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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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407 おじさんのいない聖樹国でケルシーがいきり立つ


 聖樹国の中央にある会議場である。

 そこで月に一度は全氏族の長が集まるのだ。

 全体的な会議をして、聖樹国としての方針を決めていく。

 

 お決まりとなった各氏族からの報告が終わったあとだ。

 その日、最も大きな議題が述べられた。

 

 ケルシーが王国へと留学する件だ。

 既にエルフの中でも母親と同じことを考えている者はいた。

 しかし、その伝手がなかったのだ。

 

 そうした者たちにとっては、ケルシーの話は渡りに船だった。

 一方でそうはすんなりと話が通らないのも事実だ。

 

 ケルシーが行くなら、うちの子でもいいじゃないと話がでる。

 なぜケルシーなのだ、と。

 

 偶然だが、ケルシーはおじさんと知り合った。

 それだけが理由だからだ。

 

 特に本人が優秀であるという話も聞かない。

 それならばうちの子を、となるのも人情だろう。

 

 なにせ王国に留学することになれば、次代における重鎮になるのは間違いない。

 エルフは基本的に権力欲が薄い種族である。

 しかし、まったくないわけではない。

 

 氏族が全体会議の重鎮になることで有利に働く部分もあるからだ。

 そうしたことも含めて、氏族会議は侃々諤々の議論が続いていた。

 

「ねぇ……」

 

 ケルシーが隣にいるクロリンダに声をかける。

 

「どういうことだってばよ?」


 首を大きく横に傾げるケルシーだ。

 その姿は愛らしい。

 だが、残念なのは間違いない。


「……そうですわね。お嬢様以外の人を押しこもうという話です」


「なんで? リーのこと知らないのにお世話になるの?」


「そうですねえ。かんたんに言うと、お嬢様が舐められてるって話です」


「ぬわんですっってええ!!」


 ケルシーは激怒した。

 立ち上がり、拳を握っている。

 

 その声が会議室に響く。

 一斉にケルシーに注目が集まった。

 

「ちょっと! あんたたち!」


 ビシッとケルシーは氏族長たちに告げる。

 

「あたしの何が問題だって言うのよ! 完璧じゃないの!」


 自分で言うことか、とクロリンダは思う。

 だが、ケルシーが舐められるのは彼女にとっても本意ではない。

 だからケルシーをとめることはしないのだ。

 

「っていうか! あたしが誘われたの! この、あ・た・し・が!」


「いや、それは十分に理解しておるよ」


 氏族長のひとりがなだめるように言う。

 だが、ケルシーは止まらない。

 

「うっさい! 理解してないでしょうが!」


 ケルシーの父親であるハルムァジンは額を手で覆っていた。

 我が娘ながら奔放すぎる、と思ったのだ。

 そして、クロリンダにむかってサインをだす。

 

「だいたい、どいつもこいつも……」


 ごちん、とクロリンダがケルシーの頭に拳骨を落とす。

 

「っああああああああ!」


 しゃがみこむケルシー。

 

「おほほ、失礼しました」


 クロリンダが取り繕ってみせる。

 

「うむ。まぁ我らとしても無理に押しこもうとしているわけではない。先方の厚意があってのことだと理解しているのだ。だがなぁ……」


 氏族長の中でも重鎮が答える。

 ケルシーを見ながら。

 

 その表情は明らかに不安を抱いているものだ。

 確かにクロリンダにも理解はできる。

 

 なにせ前例がないことなのだ。

 不安を抱えてしまっても仕方がない。

 

 そして、留学する本人はと言えば、良くも悪くもエルフっぽくはない。

 ここまで自己主張のできるエルフは、重鎮たちの記憶にもないのだ。

 

「まぁお話は理解できます。ただ、ちょっと考えてみてほしいのですよ」


 クロリンダがケルシーに代わって持論を開陳する。

 

「確かにうちのお嬢様に不安を覚えるのは理解できます。ですが、逆に考えてみてください。こんなお嬢様だからこそ友好的な関係を作れるのではありませんか?」


 ほおん、と会議場のあちこちから声が響いてくる。

 その心は、と問われているようだ。

 

「そもそもエルフは慎みが深い種族です。ですが悪く言えば引っ込み思案とも言えるでしょう。未知である王国の学園に通うことはできても、学友と交わるのには時間がかかるかもしれません。ですが、その点お嬢様はどうですか!」


 クロリンダが拳を握った。

 

