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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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651 おじさん久しぶりに学園に戻って学園長とお話する


 明けて翌日のことである。

 さすがに婦人会は三日目に突入しなかった。

 

 したかったようだが、夕食を食べた後に渋々帰っていったのだ。

 おじさんからお土産を渡されて、複雑な表情をしていたが。

 遠からず、また遊びにきそうな雰囲気はある。

 

 なにせ“遊戯愛好会”という会まで結成したと聞かされたのだから。

 表向きはおじさんのゲームを楽しむ会である。

 

 大貴族の婦人たち全員を味方につけたおじさんなのであった。

 ちなみに昨夜は遅くまで、侍女の部屋から叫び声が聞こえていたそうである。


 朝日を浴びながら、ゆったりといつものルーティンをこなすおじさんだ。

 今日も秋晴れのいい天気である。

 少しずつ肌寒くなる風が、火照った頬に心地いい。

 

「さて、今日はなにをしましょうかね」


 暢気なことを言うおじさんだ。

 

「内務卿閣下から許可証が降りないと、霊山ライグァクタムにはいけませんし……そろそろエーリカの」


 と言いかけたところで、口を噤むおじさんだ。

 従僕が走ってくるのが見えたからである。

 

「ん? なにかあったのでしょうか?」


 侍女がボソリと呟く。

 

「お、お嬢様。申し訳ありません。ケルシー殿が急に思いだしたと言い出されまして」


「ん? ケルシーが?」


「はい! こちらを!」


 従僕が一枚の紙を差しだす。

 それを侍女が受けとって、おじさんに渡した。

 

 中身はアルベルタ嬢からのものだ。

 そろそろ落ちついてきたので、一度学園にいらしてくださるようにとのことである。

 

 文面的にはケルシーが忘れてしまわないように、しっかりと釘を刺しているものだ。

 ただ……日付がおとといのものになっている。

 

 つまり、昨日はこの紙をもらったことすら忘れていたのだろう。

 

「で、ケルシーはどうしましたの?」


 おじさんが従僕に聞く。

 

「既に学園へと出立されています。本当に出立する直前で、こちらを渡されましたので」


 嫌な汗をかく従僕である。

 ケルシーが適当過ぎるのが悪いのだ。

 従僕は悪くない。

 

「そうですか。承知しました。では準備をして学園に参ります」


 侍女を引き連れて、おじさんは自室へ戻った。

 学園の制服を侍女が用意する。

 

 清浄化の魔法を使って身ぎれいにするおじさん。

 いかに身体から加齢臭ではなく、フローラルな香りが迸ろうともだ。

 そこはちゃんと気にするのであった。

 

「お嬢様、今日もばっちりですわね!」


 制服姿になったおじさんに侍女が声をかける。

 超絶美少女なのだ。

 

「さて、今から行ってもどうせ一限目には間に合いませんので、ゆるりと食事をしてから行きましょう」


 その足でサロンに足を運ぶおじさんだ。

 この時間帯なら、母親もサロンにいる可能性が高い。

 

「おはようございます、お母様」


 サロンに入るなり、挨拶をするおじさんだ。

 

「おはよう……ってリーちゃん、学園に行くの?」

 

 苦笑しながら、おじさんはポケットから紙をとりだす。

 

「ケルシーからの言づてですわ」


 母親は苦笑いをするしかない。


「あの娘も少しはこちらに馴染んできたのかしら。まぁ馴染まなくてもかまわないのだけど」


「さて、どうでしょうね。ですが少しずつ馴染んでいると思いますわ」


 侍女が厨房から朝食を運んできた。

 ブリオッシュに似た甘めのパンとスープ。

 ヨーグルトと果物を少々。

 

 おじさんは燃費がいいので、このくらいの食事量で十分だ。

 他愛のない会話を母親とかわしながら、食事を進める。

 

「あ、そう言えば、お母様。わたくし、学園でなにかしら催し事を開きたいと考えていますの」


「催し事? ああ――それは面白そうね!」

 

 基本的にイベント事が好きな母親である。

 

「でしょう! 今考えているのは、魔法を使った舞台演劇なのですが……」


「魔法を使った舞台演劇! いいわね! うん、絶対に見に行くわ!」


 公開されるかどうかはわからない。

 なんてことは言えないおじさんだった。

 

 まぁ母親ならなんとかするだろう。

 父親もいることだし。


「と言うことで、わたくしはそろそろ学園にまいります。お母様、お身体には気をつけてくださいませ」


「うん。大丈夫よ、ミーマイカもいるし」


 ちらり、と壁際にいる侍女長を見る。

 母親の妊娠が発覚してから、侍女長が側付きとなっているのだ。

 安心である。

 

「頼みましたよ」


 侍女長にむかって笑顔になるおじさんだ。

 そんなおじさんに静かに頭を下げる侍女長であった。

 

「くれぐれも侍女の血を騒がせないように」


 しれっと去り際に爆弾を落とすおじさん。

 

「お嬢様!」


 おほほ、と軽い笑い声を残して学園へとむかうおじさんであった。

 

