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かき氷  作者: パタ
1/3

正義

 人の役に立つような仕事をしたい。

 誰かの為に働きたい。

 そんなことなら別に僕は警察官にならなくても良かった。

 警察官になって8年が経つ。

 田舎にある駐在所の前でパトカーを洗車しながら、僕はそんなことを考えていた。

「こんにちは。今日も暑いね」

 この町の人はよく話しかけてくれる。

 僕の前にここの駐在所にいた人の話を町の人達から聞いたが、とても優しい人だったみたいで、今でも町の人から見た駐在所のお巡りさんとの距離は近く感じるようだ。

「こんにちは。今日はどこかお出掛けですか」

「東京に行った娘が男の子を連れてくるみたいで、今から駅に迎えに行くんだよ。変じゃないかな」

 その人は普通なら夏に着ないようなワインレッドのジャケットにダークグレーのパンツを合わせ、綺麗に磨かれた革靴は黒い光沢を帯びていた。

「お似合いです。いつもジャージ姿しか見てなかったから誰か分からなかったくらいです」

「良かった良かった。ありがとね。それでは」

 その人は満足そうに微笑みながら車に乗り込み、駅の方へと去って行った。

 佐藤一は遠くなる車を見つめながら、ふと温かい気持ちになる。

 娘の交際相手に会う為にわざわざ普段と違う格好、それも少し背伸びしたと思ってしまうような、そこまで頑張れる父親はそう居ない。

 あの人の娘は少し恥ずかしがるだろう。

 お父さん何その格好、恥ずかしいからやめてよなんて軽口は叩くが、父親の精一杯の誠意を感じ取って欲しいものだと思う。

 そんな優しい人達が昔から周りに多く居た。

 そんな優しい人達の助けになりたくて僕は警察官になったのだ。

 だから迷う。

 このまま警察官を続ける自信が僕にはないのだ。

 警察官をしていると様々な人と接するが、大抵は救いようのない連中ばかりだ。

 一時停止をしない車を止めれば、俺は止まったお前の目がおかしいと大の大人が必死な形相で唾を飛ばす。

 喧嘩の通報者は話を聞けば喧嘩を仕掛けた側で、自分が不利になったから警察を呼びましただなんて。

 死にたいと一方的に通報してくるような奴なんて話を聞いて欲しいだけの野郎が9割9分だろ。

 優しい気持ちは荒んでいき、いつもなら無視できるような軽口にも我慢できなくなった。

「佐藤、お前宛てに苦情が複数あるんだ」

 上司にそう言われた時には、正直「だからなんだ」くらいにしか考えられなくなっていた。

 いつから警察の仕事はサービス業になったんだ。

 上司の顔を伺って、正しくない奴の顔を伺って、社会のゴミ共の顔を伺って………

 そして、その気持ちは僕自身の顔にも出ていたのかもしれない。

 その翌年から僕はここの駐在所に勤務している。

 街中から20キロも離れたこの駐在所に。

 そんなことも遠く昔のことのように感じるが、そもそも駐在所勤務が2年目なので2年前のことなんだと思う。

 僕は今年で26歳になる。

 地元のなんてことない公立高校を卒業すると、大抵の連中は地元のなんてことない会社に勤める。

 僕の友人もほとんどはそのような道を選び、良くも悪くも変わらないコミュニティの中で一生を終える。

 僕はそれが嫌だった。

 人と違うことがしたい。

 人の役に立つような仕事をしたい。

 そこで警察官を選んだのは安直だったかもしれないが、18歳の僕が出した答えとしては最適なものだったのだ。

 僕は運動神経は悪くなかったし、警察の試験は勉強すればどうにかなるレベルだと先生も言っている。

 僕は警察官になった。

 両親は喜んでくれた。

 3人で暮らしてきた小さな平屋から移り、田舎の警察寮へ入る時には寂しい気持ちもあったけど、二人のお陰で優しい気持ちを持った人間になれたと思うし、感謝もしている。

 だからこそ両親には誇れる警察官で居たいと思っていた。

 僕は今日、警察官を辞める。

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