ放たれる。
安価なShahed-136は、これにより一部が空中で制御不能に陥り、自動着陸または墜落へと至る。
だが、238型は違う。高度4,000m、衛星リンクと慣性航法装置で飛行を継続。
「これは……第3世代の衛星独立ドローンだ」
【05:26】
【南イスラエル・ディモナ核研究施設地下 第9警戒階】
冷却装置が低音を維持するなか、**局地対空システム「Iron Beam」**が初の実戦配備に入った。
「赤外線ターゲティング起動」
「目標、距離22.4km。高度3,800m。接近速度——185km/h。距離維持」
数秒後、高出力レーザーが目標に照射される。標的ドローンの外殻が白熱し、回路が焼き切れるまでに1.3秒。
「1機撃墜確認。続けろ。中間核貯蔵棟の真上を通すな」
【05:30】
【ドローン群最終接近】
残存ドローン、38機。
そのうち、Shahed-238が6、Shahed-136が32。
このうち18機が、ネゲヴ上空で迎撃困難な角度で高度差攻撃を試みていた。明らかにAIナビゲーションによる協調攻撃。
「最終迎撃フェーズ。スカイセイバー砲台全弾投射」
地上の砲塔が、自動追尾で回転を始める。赤外線とレーダーによる複合追尾。
弾道計算。マイクロ秒単位の補正。
地上から見上げた空に、数十本の火線が同時に伸びた。
【05:35】
【被害報告】
侵入成功機:ゼロ
ただし、迎撃費用総額 約3,100万ドル。
ドローン攻撃にかかったコストは、わずか60万ドル相当。
戦術上は勝利。だが、戦略コストは逆転していた。
【05:40】
【テルノフ空軍基地・作戦司令室】
レヴィ准将は、報告を受けながら黙っていた。
「彼らは試している」
「われわれの“限界”を、コストで、数で、頻度で、そして心理で。」
その背後のスクリーンには、新たな警報。
【アナトリア南岸の漁港から不審ドローン起動】
戦場は移動していた。次章、東地中海戦域へ。