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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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420 おじさん聖女とケルシーに勉強を……


 学園で行われたおじさんの演奏会は鳴り止まない拍手をもって幕を閉じた。

 聖女がボーカルとなり、往年の名曲を十曲ほど歌ったのだ。

 

 お前をお人形さんにしてやろうかあ、と叫んだ聖女。

 それはまるで魔物のようだったと評された。

 

 だが、おじさんの演奏会は薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)内で物議をかもすことになる。

 聖女以外の皆の意見は一致していた。

 羨ましい、の一言である。


 そもそもの話。

 おじさん的には甲子園のブラスバンドをイメージしたのだ。

 選手を音楽で鼓舞したかっただけ。

 他意はない。

 

 偶然(・・)にも聖女が歌い出しただけである。

 

「私も! 私もお姉さまと演奏したかったのです!」


 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)の中で、最も音楽に精通しているのがパトリーシア嬢である。

 魔楽器の演奏についても彼女が主体となって動いていたのだ。

 

 彼女の言うことは、これまでの経緯からもっともだと思われたのである。

 他方で単純に嫉妬している者たちもいた。

 

「次があるから! きっと……たぶん……」


 さすがの蛮族一号もそこは歯切れが悪い。

 なにせ自分たちの領域外のことなのだから。

 

「わかりました! 今からちょっと行ってきます!」


 がたり、と音をたてて立ち上がるアルベルタ嬢。

 彼女とておじさんとの演奏会を楽しみたいのだ。

 

「おいおい。どこに行く気だよ」


 学生会の部屋で同席していたシャルワールが声をかける。

 その暢気な口調にアルベルタ嬢が、ギンと目力の強い視線を送った。

 

「うひぃ。おっかねえ顔すんなよ。盛りのついた猫かよ」


「あ゛?」


 凄烈な鬼気をまとったアルベルタ嬢が一歩前にでる。

 

「今、なんと仰いましたか?」


 おじさんの前で侮辱されたのだ。

 そのことにアルベルタ嬢は激しい怒りを覚えていた。

 たとえ軽口であっても許さない。

 

「あ……いや、なんでもないです。すみません」


 地雷を踏んだことを理解したのだろう。

 シャルワールが素直に謝る。


 それでもなお詰め寄るアルベルタ嬢だ。

 一瞬にして学生会の部屋に緊張の糸が張りつめる。

 

「アリィ。そこまでになさい」


 膝上の黒猫の背をなでながら、おじさんが割って入る。

 その一言で、アルベルタ嬢が退いた。

 

「見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございませんでした」


 おじさんにむかって頭を下げるアルベルタ嬢だ。

 ニコニコとしたおじさんが返す。


「謝罪はシャル先輩に。アリィ、心配いりませんわ。学園長のことです。新しい応援の形だとわかれば許可がでます。それに……こちらにはキルスティ先輩もおられるのです。きっとお口添えをしていただけますわ」


 ね? と念押しをするように、元会長であるキルスティを見るおじさんであった。

 その視線を受けて、キルスティも大げさに頷いてみせる。

 

 ただキルスティであっても、学園長は緊張するのだ。

 曾祖父とひ孫という関係性ではある。

 

 だが、数々の功績を打ち立ててきた偉大な先人なのだ。

 家族であっても気安く話せるとは言いがたい。

  

 安請け合いはしたくないのだが、ここは引きうけるべきだと彼女は考えた。

 だって以後の演奏がなし判断されれば、薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)が暴動を起こしかねないからだ。

 

 だから、キルスティは少し苦い笑いをうかべたのである。

 

「よろしくお願いしますね、先輩。あ、そうそう。ひとつ学園長にお伝えしていただきたいことがありますの。例の件、準備が整いましたとお伝えいただけますか?」


 おじさんの言う例の件とは、天空龍シリーズのことだ。

 ようやく仕様と素材が揃ったのである。

 

「例の件? そう言えば伝わりますのね?」


 さすがに元会長である。

 不用意には踏みこんでこない。

 

「はい。それで伝わります。よろしくお願いいたしますわ」


「承知しました、会長」


 会話が途切れたところで、挙手をする者がいた。

 パトリーシア嬢だ。

 

