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ある殺人の作者

作者: 栗山煉瓦

初投稿です!よろしくお願いします!

僕はもうすぐ殺される。あと1時間後ぐらいに。

どうしてそれがわかるかって?それはこの小説の作者に聞いてみな。

「おい、お前、いつも小説で主人公を殺しやがって。主人公に何の恨みがあるんだ」

僕は誰もいない虚空に叫んだ。すると、空から何かが降ってきた。

「雨……か。いや、雨じゃない。これは……ゴマだ」

ゴマは猛烈な勢いで振ってきた。ゲリラ豪雨なんて目じゃないぐらいに、強い力で

地上を押しつぶそうとしているみたいだ。

「何てゴマだ。おい作者、こいつで俺を殺そうってのかい。へへ、くだらないこと考えるじゃないか。オチとしてどうなんだい、これは。はは」

僕はすかさず近くのデパートに駆け込んだ。ここならゴマに潰される事はないだろう。

僕はデパートの椅子に座り、タバコを1本吸った。

まったく僕はまな板の上の鯉か。生まれてきた場所が悪かったのかもしれない。

他の子たちは、まっとうな作者によって、それなりの生活をしているようだった。

確かに、俺の隣に座っていた子なんかは、すごく真面目な優等生だったのに、

恋愛物のヒロインにされてしまって苦労しているし、クラス一の秀才は、病気モノの

小説で大変な目にあっているそうだ。だけど、僕ははじめから殺されること前提の小説の中で、ただひたすら逃げ回る役どころを与えられてしまった。作者はサディストなのだ。

毎回毎回、この作者の主人公は老若男女みんな殺される運命。爆発させられたり、塩になったりと、みんな悲惨な目にあっている。

「それにしてもこのデパートはひと気がないな」

たばこをポイ捨てし、僕は外の様子を眺めた。何の音もしない世界で、僕は殺されようとしている。助けてくれる人は、いない。

「屋上に行ってみるか」

僕はエレベーターで屋上に上がった。もう、夜だった。

「うわあ、星がきれいだなぁ。てかもうゴマで僕を殺すのはあきらめたみたいだ」

作者はだいたい1日1つの方法しか使ってこなかった。だから僕は今日はもう安心できる。

僕は屋上の端まで行った。

するとそこには、制服を着た女の子が立っていた。僕は内心、

「へへ、ワンパターンじゃないか。この作者の小説はいつも女の子が出て来るんだ。しかもとびきりかわいい子がね。でも僕がこの子に気を許すと、途端に殺されちまうんだ。知ってるさ、そんなこと。9号も22号もそのやり方で殺された」

そう思って、気を緩めないことにした。

「こんばんは」

女の子が話しかけてきた。僕も適当にあいさつを返す。

「ねぇ、ゴマ好き?今日はゴマがたくさん降ってきたでしょ。だから私、このゴマを売って大金持ちになろうと思うんだけど。買ってくれないかな」

マッチ売りの少女ならぬ、ゴマ売りの少女か。くだらない。

「あんなにゴマが降ったんだ。買う奴なんていないだろ」

「そうね。でもあなたなら買ってくれると思うの」

「どうしてだい」

「いい人だと思うから」

そんな理由で買い物をする奴はいない。罠だ。僕は悟った。そして、

「いいよ。買ってあげる。その大瓶に入ったやつをもらおうかな」

僕はペットボトルぐらいの大きさの瓶に入った白ゴマを指差した。

「わあ、買ってくれるの。嬉しい。今日は特別にこの黒ゴマもプレゼントしちゃうわ」

来た。そう思った。白ゴマはダミーで、黒ゴマにしかけがしてあるんだな。

僕は30円払って、瓶2本を受け取った。

「開けてみてくれる?きっといい匂いがするから」

その時、女の子が2歩下がったのがわかった。

「わかったよ。開けてみるよ」

フタはすこし固かった。でも力を入れて勢いよく回せば開きそうだ。僕は心の中で、3秒数える事にした。

『3……2……1!』

僕はおもいっきり瓶を開けた。それと同時に、瓶を女の子目がけて投げつけた。

「それっ!受け取りな」

女の子の表情が変わった。そして瓶は、彼女の胸のあたりにおさまった瞬間、大爆発を起こした。

「きゃあああっ!」

かすかな悲鳴と共に女の子の体は炎と煙に包まれた。僕は衝撃の大きさに目を伏せた。

「ふぅ、やっぱり罠だったのか」

目を開け、女の子がいた所を見てみると、そこにはばらばらになったロボットのかけらが落ちていた。腕のあたりにデジタル文字で、

『任務失敗』

と書かれた文字が、赤く点滅している。

僕は、何だか空しくなった。こんな身勝手な作者によって、僕もいつか殺されてしまうんだ。恋もせず、家族もいないこの世界で。見上げると真っ赤な月が、ビルの谷間から見えていた。そんなことを考え、ふっとため息をついた。でも生きられるだけ生きてみよう。そうすれば作者も気が変わって、ハッピーエンドにしてくれるかもしれない。


がたん


僕は体に違和感を覚えた。


がたん


なんだ?何が起ころうとしているんだ。


がたんがたんがたんがたん……


世界が崩れ始めたのだ。空も、街もがたがたと、洗濯機の渦のように、下に向けて崩れ始めた。

「何だこれは」

僕は立っていられなくなった。どうして世界が崩壊しなければならないんだ、僕が生きているのに。

そらからがれきやら何やら色んな物が降ってきた。もう耐えられそうにない。世界は大きく暗転し、僕の意識も消えそうになった。

「はあはあ。結局僕は死んでしまうのか。でもどうして」

僕は水が飲みたかった。息が苦しい。右手を上に伸ばそうとしたけど、できなかった。

手を横に伸ばした時、何かをつかまえた。

それは1冊の本だった。

『ゴマ売りロボの献身』

本の表紙には、そう書いてあった。その時、僕は全てを悟った。この世界が崩れた訳も。

「なんてこった。この世界の主人公は、僕ではなかったのか。あの子が……、主人公だったのか。それを殺してしまったのだ」

僕は静かに目を閉じた。空から黒い雨が降り始めていた。

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