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かき氷  作者: パタ
3/3

吐き気

 起きると隣に変な男がいる。

 変な男じゃない、昨日はかっこよかった男がいる。

 おかしい、昨日はすごくかっこよく見えたのに。

 まるで少年のような寝顔を見ながら夏目春香は時計を確認した。

 10時20分。

 休みの前日に突然飲み会に誘われ、当然のように出席可能な自分に呆れる。

 私は穴埋め要員になった覚えなんてないんだけどな。

 たまたま生理もこないし、たまたま彼氏と喧嘩中だったから行ってみた。

 珍しくハイペースで飲み進め、楽しかった記憶だけが残ってる。

 そして朝になっていた。

 微かに残る頭痛と吐き気を我慢し、春香は隣の男を眺める。

 一くん、確かそんな名前だった気がする。

 顔で言えば3人の中で一番だった訳でもない。

 印象に残ってる話をした訳でもない。

 ただ、一番寂しそうな顔をしていた。

 そして、その顔がなんだか昨日の私にはかっこよく見えた。

 他の男みたいにブランドロゴの入った服は着てなかったけど、一見してこだわりがあるような気がした。

 よく見るとホテルのソファにその服が無造作に置かれている。

 綺麗なシルクのシャツは朝見るには眩しいくらいの水色で、ストライプのハーフパンツがシャツの下から覗いていた。

 この人は何故あんなにも寂しそうな顔をしていたんだろう。

 そんな人と私は、シーツにくるまっている裸の私はどんな夜を過ごしたのだろう。

 いつもなら気になるはずなのに、今朝は何か違う。

 私は、彼が目を覚ます前にシャワーを浴びたくてこっそりとベッドから出る。

 熱いお湯が、私自身の身体からあらゆる汚れを流し落とす。

 居酒屋の匂いが髪から香り、苦笑してしまう。

 きっと私が感じる以上に周りの人は私の酒臭さに嫌気が差すのね。

 でも今日は1日家にこもって寝るの。

 誰も帰ってこないあの家で。

 自分の情緒が不安定なのに頭はやけに冴えてて、この感覚が少し心地良い。

 ホテルの安っぽいシャンプーで短い髪を洗い流し、少しごわつく頭を撫でてみる。

 だいぶ切っちゃったな。

 これじゃあもう失恋した女みたいね。

 別に気に入ってるから良いんだけど。

 春香は身体を念入りに洗って、バスルームを出た。

 タオルを身体に巻きつけ、自分の下着を探す。

 ここで一くんが起きると少し面倒なんだけどな、その心配はないか。

 ベッドに横たわる男はさっきと全く同じ場所で、全く同じ姿勢で、全く同じ寝息を立てている。

 春香が白色のシャツを花柄のスカートにタックインした頃、その男がこちらを振り返った。

「え、あ」

 何よ、それ。

 やめてよね、私だってよく分かってないんだから。

「おはよう。昨日のことはあんまり覚えてなくて」

 春香は、全裸の男に問う。

「私、変なことしなかった?」

 男は寝起きだからか、それとも春香の質問の意味がよく分からなかったのか、

「うん、ありがとね」

とだけ答えると起き上がり、春香の方へと近付いてくる。

 何をされるのか、身構える春香の前で男は止まり、

「俺もシャワー良いかな」

「ん」

「シャワー、ごめん通るね」

と言うとそのままバスルームの奥へと行ってしまった。

 良い人ね。

 2日目の立ち振る舞いとしては最高。

 こんな事なら昨日記憶がなくなる前に寝たかったな。

 春香は男がシャワールームから出る前に、一人部屋を出る。

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