679 おじさんのスピード解決には定評がある
岩窟の中である。
二人の蛇人が頭をあげた。
おじさんが作った蛇人型のゴーレムとは少し見た目がちがう。
あちらよりも造詣そのものがスッキリしている。
シャープになったと言えばいいだろうか。
「お初にお目にかかります神子様」
純白の貫頭衣をきた蛇人たちの右側の者が口を開いた。
「蛇人の巫女を務めております、マ・モザと申します。こちらは私の補佐となるグリヴ=オです」
「わたくしはリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワですわ。こちらは、わたくしのお父様とお母様です」
自己紹介を済ませたところで、二人の蛇人が立ち上がった。
「席を設けておりますので、御案内いたします」
正直なところ、おじさん蛇人に見分けがつかない。
だって顔が同じなんだもの。
たぶん今、話していたのは従者のグリヴ=オだと思う。
蛇人たちが先を歩き、岩窟をでた。
転移陣のあるドーム状の部屋から通路を抜ければ、すぐに岩窟の外だったのである。
そこは長閑な村だった。
ただ、寂れている。
石作りの家はあるものの住人の姿が見えない。
いや、それだけならいい。
だが声が聞こえてこないのだ。
村に人がいる気配がない。
山の斜面に集落があるのだろう。
坂道を下って、上って、少し行くと四阿があった。
これも石作りのものだ。
既にテーブルの上には飲み物らしき瓶と杯が置かれていた。
「あちらへ。お願いいたします」
また従者のグリヴ=オが口を開く。
四阿に案内されて席につくおじさんたちだ。
石作りの座台は冷えるかもしれない。
そこで蛇人たちに断ってから、母親のために敷物を敷くおじさんだ。
「粗末なものですが、我が里で親しまれている茶になります」
瓶から杯に注がれたのは真っ黒な液体である。
少し湯気がでているが、飲みやすそうな温度だ。
ただ見慣れないものだけに口はつけづらい。
「やはり見た目に驚かれてしまいますか。我らの間ではヒーチェリと呼ばれる果実がありまして。その果実の種を炒った物を煮出しております」
巫女のマ・モザが説明を加える。
そして毒がないことを証明するように、先に口をつけた。
おじさんは興味津々である。
杯をもって、スンスンと匂いを嗅いでみた。
「あ!」
思わず、声がでていた。
そしておじさんの表情が緩む。
なぜなら――おじさんが探していたもののひとつ。
珈琲の香りがしたからだ。
「リー?」
父親がおじさんの反応を訝しむ。
おじさんは父親に構わず、杯に口をつけた。
香りが薄い。
味も薄い。
だが独特の苦みと酸味。
まちがいなく珈琲であった。
確か豆から煮だしたと言っていたはずだ。
粉にせずに、そのまま煮出したのだろう。
「にゅふふ……」
つい、悪い表情になってしまうおじさんであった。
ただ珈琲の話は今するべきではない。
まずは蛇人たちの話を聞かなければ。
「ふむ。いいですわね。あとでこの豆をわけてほしいですわ」
「……ほおん」
母親がおじさんを見て微笑む。
また何かしら思いついたのだろう、と。
だから興味がわいた。
少し杯に口をつけてみる。
味わったことのない酸味と香りに、顔をしかめる母親であった。
「お母様、あまりお腹の子によろしくはありませんので、少しだけにしておく方がいいですわよ」
「うん。そうする」
そんな母親に苦笑をうかべながら、どれと口をつける父親だった。
父親の方は嫌いじゃなかったらしい。
「さて、先に本題を片づけてしまいましょうか。マ・モザでしたか、わたくしに何の用なのです?」
おじさんの言葉にマ・モザが胸の前で手を組む。
それが蛇人の作法なのだろうか。
「私たち蛇人なのですが……実は滅びる寸前なのでございます。というのも我ら二人、そして転移陣にて説明に行った三人の五人しか残っていません」
いきなり種族滅亡とか重すぎないか、と思うおじさんだ。
マ・モザがそのまま話を続ける。
「我らも滅びを受けいれるつもりではあったのです。今さらどうしようもなかったのですから。外部との接触もない集落ですので、ひっそりと消えて行こうと」
ふむ、と頷いておじさんが先を促した。
「ですが、つい先ほど蛇神様から私にお告げがあったのです。滅びを避けられるかもしれない、と。急ぎ転移陣を起動させれば、神子に会えると。それで……」
最後は口ごもるマ・モザだ。
神子だからといってどうにかなるものではない。
だって人口減少の行き着く先なのだから。
おじさんは思いだしていた。
聖女の従兄が蛇人は太古の蛇神に仕えていた一族だと言っていたことを。
