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外伝ー26 おじさんの配下たちの裏話


 おじさんには何人かの配下がいる。

 側付きの侍女がその筆頭だ。

 

 で、ウドゥナチャに暗黒三兄弟(ジョガー)たち。

 それとイシドラ。

 

 オラシオは暫定といったところである。

 女性が絡むと問題児になるのだから。

 

 ウドゥナチャは元邪神の信奉者たち(ゴールゴーム)の首領である。

 と言っても、本人談では随分と前に抜けているのだ。

 

 運営方針をめぐって、ちがいがでた。

 

 血の気の多いタカ派の部下たち。

 そして、穏健派のウドゥナチャという構図である。

 

 前々から舐められているとは思っていた。

 ウドゥナチャは見た目では考えられないほど長く生きている。

 

 ――なぜか。

 それは前首領の跡継ぎとして秘術を受けさせられたからだ。

 

 ただ、その秘術は不完全なものであった。

 なにせ儀式の最中に前首領が亡くなってしまったのだから。

 

 だから、ウドゥナチャは中途半端な魔人と言える。

 それでも人とは比較にならない長大な寿命を得た。

 

 こうしたことが幹部たちに舐められていた一因でもある。

 なにせ、あちらは完全な魔人だったのだから。

 

 正直なところ、ウドゥナチャからすれば、幹部たちみたいにはっちゃけることができないのだ。

 中途半端な力しか得られなかった弊害かもしれない。

 

 いや、ウドゥナチャ本人は利点だと考えているが。

 とにかく慎重なのである。

 

 彼我の実力差を正確に把握し、勝てると確信したときしか動かない。

 それが幹部たちからすればもどかしかった。

 

 組織としては深刻な齟齬だったと言えるだろう。

 

 ただ、ウドゥナチャは知っていた。

 前首領を殺害したのは、三人の幹部だということを。

 寝首をかいたわけだ。

 

 だったら、自分を殺せば良かったのに。

 そう思うウドゥナチャだ。

 

 どうせ殺害の動機は、次期首領の人選が納得いかなかった、そんなところだろう。

 なら首領を殺さずに、自分を殺せば事がすんだはずである。

 

 そして、改めて次期首領を選んでもらえば良かったのだ。

 三人の内から。

 

「まぁ今さらだよなぁ」


 粗末な寝台に寝転がりながら、ウドゥナチャは鉄格子付きの窓の外にうかぶ月を見る。

 少し身体を動かせば、ギシギシと音が鳴った。

 

 ウドゥナチャは今、囚われの身だ。

 

 ほんの好奇心だった。

 邪神の信奉者たち(ゴールゴーム)を壊滅させた張本人を見たかったのだ。

 

 既に袂をわかったとはいえ、だ。

 きれいさっぱり忘れたわけではない。

 色々なことがあったのだから。

 

「しっかし……あのお嬢ちゃん」


 おじさんのことだ。

 イトパルサの大聖堂で待ち伏せをした。

 

 そして、一目見て思ったのだ。

 ただものじゃない、と。

 

 理由はわからないが、背すじがぞくりと冷えたのだから。

 

 その予感は本物だった。

 なにせ陰魔法を使って逃げられなかったことなど初めてだ。

 

「さて、そろそろ」

 

 逃げるとするか。

 王城では知っていることはすべて話した。

 正直に。

 

 もちろん、多少誤魔化すことはあった。

 しかし、おじさんに敬意を表して邪神の信奉者たち(ゴールゴーム)のことは嘘偽りなく話したのだ。

 

 だから――もうここにいる意味はない。

 

 拘留されたときからずっと探っていたのだ。

 この牢に設置された結界のことを。

 そして――抜け道は既に理解していた。

 

「おっと、やられっぱなしってのは性に合わないんでね」


 そう言って、ぬるりと陰の中に入る。

 ウドゥナチャはおじさんの元へと向かったのだ。

 

 それがおじさんの罠とは知らずに。

 

 ぶはぁと大きな息を吐く。

 風呂ってのはいいもんだ。

 長く生きてきて、こんなにのんびりしたのは初めてかもしれない。

 

 そんなことを思いながら、ウドゥナチャはばしゃりと手でお湯をすくって顔を洗う。

 

「あれは最悪だったな」


 ウドゥナチャの人生でもワーストワンの思い出だ。

 出し抜いてやったと思ったら、相手の掌の上だったなんて。

 

 今でも覚えている。

 あの、おじさんの姿を。

 

 月明かりに照らされて、女神もかくやという美貌。

 そして――圧倒的な実力。

 

 ふふ、と笑いがこみあげる。

 

「ま、ここが落ちつく場所だったのかもなぁ」


 露天風呂のことではない。

 おじさんの配下としてのことだ。

 

「ほおん……随分と寛いでいるみたいだな」


 思わず、声がした方を振り向く。

 そこにいたのは額の血管をピクピクとさせた国王だった。

 

「……ええと、なんで?」


「それはこちらの台詞だ」


 邪神の信奉者たち(ゴールゴーム)の件で国王とは色々あった。

 ウドゥナチャは処刑にするはずだったのだ。

 しかし、おじさんからの取りなしもあって無罪放免となった。

 

 まぁ既に邪神の信奉者たち(ゴールゴーム)を離れたあとのことなのだから、それで処刑は酷というものである。

 

「……だって、ここ公爵家の」


 温泉地だよね、という言葉を飲みこむウドゥナチャだ。

 

「リーの厚意でな。偶にお忍びで使わせてもらっておる」


「なるほど……じゃ、そういうことだったら」


 そそくさと出て行こうとするウドゥナチャだ。

 まぁそもそも顔を合わせるような相手ではない。

 

 だが、ウドゥナチャの肩をがっしりと掴む国王だ。

 

「なに、遠慮することはない。ゆっくりと浸かっていけばいい」

 

「いや、それあんたが言う台詞じゃないから」


 だって、おじさんちだし。

 

「やかましい! 余が許しておるのだ。余が、な」


 居心地の悪い。

 そんなことを思うウドゥナチャである。

 

「ふん! リーにまで害を及ぼそうとしたら、わかっておるな?」


「あのさ、害を及ぼせるわけないでしょうが」


 そんなことができるわけないのだから。

 

「陛下、お待たせしました」


 果実酒だ。

 おじさんちが作っているものである。

 

「すまぬな。ああ、それともう一つ杯を頼む」


 頭を下げて、スッと下がる公爵家の従僕だ。

 

「……どういうこと?」


「……付き合え」


 まぁ色々とあるのだろう。

 そう判断して、ウドゥナチャは頷いた。

 

 男同士で酒を飲み、腹を割って話す。

 それは陳腐だが、古来より伝わるコミュニケーションだ。


「だーはっはっは。話してみれば、悪い男ではないではないか!」


「いやぁ。それがわかる国王こそ」


 二人して笑い声をあげる。

 上機嫌だ。

 

 そこへ闖入者が姿を見せた。

 

「……ほおん。帰ってこないと思えばこんなところに」


「げえええ! アヴリル!」


「そちらの者は?」


「う、ウドゥナチャっす。あの……オレはそろそろお暇しますんで。それじゃ!」


 だが、その肩が両方から掴まれる。

 国王夫妻が掴んでいたのだ。

 

「に、逃がさんぞ! 余だけ悪者になってたまるか」


「いや、オレ関係ないし」


「あなたには色々と聞きたいことがあったのですよ」


 ねぇと王妃の目が光る。

 

 あ、これはあかんやつ。

 そう思ったウドゥナチャは正しかった。


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