外伝ー25 おじさんの知らないところで行われる服選び
セロシエ=フルリ・オーピオス。
薔薇乙女十字団の参謀である。
内務系伯爵家の令嬢だ。
パトリーシア嬢とは副長の座を争ったこともある。
書類上での話だが。
セロシエ嬢もすらりとしたモデル体型の美人さんだ。
おじさんに次いで身長が高い。
この中だとパトリーシア嬢だけが小柄である。
オーピオス家にはパトリーシア嬢の馬車できた。
すんなりとサロンに通される。
パトリーシア嬢の家は軍務系らしく質実剛健なサロンだった。
ただ、セロシエ嬢の実家は品が良い。
装飾的ではあるけれど華美ではないのだ。
質の良い調度品が揃っていて、落ちついた空間になっている。
「ようこそ我が家へ。歓迎するよ」
セロシエ嬢だ。
今日はスカートではなく、パンツ姿である。
なんだか男装っぽい雰囲気だ。
「お招きありがとうなのです」
と、手土産を渡すパトリーシア嬢だ。
この辺りはさすがに高位貴族の令嬢だろう。
如才ない。
「お茶菓子かい? では、皆でいただこう。それと……」
セロシエ嬢はカタリナ嬢とルミヤルヴィ嬢を見て微笑む。
「二人の服の件ね。ボクに任せてほしい」
とんとん拍子で進んでいく。
この話をするために準備していたのだろう。
さすが参謀である。
手回しがいい。
「正直に言うよ」
セロシエ嬢が二人を見て言う。
「その服装は村娘がするものだよね? 勘違いはしないでね。それが悪いと言っているんじゃないんだ。ただ貴族なら家着にとどめておく方がいいよ」
パトリーシア嬢も同意である。
「そ、そうなのか」
カタリナ嬢が恥ずかしそうにする。
ルミヤルヴィ嬢もだ。
「二人の実家の領地ならそれでいいかもしれないよ。けど、王都では少し場違いだからね。普段着についても用意しておいた方がいいね」
「……たしかに」
二人は基本的に学園の制服である。
訓練のときはそれ用の服に着替えるのだ。
そして――寮の中にいるときも楽な訓練着を着ている。
「服っていうのは着慣れていないとダメだからね。その様子だと二人は寮の中だと訓練着かな?」
ニヤッとするセロシエ嬢だ。
まるっとお見通しのようである。
「それを咎めているわけじゃないからね。ただ将来のことを考えると……」
少し含みをもたせるセロシエ嬢だ。
「そこはもう二人にも話してあるです!」
大人しくお茶を飲んでいたパトリーシア嬢が口を挟んだ。
「さすがパティ。話が早くて助かるよ」
「確認するまでもなく、薔薇乙女十字団の進路は全員一致なのです!」
だろうね、と軽やかに笑うセロシエ嬢だった。
「さて、少し話を戻そうか」
セロシエ嬢がお茶を飲む。
固まっているカタリナ嬢とルミヤルヴィ嬢にも勧める。
「ざっくり説明するとね。基本的に貴族の女子っていうのは外にでるときはドレスを着る。まぁニネットとかプロセルピナとかあたりは、王都風の平民の服を着ていそうだけど」
こっちもまるっとお見通しだ。
さすが参謀である。
「何回も言うけどさ、それが悪いってわけじゃない。ただ上位貴族としての価値観からは外れているってことね。ただ問題はリー様の配下になるってことは、それだけの品格が求められることなのさ」
ふむふむ、と頭を上下させるカタリナ嬢とルミヤルヴィ嬢だ。
「なので、午前中の時間を使って、うちと取引のある商会から服を取り寄せておいたから。色々と試してみよう」
「え? 今から?」
コクンと頷くセロシエ嬢だ。
実にいい笑顔をしている。
「お嬢様、ご用意ができました」
ナイスなタイミングでオーピオス家の侍女が入ってきた。
「さ、行こうか」
と、四人はサロンを出るのであった。
そこは衣装部屋というには広い部屋だった。
もはやお店かというくらい服が並んでいる。
あっけにとられている二人だ。
そんな二人を尻目にパトリーシア嬢は服を検分している。
「ここにあるのはボク用にあつらえてあるものだから、パティには少し大きいだろうね」
「それは仕方ないのです! でもいい感じの服がたくさんあるのです」
パトリーシア嬢も目移りするくらいだ。
ガーリィな感じの服が好きなのである。
「うちの領都は商業都市だからね。色々と入ってくるんだよ」
「セロシエがいま着ているような服はあるのです?」
「あるよ。ただこの衣装はリー様の真似をさせていただいたんだ。もちろん許可を得てだけどね」
「あーなるほど。なら流通していないわけなのです」
「うん。流通させてないもの。ボクが着るように作ってもらっただけ」
上位の貴族ならではの会話である。
ちなみにだが王国では、新品の既製服というものがない。
あれは産業革命によって生産力が大幅にあがることが条件だから。
基本的に王国では生地屋で布を買う。
そして、隣接してある仕立屋で服を作ってもらう流れだ。
ちなみに平民の間では中古服という既製品がある。
服というのは資産の一部でもあるのだ。
カタリナ嬢とルミヤルヴィ嬢の二人は、さすがに中古服を買うことはない。
ただ生地屋で生地を買い、仕立屋で服を作ってもらうことが多いのだ。
こうして凝った意匠の服など大量に見たことがない。
だから完全に言葉を失っていた。
どうしていいかわからなくなった二人にセロシエ嬢が声をかける。
「とりあえず、ドレスから選んでいこうか」
夜会用のものとお茶会で着る用の二つだ。
「二人はボクと体型が似ているから、たぶん直しも少なくてすむはずだから」
お茶会用のドレスと、夜会用のドレスを選ぶ。
どちらも二人の体型をいかしたスマートなものだ。
「こ、これがドレス!」
まるで戦闘服かなにかのような言葉を漏らすカタリナ嬢だ。
「あら、かわいらしいわね」
ルミヤルヴィ嬢が漏らす。
カタリナ嬢は意外とドレスが似合っていたからだ。
「そういうルミヤルヴィこそ」
二人がお互いに褒め合っている。
「うん……いいんじゃないかな。どこかキツいところとかある?」
「胸がキツい」
カタリナ嬢とルミヤルヴィ嬢の一言に、がくりと膝をつくセロシエ嬢だ。
そう、セロシエ嬢はスレンダーなのである。
グラビアみたいな恵体ではない。
同じモデルでも、ちょっとした違いがあったのだ。
「これだから山の民は、なのです」
パトリーシア嬢がセロシエ嬢の肩をポンポンと叩く。
やはり山の民とは相容れないようである。




