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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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711 おじさん一児の父母となる


 おじさんは意外と父性本能にあふれるタイプだ。

 前世では子や兄弟がいなかった。

 なので、そうした一面が顕在化するケースは希だったと言えるだろう。

 

 もしペットでも飼う余裕があれば、かわいがったはずだ。

 ただ、そうした機会はなかったが。

 

 というか、である。

 そもそもの話。

 

 おじさんは実に恵まれない人生を送っていた。

 そのため正常な人との付き合い方というものが、あまり理解できていない。

 

 基本、おじさんは孤独だった。

 後ろ盾もなにもない人生である。

 そうしたことを考慮すれば、だ。

 

 おじさんの基本的な処世術は嫌われないという方向にシフトした。

 無論、もとよりおじさんが善人だったということもある。

 

 また、やさぐれているような暇もなかったのだ。

 

 ただ本人の特性とシフトした方向の相性がよかった。

 なのでおじさんは人に尽くす。

 

 それが裏目にでてしまうことも前世では多々あった。

 世話を焼いてしまうのだ。

 

 特に結婚をした当初はそうだった。

 恋だとか愛だとかのない結婚ではあった。

 が――少なくともおじさんは好かれようとしたのである。

 

 そうした性質は今生になっても変わっていない。

 おじさんはおじさんなのだ。

 

 いかに超絶美少女となろうともおじさんなのである。

 ただ今生の家族のお陰で多少はマシになったかもしれない。

 

 両親や弟妹たち、それに家令や侍女長。

 侍女や従僕などの使用人たち。

 

 カラセベド公爵家の家人たちから大きな影響を受けているのだ。

 

 そして、今。

 おじさんは炎帝龍に対して、その隠されていた父性を発揮しようとしていた。

 

「んーかわいいですわね」


 西洋型ではない、東洋型の龍である。

 その身体をおじさんに絡ませ、ペロペロと頬をなめていた。

 親愛の情を示しているのだろう。

 

 考えてみれば、当然のことかもしれない。

 炎帝龍の肉体そのものの作り替えたのはおじさんだ。

 そして外なる神に憑かれた魂を解放し、新たなる肉体に宿らせたのも。

 

 となると、だ。

 おじさんが母親だと言っても過言ではないだろう。

 

 それは天上にておじさんを見守る、かの女神にとっても同じであった。

 もちろんかの女神にとっては喜ぶべき点は他にもあったのだが。

 そこはまた別の話だ。

 

 結果、炎帝龍に神罰を要求したトリスメギストスは、まさにやぶ蛇だったわけである。

 

「お名前をつけないといけませんわね」


 んにゅにゅと考えるおじさんだ。

 原則として東洋型の龍というのは名を持たないことが多い。

 

 有名どころで言えば、東西南北を守る四神。

 その中でも東方を守護するのが青龍である。

 

 この四神の長であり、中央を守護するのが黄龍だ。

 他にも応龍あたりは有名だろうか。

 

 これらは種族名でもあり、個体の名前ではないとも言える。

 

 では西洋ではどうか。

 西洋でも原則として竜に名前がないと考えていいだろう。

 

 例えば火を司る竜のことは、ファイヤー・ドレイクと呼ばれる。

 他にも火の精霊であるサラマンドラなんかも有名だ。

 

 そこまで思い出して、おじさんはピコンと閃いた。

 ウアジェトのことである。

 

 コブラの姿をしたエジプト神話の女神だ。

 この女神を象徴化したのが、蛇形記章と呼ばれるものである。

 ファラオの王冠についているアレだ。

 

 この蛇形記章のことをウラエウスと言う。

 東洋型の龍ではあるが、こちらの世界なのだ。

 

 ちょうどいいかもしれない。

 そんなことを考えるおじさんであった。

 

「ウラエウス、あなたのお名前ですわ」


 だから気軽に名付けをしてしまう。

 それは神獣との新たなる絆でもあった。

 

