空の境界線:F-35Iによる即応反撃作戦
【現地時刻 03:42】
【イスラエル北部・ハツォール空軍基地 第116戦闘飛行隊 滑走路04R】
滑走路の端、暗視誘導灯がうっすらと点滅する中、F-35Iアディールのキャノピーが静かに閉じられる。搭乗しているのは、IDF空軍第116戦闘飛行隊「ライオンズ・オブ・ザ・サウス」の精鋭パイロットたち。彼らは過去6か月間、シミュレーターと実機で延べ400時間にわたってレバノン南部への深層急襲ルートを練習していた。
「ゴールド1より母艦、タキシング開始。兵装確認中」
「ゴールド2、スタンバイOK。電波封鎖モード、起動良好」
滑走路端で待機する整備員が親指を立てると同時に、F-35のノーズギアがゆっくりと滑り出す。全機、レーダー反射面積を最小化するステルス姿勢に自動補正されたまま、戦術出撃へと移行する。
【兵装構成(F-35I標準対地打撃仕様)】
GBU-39/B Small Diameter Bomb × 4(GPS/INS誘導・目標同時攻撃可能)
Python-5 短距離AAM × 2(自衛用)
EL/L-8222電子戦ポッド × 1(スタンドオフ妨害対応)
AN/ASQ-239 EWスイート(自動防御)
予備:AGM-154 JSOW(スタンドオフ滑空爆弾、今回は非搭載)
【03:46】
【上空:ハツォール北西16km、上昇ポイント】
「高度制限突破。マッハ0.92。電子遮断モード移行」
ゴールド1のパイロット、カイ・エリオット少佐は呼吸を整え、HUDの中央に浮かぶ小さな矩形を凝視していた。
目標は、南レバノンのベカア高地北部、ハリス村西方の谷地帯。そこに、ロケット弾の移動発射車(TEL)が3基、地中偽装網の下に隠れている。
「地形補正ルート計算中。衛星照合完了」
「S-200旧式SAMサイト2基、非稼働」
「レバノン空軍航空資産、ゼロ。イラン製Shahed-136の熱源反応はあるが、飛行中ではない」
電子戦情報と航法データが、リアルタイムでヘルメットディスプレイに映し出される。F-35Iの戦闘環境は、コックピットではなく、身体そのものがセンサー拠点となるのだ。
【03:51】
【レバノン領空進入】
「全機、レーダー反射断面最小化。ターゲットエリアまでETT:42秒」
機体は低空へ滑空しながら、斜面を舐めるようにして前進する。夜の湿気がキャノピーを曇らせるが、赤外線フュージョンビューにより、谷間の熱源が徐々に輪郭を持ち始める。
「複数の金属反射。TEL移動中——これは生きている発射拠点だ」
「GPS座標、ターゲットA・B・C。データリンク完了。弾着タイマー同期——4秒差」
【03:52】
【爆撃】
「投下まで、5……4……3……2……リリース」
沈黙の中で、機体下部から4発のGBU-39がマルチピッチ放出方式で滑空し、個別の軌道へと分離していく。
それぞれの爆弾は、自律航法モジュールにより、GPS/INS複合誘導で目標の屋根の弱点に向けて微調整されていた。
【着弾】
—A目標(TEL-1):起伏の上にあるフェイク温室構造の屋根を突き破り、車体中央を貫通。起爆遅延0.7秒。
—B目標(TEL-2):半地下車庫の鉄筋コンクリート天井に直撃。爆圧により、隠匿中の装填ロケットと同時爆発。
—C目標(TEL-3):移動中に撃破。誘導爆弾が前方斜面に命中し、爆風が逆向きに伝播。熱源消失。
【03:54】
【F-35I 撤収】
「命中確認。3目標中、3破壊。追撃対象なし」
「全機、撤退ルートへ移行。イタミ・リンク経由でジャミング波停止。ステルスプロファイル維持」
帰還ルートは、ヨルダン国境に沿って南下しながら、再度ハツォールへ向かう最短経路。全行程で交信時間はわずか15分。だが、彼らが破壊したのは単なる車両ではない。
それは、イラン=ヒズボラの“報復能力そのもの”に対する、精密で無音の外科手術だった。
【04:07】
【ハツォール空軍基地 ブリーフィングルーム】
ミッションデブリーフィングが始まっていた。
レーダー記録、熱源消失時間、振動スペクトラム。すべてが物理的“死”を証明していた。
レヴィ准将は報告を受けながら、静かに眼鏡を外し、顔を覆った。
「この反撃で何が得られた?」
誰も答えなかった。戦争とは、始まりがあっても“終了の定義”が存在しない行為だった。
今、レバノンは沈黙している。だが次はどこか?
シリアか。イエメンか。あるいは——イラン本土への報復報復か。