 学園である。

 登校時間をずらしたことで周囲に生徒はいない。

 

 側付きの侍女を率いて、まずは学生会室へとむかう。

 今から教室に行っても邪魔になるだけだと判断したからだ。

 

 まだ少し授業が終わるまでに時間はある。

 侍女にお茶を淹れてもらったおじさんは、優雅に時間を過ごすのであった。

 

「リー!」


 何日かぶりに教室に姿を見せるおじさんだ。

 ほどよき時間帯を見計らって、戻ったのである。

 

 ケルシーが駆け寄ってくる。

 おじさんの前でくるりと回って、背中を見せた。

 

「ねー! だから言ったでしょう? 今日は忘れないでちゃんと伝えてきたって!」


 一限目におじさんが姿を見せなかったことで、アルベルタ嬢たちに詰められていたのかもしれない。

 小さなケルシーの背中を見て、ついおじさんはその頭に手を伸ばしてしまった。

 

「皆さん、ごきげんよう」


 ニコリと微笑むおじさんであった。

 男子生徒はその麗しさに息をのんでしまう。

 ちょっと時間を空けてから見るおじさんは美麗に過ぎたのだ。

 

「リー様!」

 

 アルベルタ嬢以下が、おじさんの前にならぶ。

 

「お呼び立てをしてしまい申し訳ありません」


 代表してアルベルタ嬢が頭を下げる。


「かまいませんわ。なにか用があるのでしょう? べつになくてもいいですけど」


「先日、学園長から用があると言づてを賜りまして」


「承知しました。では後ほど伺いましょう。久しぶりというほどではないですが、皆が変わりないようで……」


 と、おじさんは気づいた。

 

「あら? エーリカはどうしましたの?」


 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)が誇る二大蛮族の一人、聖女が不在なのだ。

 

「なんでも神殿の方で遠征があるとかで、そちらに従軍しています」


「ほう……百鬼横行(パレード)でも起きたのですか?」


「詳細までは」


 なるほど、と思うおじさんだ。

 ただの訓練ならいいのだけど、ちょっと心配になる。

 

『バベル、ランニコール。どちらでもいいので、エーリカの様子を確認してきてくださいな』


 使い魔に念話で連絡を入れるおじさんだ。


『承知した。では麻呂が参ろう。エーリカとは聖女のことであろう? 麻呂なら顔を知っておじゃる』


『なら、バベルに任せますわね』


 これで万が一の心配はせずにすむだろう。

 ニコリと微笑んで、窓際の自分の席に着くおじさんであった。

 

 放課後のことである。

 おじさんは学生会室にむかわずに、学園長室へと足をむけた。

 

 学生会室に行っても、基本的に暇だからだ。

 おじさんがする仕事がないのである。

 なので、そちらはアルベルタ嬢たちに任せたのだ。


「失礼しますわ!」


 ノックをして学園長室に入るおじさんだ。

 

「おお! リー! 待ちわびたぞ!」


 学園長だ。

 今日も元気なようである。

 

「なにか御用があるとうかがいましたが……」


 学園長に勧められて、ソファに腰をおろすおじさんだ。

 

「うむ。実はの! 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)の演奏をじっくり聴きたいという依頼があってだな」


「ほう! それはどちらからの依頼ですの?」


「うむ。まぁ貴族連中の間で話題になっておってのう。他にも遊戯愛好会とかいう……」


 思わず、おじさんは額に手をやっていた。

 王妃、母親、メイユェにサンドリーヌ。

 

 あのご婦人たちの会だから。

 それにしたっていくら何でも動きが早すぎる。

 

 まさか――あの集まりの前から既に結成されていた?

 そこまで考えて、おじさんは気づく。

 恐らくは対校戦の決勝戦、あのときに結成されていたのか、と。

 

「心あたりがあるのかのう?」


 訝しむ学園長に説明するおじさんだ。

 

「…………ワシ、聞かんかったことにする」


「今さらですわよ、学園長」


 逃げようとする学園長の肩をおじさんが鷲掴みにする。

 

「王妃陛下にヴェロニカが揃っておるのじゃぞ! それにサンドリーヌ

も! メイユェも!」


 なぜ、そんなに嫌がるのか。

 おじさんには逆にわからない。

 

「そもサンドリーヌ様は学園長のお身内でしょうに」


「そうなんじゃが……そうなんじゃが」


 学園長の脳裏に浮かぶのは学園時代の姿だ。

 一人ならば害がない。

 だが――ヴェロニカが絡むと話が変わる。

 

「……ううん」


 渋る学園長である。

 そこでおじさんは切り札のひとつを切った。

 

「学園長。あの魔法を使った演劇……随分と楽しまれていたように思いますが、あれもやろうかと思っていますの」


「ぐぬぬ……卑怯じゃあ。それは卑怯じゃあ、リー!」


 さて、どうします?

 無言の圧をかけるおじさんである。

 

 学園長は欲望を天秤にかけ、おじさんの前に膝を屈したのであった。


カクヨムで掲載していた「いせえふ」をなろうでも公開しました。

もしよろしければ、こちらも読んでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

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