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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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659 おじさん不在のイトパルサで一件落着する


 暗黒三兄弟(ジョガー)のアジトである。

 既に陽は落ちた。

 灯りの魔道具が室内を照らしている。

 

 四人は食事を終えて、ゆったりと酒を楽しむ時間に入っていた。

 ちなみに元妖精女王は姿を隠したまま、部屋の中にいる。


「ふひひひ……楽しみにしてたんですよ」


 ガイーアが小さな酒樽をなで回しながら奇妙な声で笑った。

 もはやお巡りさんが呼ばれる事案だ。

 こいつです、と。

 

 でも、ここにはお巡りさんはいない。

 よって事案にはならなかった。

 ただマディはゴミでも見るような目つきになっていたが。

 

「いいから、さっさとテーブルの上に置きなさいよ」

 

「へいへい。待っててねー、ルビアちゃん。おじさんがこじ開けてあげるからねえ」


 やっぱり事案である。

 気持ち悪いことこの上ない。

 

 そんなガイーアから、酒樽をとりあげるマディであった。

 

「貸しなさいよ! さっさと開けて飲むわよ!」


「ああ!」


 ガイーアが、無情なと悲哀の声をあげる。

 そんな声を無視して、さっさと開栓するマディであった。

 

「ほら、杯をだしなさいな!」


 四つの木製の杯に均等にお酒を注いでいく。

 

「じゃあ、改めて乾杯しましょう!」


 かんぱーいと声が響く。

 いきなりグビグビといく暗黒三兄弟(ジョガー)の三人。

 一口で半分くらい飲んでしまう。

 

「ぷはぁ! やっぱ美味えな、この酒は!」


 クセと甘みのあるルートビア風のお酒である。

 それを殊の外、この四人は気に入っているのだ。

 

 だが――実際は元妖精女王が薄めたものである。

 

 ガイーアの言葉に、コクコクと頷くオールテガとマアッシュ。

 そしてマディだ。

 

「ふぅ……相変わらず美味しいわね!」


 その言葉を聞いて、腹を抱えて転がる元女王である。

 あいつら、味をぜんぜんわかってない、と。

 

 それでも声をださない。

 居所がバレてしまうから。

 

「ちょっとあんたたち! もうちょっと大事に飲みなさいよ! そこらの安酒じゃないんだからね!」


 マディが声をあげた。

 だって、暗黒三兄弟(ジョガー)たちは、もうおかわりを注ごうとしているのだから。


「いやいや……だからこそでしょうよ。美味い酒をグビグビっといくからこそ味わえる、至福ってもんじゃねえですか。って言うか姐さんもやってみたらいい」


「……」


 無言でガイーアたちを見るマディだ。

 自分の中の常識では、一気飲みするような酒ではない。

 が――それも悪くないか、と思っているのも事実なのだ。

 

 心が揺れて、揺れて、マディは決意した。

 杯を片手に立ち上がる。


「いよっ! 姉さんのちょっといいとこ見てみたい!」


「うるさいわね! 黙ってなさい! 私だって!」


 グビグビと杯に残った酒を一気に飲み干していくマディ。

 その隙をついて、自分たちの杯に酒を注ぐ暗黒三兄弟(ジョガー)たちであった。

 

「あー! あんたたちズルいわよ!」


「姐さん、美味いものの前には卑怯もズルいもねえんですよ」


 マディが小さな酒樽を奪いとる。

 だが、残りはほんの少しだけであった。

 

「ぐぬぬぬ……」


 残っている酒を杯に移して、舐めるように飲む。

 そして、マディは言った。

 

「表にでなさい! やってやるわ!」


 その時であった。

 どこからかちゅーちゅーとネズミの鳴き声が聞こえてくる。

 

「ネズミ!?」


 さっきまでの怒気もどこへやら。

 完全に竦みあがるマディであった。

 

 本当なら声をだして笑いたい。

 だけど、笑えない。

 

 腹筋がつりそうな勢いだ。

 元女王は腹を抱えている。

 空中を転がりながら。

 

「いや、今のは気のせいじゃねえですか?」


 ガイーアがマディを取りなす。

 というか、今からネズミの駆除なんてやってられない。

 せっかくの酒が不味くなる。

 

 ガイーアに同調するように、残る二人も首を縦に振った。

 