「そう言えば、お姉さま。衣装も新しい物を作られたと聞いているのです。見たいのです!」


 そう。

 おじさんはゴスロリ仕様を演奏会終わりで制服に戻した。

 

「あ! あれね! アタシも欲しい(・・・)!」


 聖女はさらに一歩踏みこんでくる。

 

「かまいませんわよ。全員、動かないでくださいな」


 おじさんが指をスナップさせて錬成魔法を発動させる。

 その一瞬で全員がゴスロリ仕様の服に変わった。

 女子組から一斉に声があがる。


 王国で一般的に流通しているドレスとはまた異なる衣装だ。

 黒をベースにレースが多用されたものである。

 

「あら? エーリカ、似合いますわね」


「当たり前でしょうが! こちとら乙女の中の乙女である聖女なのよ!」


 アルベルタ嬢と聖女がキャイキャイと騒ぐ。

 他の皆も自分や友人の姿を見て楽しそうにしている。

 

「キルスティ先輩もお似合いですわね」


 目を丸くして驚いていた彼女に声をかけたのはおじさんだ。

 

「そ、そうかしら……」


 戸惑いながらも嬉しそうな表情を隠せないキルスティ。

 眼鏡系のしっとりとした美人さんなのだ。

 似合わないわけがない。

 

 ただ本人としては、途惑ってしまう。

 公爵家の令嬢ともなると、しがらみ抜きの友人を作ることは難しいものだ。

 

 もちろん彼女にだって学園内で話をする同級生もいる。

 しかし、こうして身分の差を感じることなく、皆でわいわいと騒ぐような経験をしたことがなかったのだ。

 

 それはとても居心地がいいものである。

 楽しい、と自然に思えたのは初めての経験だったのだ。

 

「本当なのです! キルスティ先輩はなんだか大人っぽくなったのです!」


 パトリーシア嬢が食いついてくる。

 

「お、大人……」


「うーん。色気があるって感じ?」


 聖女ものってくる。

 

「そ、そうかしら?」


 両手で頬を押さえるキルスティだ。

 綻んでしまうのが止められないのだろう。

 

「パティ。なぜキルスティ先輩は先輩で、お姉さまではないのですか?」


 おじさんがふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「先輩はなんだか先輩って感じなのです!」


 個人の感覚的なものだと納得するしかない。

 思わず、頷いてしまうおじさんだった。


「……ところでリーさん」


 元副会長の一人、ヴィル先輩がおじさんに声をかけた。

 

「なぜ、私たちまでドレスなのでしょう?」


 そうなのだ。

 この部屋にいるのは女子だけではない。

 ヴィルとシャルワールの二人の男子がいるのだ。


 あまり注目されていなかったが、その一言で部屋にいた全員の目が向いたのである。

 

 男子二人も制服をゴスロリ仕様に変えられていた。

 しかも、シャルワールの頭には大きなリボンまでついている。


 筋肉質で短髪。

 ガタイのいいシャルワールの方がお嬢様っぽいデザインだ。

 

 ちなみに話を切りだしたヴィルの方は意外と似合っている。

 細身の優男という外見の影響が大きいだろう。

 

 ぶわははは。

 

 皆が笑った。

 キルスティも腹を抱えて笑っている。

 当事者である二人も笑顔だ。

 

「その方がよろしいかと思いまして」

 

 おじさんも笑顔になりながら答える。

 

「……わざとですね?」


 ヴィルの追及におじさんは首を縦に振る。

 

「楽しいでしょう?」


「否定できませんね」


 と、言いながらも笑顔なヴィルだ。

 その隣にいるシャルワールも作り物ではない笑顔をしている。

 

「ねぇねぇ……」


 ケルシーが聖女の袖を引いた。

 

「どうしたのよ! あんたもこのビッグウェーブに乗りなさいな!」


「明日の試験が心配で……それどころじゃないのよ!」


「わ、忘れてたああああ!」


 聖女の絶叫が(こだま)するのであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

該当箇所の修正をしました。

感謝です!

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― 新着の感想 ―
[一言] >お前をお人形さんにしてやろうかあ、と叫んだ聖女。 >それはまるで魔物のようだったと評された。 >おじさん的には甲子園のブラスバンドをイメージしたのだ。 >選手を音楽で鼓舞したかっただけ。 …
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