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北部戦線:ヒズボラの反撃

【現地時刻 03:17】

【南レバノン・ビント・ジュベイル 地下指揮所】


 粗く組まれたレンガ壁に、戦闘用の赤ランプが点滅していた。通信用の鉄製ハンドセットが、無造作に軍地図の上に置かれている。

 「作戦コード、《マウント・フセイン》、第2段階に移行」

 ローブ姿の男が低く指示した。ヒズボラ南部戦線司令官ハーサン・ナセール准将。かつてIRGCクドス部隊との合同演習を指揮した老将であり、今回は“報復作戦の発動権限”を委任されていた。


 傍らの通信士が立ち上がり、ハンドセットをとる。

 「第313ロケット旅団、即時発射。ターゲット:ガリラヤ北縁域、イスラエル北部集積拠点」


 彼らは、イランの核施設が破壊された瞬間をリアルタイムで衛星通信経由で受信していた。信号は途切れ、映像は一瞬光に包まれ、消えた。

 そのときから、カウントダウンは始まっていた。


【03:23】

【イスラエル北部:ハル・ダフ空軍監視所】


 監視スクリーンに最初の熱反応が映ったのは、午前3時23分16秒。

 「南西方角、方位212、距離42キロメートル。発射数……複数。ロケット弾!」

 観測兵が叫ぶ。


 「レベル3警報発令! これは試射じゃない、全面発射だ!」


 赤色警報灯が点灯し、ハル・ダフからメロン山地にかけての北部空軍レーダー網が自動的に指令センターへ中継を始める。


【03:25】

【テルノフ空軍基地 地下指揮所】


 警報音。

 「ヒズボラによる大規模ロケット攻撃を確認。ガリラヤ北部・ハイファ工業地帯・ナハリヤ港湾に向けて、推定152発」


 作戦指揮官、レヴィ准将が端末に顔を近づけた。

 「目標は軍施設ではない。民間インフラだ。これは報復——しかも政治的メッセージを含む報復だ。」


 「迎撃準備。アイアンドーム全砲台、即時展開。必要ならデイビッド・スリングも。都市圏は最優先防御対象だ。」

 「F-35I アディール部隊、即応態勢に移行。レバノン南部のロケット発射拠点を衛星照合。反撃命令は私が出す。」


【03:28】

【北部・キリヤット・シュモナ 地帯防空指揮所】


 IDF北部軍のサブ司令官であるカーメル・エイタン大佐は、刻一刻と迫るロケット軌道のマップを睨みつけていた。

 「迎撃準備完了。追跡中の弾頭、105発……うち37発が都市圏直撃予測。」


 「対処可能か?」


 「現在配備中のアイアンドーム砲台は6基。軌道重複のため、16発が迎撃不能の可能性あり。ナハリヤ、セファド、ロシュピナへの着弾予想」


 「民間避難を——いや、もう時間がない。迎撃許可、全弾に拡張。」


【03:30】

【イスラエル空軍 第116戦闘飛行隊(F-35I アディール) 緊急発進】


 滑走路の灯火は瞬時に切られ、暗視用の誘導線が点灯する。

 搭乗したパイロットたちは、発進後3分で敵領空へ進入可能な電子戦対応ステルスルートをすでに記憶していた。


 「ゴールド1、確認。飛行経路:マロン山地経由、発射拠点推定座標042-871」

 「電波沈黙モード移行後、ローレンジ誘導に切替。衛星制御オフライン、自律航法へ」


 フル武装のF-35Iが空を裂いて上昇する。

 搭載兵装はGBU-39小型爆弾×4、誘導ミサイル×2、ECMポッド1基。任務は、ロケット発射地点を無力化し、二次攻撃を防止すること。


【03:36】

【イスラエル北部:迎撃戦】


 「迎撃発射! 弾道補正完了、点火——命中確認!」

 空中で2発、3発と火花が散る。だが、5発目が防空網の重複ゾーンを外れ、ナハリヤ湾近郊の物流施設に直撃。

 爆風が港の燃料コンテナを巻き込み、火柱が20メートル近く立ち上がる。


 「死者5名、負傷者23名。報告更新中……」

 スクリーン上に、被害の赤点が増えていく。


【03:38】

【テルノフ空軍基地 地下指揮所】


 沈黙のなかで、レヴィ准将は静かに言った。


 「これが始まりだ。」


 イラン核施設の破壊は、確かに成功した。

 だが今、“戦域”が動いた。イスラエルは今や、北部戦線において防衛側に立たされた。


 次に来るのは何か?

 シリアを経由したイラン正規軍の直接介入か。あるいは、紅海からのホウティ派ドローン攻撃か。


 いずれにせよ、イスラエルは、不可視の戦争から、可視化された全面戦争へ、一歩を踏み出した。

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