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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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外伝ー08 おじさんと侍女が初めて出会った日のこと


 おじさんの傍らには常に一人の侍女がいる。

 サイラカーヤ・フィスキエ。

 

 その姿は多くの絵画にも描かれているほどだ。

 リー様を語るときに、彼女は決して欠くことができない人物だろう。

 

 後世でもその名は広く知られている。

 リー様の右腕として。

 

 そんな侍女が侍女になったのは冒険者に飽きてきた頃だった。

 

 ――学園の問題児。

 そう呼ばれる人物は偶にでてくる。

 

 中でも有名なのは女帝と異名をとったおじさんの母親だ。

 しかし、遡れば王族一の問題児ハリエット……おじさんの祖母もいる。

 

 そんな中の一人がサイラカーヤであった。


 学園長だろうが、気に入らなければ挑む。

 男子生徒はボコボコにする。

 

 対校戦では相手を再起不能に追いこむ。

 まぁやりたい放題だったわけだ。

 

 そんな侍女は学園を卒業した後に冒険者となった。

 基本的にはパーティーを組まないソロである。

 

 人数が必要な依頼では助っ人をすることもあった。

 だが、かたくなにどこかのパーティーに所属することはなかったのだ。

 

 なぜなら本質的な部分で、合わないと思っていたから。

 

 冒険者というのは名ばかりである。

 冒険をする者は上には行けないのだ。

 なぜなら死んでしまうから。

 

 自分の力量と依頼の難易度。

 ここを見誤ってしまうとリスクが増す。

 

 冒険者とは仕事である。

 趣味の世界ではない。

 

 だからこそ堅実な者が生き残るのだ。

 

 確かに勉強になることは多かったと思う。

 ただ、本質的に侍女はそうした冒険を好むたちなのだ。

 

 それは自らに才能があったということも大きいだろう。

 しかし周囲とは、どこかちがうという思いが常にあったのも事実だ。


 金級の冒険者にまで成り上がった侍女。

 ただ、どこかで空虚な思いを抱えていたのである。

 

 久しぶりにと王都にある実家に顔をだした侍女。

 もう既に二人の姉は結婚して家をでていた。

 次兄も家をでて、今は王都で衛兵をしているらしい。

 

 実家には長兄とその奥さん。

 そして甥っ子がいた。

 父親と母親も。

 

 二日ほどいて、さてどうするか、と侍女は思った。

 そんなときに母親から聞いたのが、カラセベド公爵家の侍女募集である。

 

「なんでもお嬢様のお付きになる侍女候補を探しているそうよ」


 母親の言う言葉は、あまり侍女の耳に入ってこなかった。

 ただ――カラセベド公爵家と言えば、ヴェロニカ様がいるのかと思う。

 

 なにかと比肩されることが多かったからだ。

 同じ問題児として。

 

 だから――侍女は会えないだろうけど、少し行ってみるかとそんな気持ちで公爵家の侍女募集に応募したのである。

 

 腐っても軍務系貴族の三女。

 身元が確かで、金級の冒険者という肩書きは大きかった。

 

 侍女は公爵家のタウンハウスへと呼ばれて――出会ったのだ。

 おじさんに。

 

 御年八歳のおじさん。

 ものすごい美少女だった。

 この世の中のかわいいを煮詰めたらできあがったみたいな。

 

 おじさんは庭で騎士を相手に戦っていた。

 いや、稽古をつけていたという方が正しいだろう。

 なにせ騎士の誰一人として、おじさんについていけないのだから。

 

 それを見て、侍女は少し疼いた。

 面接にきたはずだが、どうでもよくなったのだ。

 

 騎士たちに近づいていく。

 が、さすがに警戒態勢はといていなかったらしい。

 

 騎士たちはおじさんを後ろにして、侍女を威圧する。

 が、そんな威圧など侍女には効果がない。

 

「失礼。私はサイラカーヤ・フィスキエと申します。本日は侍女の件で伺ったのですが、先ほどの訓練を拝見しまして」


 冒険者のタグを見せる侍女だ。

 本人と確認できる状況である。

 

「ほう……金級の冒険者」


 護衛騎士の隊長であるゴトハルトだ。

 

「ええ……参加させろとは申しません。少し拝見してもよろしいですか?」


 少し逡巡してから頷くゴトハルトである。

 

「よろしい。ただし、そちらへ」


 と、離れた場所を指定する。

 なにかあっても騎士たちが対応できる距離だ。

 

「承知しました」


 と、侍女が下がろうとしたときだった。

 

「あなたは金級の冒険者ですの?」


 おじさんだった。

 騎士たちの前にでてきて言ったのだ。

 

「ええ。そうです」


 にこりと微笑むおじさんだ。

 侍女も釣られて微笑む。

 

「むふん。いいでしょう。手合わせをしましょうか」


 小さなおじさんは、ふんすと鼻を鳴らした。

 

「いいのですか?」


「わたくしがいいと言っているのです」


 にやっと笑う侍女だ。

 なんだかとっても懐かしい気分である。

 かつての自分もこうだったのだろうか。

 

 今日は装備をつけてきていない。

 と言っても、護身用の武器くらいは身につけているが。

 

 それらをすべて騎士に預ける。

 

「では、ご指南をお願いします」


 互いに素手。

 侍女は半身になって構える。

 

 瞬間、おじさんが姿を消した。

 だが、侍女は見失ったわけではない。

 

 しっかりと目でその姿を捉えていた。

 おじさんは後ろに回っている。

 

 即座にその場から回避する侍女だ。

 

「うん! いいですわね!」


 おじさん、ニッコリである。

 

「さすが、やりますわね!」


 侍女もニッコリだ。

 

 騎士たちは唖然としていた。

 初見であれを回避するか、と。

 

 そこから侍女とおじさんの組み手が始まった。

 

 侍女は思う。

 楽しいと。

 こんなに小さな子なのに、自分のすべてを使っても届かないのだ。

 

 父や兄たちもこんな気分だったかもしれない。

 いや、ちがうか。

 悶絶していただけだもの。

 

「いいでしょう。理解しました。では、次の一撃を防いでみてくださいな」


 ゆらりとおじさんの身体が揺れた。

 次の瞬間、おじさんが懐にいたのだ。

 

 ギリギリで回避しようとする侍女。

 しかし、おじさんの追い足はいともたやすく侍女を追尾した。

 

 無理な回避のせいで体勢が崩れる侍女。

 そのお腹にピタリとおじさんの手があたった。

 

「これを覚えてくださいな。もっと戦い方に幅ができますわよ」


 ――無寸勁。

 どん、と衝撃が走る。

 ばたりと仰向けに倒れる侍女だ。

 

 ずきん、とお腹が痛む。

 こんな痛みは初めてだ。

 

 青空が目に入る。

 空は高い。

 

 笑えた。

 心の底から笑えたのだ。

 

 この御方と会うのが運命だった。

 そう思ったのである。

 

「どうしましたの?」

 

 覗きこんでくるおじさんだ。

 侍女は上半身を起こして言う。

 

「私をあなた様の侍女にしていただけませんか?」


「いいですわよ。わたくしもあなたがいいと思います!」


 おじさんが小さな手を差しだした。

 その手を両手で握る侍女。

 

「私のすべてをあなた様に」


「もう。あなた様ではありませんの。わたくしは――」


 この日、侍女は色々とすっ飛ばして侍女になった。

 おじさんの鶴の一声であった。


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