「ふむ。そうですか。お聞きしたいのですが蛇神様というのは、どのような神様なのです? 蛇神の信奉者たちという者たちは聞いたことがありますか?」
「先に後者からお答えしましょう。私たちは蛇神の信奉者たちという者たちを知りません」
でしょうね、と頷くおじさんだ。
やっぱり聖女の従兄が巻きこんだだけである。
とんだとばっちりだ。
「蛇神様というのは我ら蛇人がお仕えしていた神ということくらいでしょうか。今も我らをお守りいただいております」
蛇神というのも特になにかあるわけではなさそうである。
「承知しました。では、わたくしが解決いたしましょうか」
バベル、とおじさんが指を鳴らす。
狩衣姿の偉丈夫が姿を見せた。
「話は聞いていましたか?」
「もちろんでおじゃる。我が手の者をこちらへ呼べばいいのでおじゃるな?」
コクリと首肯するおじさんだ。
蛇人の二人は急展開に頭が追いついていかないようである。
口をあんぐりと開けたままだ。
「こい!」
バベルがパンと手を打ち鳴らす。
召喚陣が一瞬で発動して、バベルたちの下働きをしている蛇人ゴーレムが姿を見せた。
「はああああああん!?」
グリヴ=オの方が声をあげた。
彼らとはほんの少し見た目がちがう。
が、立派な蛇人であったからだ。
「お呼びでしょうか?」
バベルの前で跪く、おじさん製の蛇人である。
「マ・モザ、グリヴ=オの二人に確認……いえ蛇神様、お聞きになっているのでしょう? 彼らはマ・モザたちの同朋と呼べるべき存在でしょうか?」
おじさんの言葉に目を見開いたのは両親だ。
そんなあっさりと神を呼ぶなんて。
だが――おじさんは軽々と二人の予想を超えていくのだ。
「あ……あ……」
声にならない声をあげる巫女のマ・モザだ。
身体がガクガクと震える。
そして、神威の光がマ・モザの身体を包んだ。
「同朋である……神子よ、頼む」
短い言葉を残して、神威の力が消えていく。
がくり、と力が抜けて、テーブルに突っ伏すマ・モザだ。
「グリヴ=オ。聞いていましたね?」
「ははー」
四阿の席から転げ落ちるように両膝をつくグリヴ=オ。
その眼差しは完全に畏敬すべきものを見るものだった。
おじさんは思っていた。
トリスメギストスが言った特殊なゴーレムの製造方法。
あれは間違って伝わっていたのだ。
特殊なゴーレムは蛇人のことであったのだ。
無論、誰もがかんたんに錬成できるものではない。
おじさんの底抜けの魔力と、チートの域に達した錬成魔法があってのことなのだ。
「トリちゃん!」
おじさんが使い魔を喚ぶ。
今度はトリスメギストスの出番だからだ。
『うむ……主よ、どうにも面倒事に巻きこまれたな。あちらの転移陣にも姿を見せた蛇人から理由を聞いた』
「ああ。トリちゃん、以前の特殊ゴーレムですが」
と、おじさんはバベルの前にいる蛇人に目線をやる。
それだけでも意思が通じてしまう、いいコンビなのだ。
「あれは太古の蛇神様に仕えた一族を作るためのもの。先ほどご本人に確認をとりましたので間違いありませんわ」
『……本人に確認?』
突っ伏している蛇人を見て察するトリスメギストスだ。
『特殊なゴーレムではなかったのか。ふむ、これは情報を改める必要があるな。主よ、感謝する』
トリスメギストスを見て、ニコリと微笑むおじさんであった。
『さて、主よ、やるのか』
「むしろ、やらない理由がありません。トリちゃん、素材を用意してくださいな!」
『うむ……まぁほどほどにな』
だが、おじさんは手加減するつもりはない。
だって神様公認の案件なのだから。
おじさんの前に素材がならぶ。
ヘビの素材はかなり減らしたと思っていたおじさんだ。
だが、まだまだあったようである。
「いきますわよ! トリちゃん!」
『任せよ! 我が最大効率で手助けする!』
「はいやああああああ!」
おじさんが錬成魔法を使った。
ビカビカっと光が迸る。
その数瞬後のことだ。
おじさんの前に、蛇人たちが跪いていた。
その数はパッと見たところ百人単位でいそうである。
「まぁ素材の関係上、こんなものですか」
むふん、と鼻息を吐くおじさんだ。
『うむ……まぁ主だからな』
「なんですの、その言いようは!」
ぷんすこ怒るおじさんであった。
マ・モザは依然として、意識を失ったままだ。
そして、グリヴ=オもおじさんの神業を見て、気絶していた。
「ヴェロニカ……うちの娘、すごいね」
「そうねぇ。ふふ……私も蛇人が作れるかしら」
父親と母親の二人は顔を見合わせて笑った。
結局、蛇人の問題も解決してしまったのだから。




