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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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807 おじさんは学生会の面々とコーヒーを楽しむも……


 引き続き、おじさんちのサロンである。

 今日は学生会の面々が顔を見せていた。


「ほう……これはいい香りですね」


 ヴィルがカップを持って香りを確認していた。


 真っ黒な飲み物というのは初めてである。

 王国で親しまれている飲み物は色々とあるが、だいたいはお茶だ。

 その色は茶褐色のものが多い。

 

「香茶とはまたちがった香りだな」


 シャルワールも同意した。

 

「どこか果実のような複雑な香りね」


 キルスティだ。

 

 上級生の三人はさすがにお上品である。

 いきなりカップに口をつけるのではなく、まずは香りから。

 

 そんな上級生をよそに、ミルクと砂糖をドバドバといく蛮族二人。

 ケルシーは既におじさんちで飲んだことがある。

 聖女は前世で、だ。

 

 カップからあふれんばかり。

 なみなみとミルクと砂糖と入れて、かきまぜている。


「ケルシー、あんたわかってるわね?」


「もちろんよ!」


 蛮族たちはいつもどおりだ。

 

 一方で薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)は戸惑っていた。

 なにせ初めて見る黒い飲み物だ。

 

 まずは眺めていたのである。

 さらに、コーヒーとともにだされたお菓子だ。

 こちらはガトーショコラである。

 

 おじさん、おすすめの組み合わせだ。

 濃厚なチョコレートの風味が、よりコーヒーを引き立ててくれる。

 

「あ、あの……リー様」


 アルベルタ嬢が恐る恐るといった感じで声をかけた。


「ん? どうかしましたか?」


「リー様はその……お砂糖もなにも入れないのですか?」


「わたくしは、そうですわね。なにも入れずに飲むのが好みですわ。ただ、初めて飲むのならお砂糖だけ入れてみてはどうでしょう? それで飲みにくければミルクを入れるといいですわね」


 逆に、とおじさんは指を立てた。


「お砂糖はなしでミルクだけを入れてもいいですわよ。好みにあう飲み方をすればいいのです。ほら……見てみなさい」


 おじさんは蛮族一号と二号の方に視線をむける。

 

「うまうま!」


 もはや黒から薄い茶褐色へと色を変えている。

 ガトーショコラを手で持って、がぶりといく二人だ。


 もちろん汚れた指は、口の中へ。

 ちゅぽんと音を鳴らす二人である。

 

「……あんまりお手本にはしない方がいいですわね」


 おほほと誤魔化すおじさんであった。


「んーお砂糖はあった方がいいのです。ミルクはなしの方が飲み物の香りが損なわれないと思うのです。でも、飲みやすさが段違いなのです」


 しっかりと試しているパトリーシア嬢だ。

 彼女を皮切りにして、薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)たちもコーヒーを楽しみ始める。

 

 あちらこちらでキャイキャイと声があがった。

 

 その様子を見ながら、三人で顔を見合わせる相談役の三人である。

 香りを確かめるだけ確かめて、彼らは様子を見ていたのだ。

 なかなか強かな選択であると言えるだろう。

 

「そう言えば、アリィ」


 と、おじさんがアルベルタ嬢に声をかける。

 彼女はお砂糖とミルクをたっぷり派のようだ。

 

「ひゃい! なんでしょう!」


 意表を突かれたのか、声がうわずっているアルベルタ嬢である。

 

「催事については問題ありませんか?」


「今のところは滞りなく。リー様のご指示どおりに対応しております。ただ……やはり不安は拭えませんわ」


 しゅんとなってしまうアルベルタ嬢だ。

 彼女たちはよくやっていると思う、おじさんである。

 ただ、やはり自分たちだけで事を進めた経験がない。

 

 その点が不安なのだろう。

 

「遠慮なく相談役の先輩方を頼りなさいな。わたくしは今回はこの有様ですから協力できそうにありません」


 と、ブラックのコーヒーを飲むおじさんだ。

 残念ながら今のところ、学生会の面々はブラックでは楽しめないようだ。

 

「そんな! 私は……いえ、私たちは思っていたのです」


 アルベルタ嬢の言葉を継いだのがニュクス嬢だ。

 