 ぺかーと炎帝龍が光る。

 姿形は変わらないものの、より懐いてしまうのであった。

 

「トリちゃん!」


 おじさんは使い魔を見る。

 まだ煙をプスプスとあげているのを確認して、そっと送還するのであった。


「リー、しばらくはその子を預かっておいてくれないか?」


 ミヅハである。


「もちろんですわ。ですが炎帝龍としてのお仕事もあるのでは?」


「ああ、ないとは言えない。が、それは精霊たちでどうにかする。と言うか、今までもそうしてきたしな」


 ミヅハの言葉も当然だろう。

 なにせずっと封印されていたのだから。

 

「その様子だとしばらくはそのままだろう。リーの魔力を与えてやっていればいい。いずれは魂魄と肉体がなじんで炎帝龍へと戻るはずだ」


「承知しました。では、わたくしがお預かりしましょう」


 にっこりと微笑むおじさんであった。

 そんなおじさんにぎゅうと巻きつく炎帝龍である。

 

「魔力を食べますか?」


『た()る』


 どこか舌っ足らずな言葉遣いが愛らしい。

 そんなウラエウスを見ながら、おじさんは魔力を与えてやる。

 

 いかに魔法を使おうと尽きることがない。

 今もかなり吸われているように思う。

 が、実感が伴わないのだ。

 

 ほんの数分だが、おじさんから魔力をもらった炎帝龍である。

 満たされたのだろう。

 

『くああ』


 と、あくびをもらして、おじさんの腕に巻きついたまま寝てしまった。

 ふふ、とおじさんは笑みを漏らす。

 かわいいと思ったのだ。


 さて、どうするかと思考を切り替える。


「あ! そういえば」


 おじさんは思い出した。

 霊山ライグァタムの道中で見つけた果実のことである。

 

「こちらの果実、鬼人族の里では特別なそうですわよ」


 宝珠次元庫からルビーレッドの果実を取りだすおじさんだ。

 

「きゃあああ!」


 いきなりテンションを上げたのは闇の大精霊ヘカテイアであった。

 これまでの静かな雰囲気から一変したので、驚くおじさんだ。

 

「久しく食べておられなかったのでしょう? 今、お切りしますわね」


 と、おじさんが言った瞬間であった。

 

「だ、だめえええ! この果実は切っちゃダメなのよ」


 慌てて止めに入るヘカテイアだ。

 

「この果実はね」


 と、言いつつヘカテイアがおじさんの手からひとつ果実をとった。

 

「こうするの!」


 がぶり、とそのまま口をつけた。

 しゃくといい音がして、果汁が口の中にあふれる。

 その甘さに目尻を限界以上に下げる闇の大精霊であった。

 

「おいしーいいいいいいい!」


 その様子を見て、笑い声をあげる大精霊たちであった。

 

「はうあ!」


 笑い声で目が覚めたのだろう。

 アウローラが声をあげた。

 

「はれ? リーちゃん?」


 キョロキョロと辺りを見回すアウローラ。

 そして事態を察知する。

 

「あのぅ……」


 ミヅハの背から降りる。

 そして、伺うようにして聞く。

 

「外なる神は? リーちゃんの大活躍は?」


「……もう遅い。ぜんぶ終わった後だ」


「?????」


 アウローラは首をかしげる。

 

「聞こえないふりをするな」


「そうよ、アウローラが悪いんじゃない。余計な一言をいってお母様を怒らせるから」


 水と風の大精霊から詰められるアウローラだ。


「…………」


 クッと膝をつく。

 

「あァァァんまりだァァアァ! あァァァんまりだァァアァ!」


 地面をたたきながら、滂沱の涙を流すのであった。


 そう。

 アウローラは見たかったのだ。

 大好きなおじさんの活躍を。

 

 だが――けっこう早い段階で気絶してしまった。

 調子にのって失言したから。

 

 そのことを悔やみながら、アウローラは地面をたたくのであった。


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