「御子様に対して過剰に敬うことをせず、呼び捨てにする豪胆さをお持ちです。そして、スルスルと懐に入っていく器用さも合わせ持っているのです! そんなことを誰ができますか! エルフであってエルフでない! 良くも悪くも王国の人間と近い感性を持っているのではないでしょうか」


 氏族長の中で最も年を重ねた大氏族長が頷く。

 

「確かにその言には一理ある。そもそもこの話がきたのは、ケルシーの人柄あってこそのことだろう。ケルシーの留学が上手くいけば、再度王国側と交渉をすればいいのではないか? 定期的な交流を行いたい、と」


 無難な落としどころであった。

 ケルシー以外にも留学のチャンスがある。

 それで納得しろということだ。

 

「よく言った! その言葉が聞きたかったのよ!」


 ケルシーが復活して叫んだ。

 わははは、と高笑いをするケルシーである。

 

 その姿を見ている氏族長たち。

 せっかく大氏族長の言葉で納得していたのに。

 またもや疑念が頭によぎってしまう。

 

 大丈夫か、この無礼者で、と。

 王国貴族を怒らせてしまっては、元も子もないのでは、と。

 

「ふむ。ハルムァジンよ」


 大氏族長の言葉に緊張が走った。

 やっぱり取りやめか、と。

 

「そなたの娘は実に奔放であるな」


「お恥ずかしいかぎりで」


「だが、だからこそ王国貴族に気に入られた面もあろう」


「察するにその可能性はなきにしもあらずです」


「ふむ。ならばよし! ケルシーの留学を認めよう。他の者はどうだ?」


 大氏族長が周囲を見渡す。

 

「みーとめろ! みーとめろ!」


 手を叩きながら囃すケルシーである。

 誰も参加しない中、一人で声をあげるのだ。

 そんなケルシーの背を見て、クロリンダも声をあげた。

 

「みーとめろ! みーとめろ!」


 二人の声に圧されたのか。

 氏族長の何人かが頷いた。

 そこまで言うのなら、やってみろという表情だ。

 

 基本的に氏族会議は全会一致で認められる。

 

 残りの氏族長は三人だ。

 いずれも自分の娘を押しこもうとしていた者たちである。

 

「いいのですか! このような無礼者で!」


 三人の内の一人が立ち上がった。

 

「だーまーれ! だーまーれ!」


 ケルシーが言葉を変える。

 それに即座に合わせるクロリンダであった。

 

「ええい、やかましい!」


「かーえーれ! かーえーれ!」


 煽っていくスタイルのケルシーだ。

 

「こんな無礼者がエルフの代表などと冗談ではない!」


 だが、場の空気はケルシーたちに優勢だった。

 大氏族長の言葉に納得した者が多かったのである。


 やはりエルフは権力欲が薄い者が多い。

 その結果、娘を押しこもうとする氏族長たちこそが、エルフたるにふさわしくないと思ったのだ。


「みーとめろ! みーとめろ!」


 ケルシーが再びコールを変える。

 そのコールに氏族長以外の者たちがのった。

 会場中からコールが響く。

 

 その声に大氏族長が笑いながら手をあげて制止する。

 会場からの声がピタリとやんだ。

 

「みーとめろ! みーとめろ!」


 それでも腕と頭を振ってやめないケルシーだ。

 

「かかか、これはもう決まったようなものだな。お主たちも認めよ」


 大氏族長にそこまで言われれば仕方ない。

 三人のエルフとて、それ以上ごねる気はなかったのだ。

 

 だから、三人揃って頷く。

 

「全会一致をもって、ケルシーの留学を認める!」


 会場中から拍手が鳴った。


「やりましたね、お嬢様!」


「みーとめろ! みーとめろ!」


「お嬢様、もういいのです」


「みーとめろ! みーとめろ!」


 ケルシーは顔を真っ赤にして腕を振り上げている。

 

「いや、だからもう認められましたって!」


 クロリンダがケルシーの肩を揺する。


「みーとめろ! みーとめろ!」


 ふぅと大きく息を吐くクロリンダである。

 そして、思いきり拳骨を落としたのだった。

 

「みぎゃあああああ!」


 凄絶なケルシーの断末魔の絶叫が響く。

 

「おほほ。お嬢様も喜んでいます!」


 むんず、とケルシーの首根っこを掴むクロリンダだ。

 

「では、失礼いたします」


 ケルシーを引きずって退室する。

 その姿にクスクスとした笑い声が漏れるのであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

感謝!

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