第二話: “荷主との衝突”
翌朝、翔太は現場の状況を変えるためのアイデアを具体化し、再び村上に提案する。
以前、翔太は作業員の動線を短くするための倉庫内レイアウト変更を提案したが、荷物の量と種類の多さを理由に却下された過去があった。
「今回は、パレットの標準化を進めれば、作業効率が30%向上し、毎月約20時間の作業時間を削減できるはずです。たとえば、積み替えの頻度も減ります。これにより、作業員の負担も軽減されると考えています。」
村上は提案書に目を通しながら首を振った。
「現場だけで効率化しても、荷主側が対応しなければ意味がない。それをどうするか考えたのか?」
その言葉に背中を押されるようにして、翔太は荷主である食品会社の担当者を訪ねる。
「ナガサキ商事」というこの日用雑貨の会社は、国内外に多数の取引先を持ち、特に日用雑貨の生産で知られている業界の大手だ。
彼らの物流量は膨大であり、配送ルートや保管環境の管理には厳格な基準が設けられている。
オフィスは現場とは対照的に清潔で整然としており、壁には会社の沿革や受賞歴が飾られている。
応接室の椅子に座り、翔太は緊張しながら資料を確認する。
「パレットの標準化ですか? 今使っているパレットサイズは、扱っている商品を効率よく積めるサイズなんです。なにより、パレットサイズを変える余裕なんてないですよ。」
ナガサキ商事の物流担当者、佐藤は冷たく言い放つ。
佐藤は物流業界で15年以上のキャリアを持つベテランで、自社の効率を第一に考える実務派だ。
白いワイシャツの袖をまくり上げながら、無表情のまま翔太を見つめる。
その目には「現場の効率化」とは異なる視点での経営課題が映っているようだった。
「ですが、現場の負担が…」
翔太は必死に訴えるが、佐藤は無関心な様子だ。
「現場の負担?それは物流センターの問題でしょう。こちらはコストを抑えるのが最優先です。」
佐藤は書類の束を机に置きながら、少し眉をひそめた。
声には冷たさと共に疲労の色が混じり、彼の視線は翔太をじっと見つめたまま動かない。
「そちらが、作業の負担を無くすためにどう工夫するか、そっちの仕事でしょう?」
と言う佐藤の口調からは、自分たちの立場を守ろうとする固い意志が感じられる。
佐藤の言葉に、翔太は歯がゆさを感じる。
「自分には説得力が足りない…いや、そもそも荷主の立場に立てていなかったのかもしれない。」
帰り道、街路樹の下を歩く翔太の肩は落ち込んでいた。
物流センターに戻ると、作業員たちがまた荷物の積み替え作業をしている。
彼らの表情は疲労で曇り、ため息が漏れる。
「もう少し何とかならないのか…」
と中村がつぶやく。
「こういう状況が続けば、誰だってやる気を失う。」
翔太はそれを聞きながら、現場で働く人々の不満を肌で感じて、このままでは駄目だと強く感じた。