「でも、はっきり聞こえたわよ! ちゅーちゅーって!」


「いやいや……耳をすませてみてくだせえよ。今も聞こえますか?」


「……聞こえないわね」


「でしょう?」


 ちゅーちゅー。

 

「ほら! やっぱり聞こえたじゃない!」


「いやいや、今のはちがいますって。窓が揺れたんですよ、な?」


 オールテガとマアッシュの二人を巻きこむガイーアだ。

 

「ほら……ここは建付けが悪いから音が鳴るでしょうよ」


「でも、たしかにちゅーちゅーって……」


 不安げな表情になるマディだ。


「わかりやした。じゃあ、ちょっとネズミがいるか見てきやすから」


 ガイーアが席を立って、アジトの奥へと入っていく。

 その隙を見て、ガイーアの杯から酒を盗むオールテガとマアッシュ。

 

「……あんたたちねぇ」


 半ば呆れたマディである。

 そんなマディに対して、二人が身振り手振りを使って伝える。


「なに? それ……と、これ……とはべつ?」


 思わず、苦笑してしまう。

 最初はわからなかったが、最近ではわかるようになってきたことに。


「姐さん、やっぱりネズミはいやせんでしたよ」


「……そう。じゃあ続きを……」


 ちゅーちゅー。

 

「やっぱりいるじゃない!」


 その姿が滑稽で、ぶほっと耐えきれずにふきだした元女王だ。

 さすがに姿を隠していても、笑い声をだせばバレてしまう。

 

「ちょ! なによ、今の!」


 状況が飲みこめていないマディだ。

 だが、ガイーアは察しがついていた。

 妖精の仕業だ、と。


「あー姐さん。あの迷惑な妖精がまたきてる……」


「誰が迷惑な妖精よ! この元女王の素晴らしさがわからないなんてね!」


 あからさまな挑発にのってしまった元女王だ。

 ぶぅんと空中で八の字を描くように飛んでいる。

 

「ふふふ……とびっきりのネズミがいたようね!」


「誰がネズミじゃい!」


 マディとにらみ合う元妖精女王だ。

 

「あんたしか居ないじゃない! ネズミの女王」


「きぃいいいい。言ったなああ! あんたたちこそお酒の味もわからない味音痴じゃない!」


「はああ? 意味がわかりませえん!」


 え、の部分を強調して話すマディ。

 それは明らかに元女王のバカにしていた。


「だから味音痴だって言うのよ! さっきのお酒はね、水で薄めたまがいものだって言うのに! なあにが、相変わらず美味しいわ、だ!」


 元女王の指摘に顔を赤くするマディである。

 地味に酒豪を自負する暗黒三兄弟(ジョガー)たちも凹む。

 

「ばーか、ばーか、味音痴ばーか」


 げへへへと言いながら、空中を飛び回る元女王である。

 

「うるっさい!」


「げーへっへっへ!」


 空中を飛ぶ元妖精女王。

 それに手がだせない暗黒三兄弟(ジョガー)たち。

 

 だが――むんずと元女王を掴む者がいた。

 風の大精霊であるヴァーユだ。

 

「げえええ! 大精霊様!」


 大精霊の出現に、自然と跪くマディたち。


「あなたは何度言えば理解できるのかしらね」


「……ち、ちがうンですよ! こいつらが呼ぶから! 女王助けてって呼ぶから!」


「聞き飽きたわね。さて――どうしようかと思ったけれど、ちょうどいいものがあったわ」


 懐から真っ黒な四角い箱をだすヴァーユだ。

 それは魔人ヴァ・ルサーンが作ったとされるまものんボックス。

 隠し持っていたものを、ヴァーユが取り上げたのである。

 

「まものんゲットだぜえ!」


 ヴァーユの口からトリガーワードが紡がれる。

 

「ぎゃああああああ!」

 

 その瞬間、まものんボックスの蓋が開いて、元女王を吸いこんでしまった。

 

「しばらくそこで反省なさい。反省できればだしてあげるわ」


 上級精霊すら封じこめてしまう代物である。

 元妖精女王がどうこうできるものではない。

 

「騒がせたわね。しばらくはあの妖精は姿を見せないから安心なさいな」


 そう残して、姿を消す大精霊である。

 

 マディたちは思った。

 ようやく疫病神から開放されたか、と。

 

 だが――浜の真砂は尽きるとも世に悪の種は尽きまじ。

 元妖精女王は退けたものの、第二、第三の悪の手が伸びるかもしれない……。


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