「リー様に少しばかり頼り過ぎていましたわ。リー様にお任せしていれば問題ないと高をくくっていたのです」


 さらにニュクス嬢の後を継いでセロシエ嬢が口を挟む。

 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)の参謀を自認するガチ勢だ。

 

「そのとおりですわ。リー様が抜けられるとこうも脆いものかと実感しておりましたの」


 狂信者の会であるイザベラ嬢も参戦してくる。


「同意します。私たちはリー様に頼らずとも、できるようにならなければいけません。そうでなければお側に侍っている意味がありませんもの」


 彼女たちの意見に他の面々も同意のようだ。

 コクコクと頷いている。

 

「なるほど……皆の気持ちは理解しました。ですが……焦らずともいいのですよ。わたくしたちは一年生なのですから、先輩方のお力を借りればいいのです。なんならバーマン先生も巻きこんでしまえばいいでしょう。それに……失敗しても問題ありませんわ」


 と、おじさんが皆を見る。

 蛮族一号と二号は話を聞いていないが想定内だ。

 

「わたくしが会長なのですから、わたくしがすべての責任をとります。あなたたちは思うがままに、力を振るってくださいな。ね?」


 はきゅううん!

 

 誰もが声にはださないが、胸を撃ち抜かれてしまった。

 なんて頼りがいがあるのだ、と。

 狂信者の会は目がハートマークになっている。

 

「……やっぱり、すごいわね」


 キルスティが口にだして言う。

 おじさんの先ほどの言葉である。

 

 仮に自分が同じ立場に立ったとして同じことが言えるだろうか。

 たぶん、無理だ。


 自分なら成功させることに躍起になるだろう。

 そんなことを考えるキルスティだ。

 

 自由にさせて、その上で責任だけをとる。

 なんてことは、なかなか言えるものではない。

 

「キルスティ。会長と比べてはいけません」


 ヴィルだ。

 聞きようによっては酷い言葉である。

 が、悪意をもってその言葉を発したのではない。

 

 彼らも十分に理解しているのだ。

 おじさんが規格外だということを。

 だから――キルスティも悪くとることはなかった。


「だからと言って、会長に恥をかかせていいわけないよな」


 シャルワールが口を開く。

 

「できるだけあいつらに任せてやらせてみようってことだったけど、もう少し力を貸してやってもいいんじゃねえの?」


「そうですね。これで少しは遠慮がなくなるといいのですが、今回は会長の名誉がかかっているのです。こちらから手を差し出しますか」


 ヴィルが同意した。


「そうね。あの子たちも基本的なことはできてはいるんだけど、やっぱり経験不足っていうのは否めないから。リーさんの顔に泥を塗るような真似はできません」


 相談役の先輩たちにも火が点いたようである。

 催事まではもうほんの数日しかない。

 その短い期間でも、十分なものにするだけの土台はできているのだ。

 

 あとは細部の調整である。

 そのくらいならなんとかできるだろう。

 

 三人はそう思っていた。

 今年の一年生はスペックが高い。

 が、それだけで仕事ができるということでもないのだ。

 

「ちょっと! あんた、大丈夫なの?」


 聖女が叫んだ。

 見れば、ケルシーがむぐぐと言いながら顔を真っ赤にしている。

 フォンダンショコラを喉に詰まらせたのだろうか。

 

 どんどんと胸を叩いている。

 だが、喉をとおっていかないようだ。

 

「ほら、飲み物で流しこみなさいよ!」


 聖女がケルシーにカップを渡した。

 コーヒーが入ったものだ。

 

「……むぐぐ」


 まだ流れていかないようだ。

 

 こういうときはハイムリック法だと、なにかの本で読んだおじさんだ。

 むろん前世での話である。

 

 素早く動いてケルシーの後ろに。


「ちょっと場所を空けてくださいな」


 と指示をだすおじさんだ。

 ケルシーを椅子に座らせたまま、後ろへと下がる。

 

 おじさんが背中側から両脇に腕をとおして、ケルシーのお腹のところに手を当てた。

 お腹と密着する側は拳を作って、親指側はおへそに。

 

 準備完了だ。

 

「はいやー!」


 おじさんが素早く腕を引く。

 

「うべえ」


 ケルシーの口から、それはそれは大きくて、きれいな虹が噴射されたそうである。

 

 素直に背中を叩いておけばよかった。

 魔法で後始末をしながら思うおじさんだった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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