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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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393 おじさん不在の薔薇乙女十字団が風雲急を告げる


 おじさんが夢中になってダンジョンを作っていた頃である。

 その日も王都在住の暇人たちは、薔薇乙女十字団の部室に集まっていた。

 アルベルタ嬢、パトリーシア嬢、聖女の三人である。

 

 王城で大会議が催されていたとしても、三人は平常運転なのだ。

 今日も今日とて部室でお茶を飲み、駄弁っている。

 

「ちょっと聞きまして」


 口火を切ったのは聖女である。

 ちょうどお茶を飲み終わったのだ。

 

「ダンジョンがなくなったらしいわよ!」


 聖女の言葉にアルベルタ嬢が訝しそうな表情になる。


「それだけでは説明不足ですわね。もう少し詳しく」


「アリィは何も聞いてないのです?」


 パトリーシア嬢が口を挟む。

 アルベルタ嬢は侯爵家の御令嬢なのだ。

 そんな大事があれば、何かしら聞いていてもおかしくない。


「私は知りませんわね……いえ、昨日はお父様がお帰りになりませんでした。ひょっとするとその件でしょうか」


「あ! そう言えばうちのお父様も帰ってこなかったのです!」


「ふふん! 消えたダンジョンっていうのは、私たちも利用してた初級ダンジョンよ!」


 聖女が平らな胸を張る。

 

「なぜエーリカが知っているのです!」


「決まってるでしょ! 盗み聞きよ!」


 ドン引きである。

 そんなことを自信満々に言われても、だ。

 御令嬢としては、まったくふさわしくない。

 

「まぁそれについては聞かなかったことにしましょう」


 アルベルタ嬢が口元を隠しながら、ホホホと笑う。

 パトリーシア嬢もつられて同じように笑って誤魔化す。

 

「いや盗み聞きくらいするでしょうが!」


「そういうことは堂々と言いませんの!」


「偶然耳にした、とか言い換えてほしいのです!」


「これだからお嬢様ってやつは! ヤレヤレだぜ!」


 大げさに肩を竦める聖女であった。

 

 こほん、と咳払いをして場の空気を変えるアルベルタ嬢だ。

 

「で、どういうことですの?」


「なのです!」


 実は興味津々なアルベルタ嬢とパトリーシア嬢なのであった。

 

「なによ、二人とも聞く気満々じゃない!」


 口ではそんなことを言いつつも、嬉しさを隠せない聖女である。

 だが、聖女とて詳しい内容は知らないのだ。

 

「って言ってもさ、初級ダンジョンがいきなりなくなったって話なのよ。昨日、けっこうおっきな音がしたでしょ? あれってばダンジョンがなくなった音だったんだって」


「ダンジョンが……なくなる? そんな話は聞いたことがありませんわね」


「ですです! 攻略してもなくなることはないのです!」


「でも、うちの大兄が言ってたわよ! 確認ずみだって」


 聖女は侯爵家の養女になっている。

 つまり侯爵家の長兄のことだろう。

 で、あればかなり確度の高い情報だとアルベルタ嬢は踏んだ。


「なるほど。では本当になくなったのですか……」


「んーアリィ、どういうことになるのです?」


 パトリーシア嬢の質問にアルベルタ嬢が答える。


「そうですわね。初級ダンジョンと言っても資源は産出されるのです。主に私たち学園の生徒が利用していましたけど、資源や素材は持ち帰っていましたわよね?」


 その問いかけに聖女とパトリーシア嬢の二人が頷く。

 

「その資源や素材がなくなる。つまり、安定した供給がなくなるということですわ。さほど貴重な素材や資源はありませんでしたけど、裏を返せば最も安定供給が必要な物がなくなるということになりますわね」


「どどど、どーいうことだってばよ?」


 聖女が頭の上にハテナマークを浮かべて動揺している。

 

「黙ってアリィの話を聞くです」


「まぁ直ぐに影響が出るわけではないでしょう。ですが、このまま供給量が減ってしまうと王国の経済状況にも影響がでてきますわね。ここは何かしらの対策をとる必要があるのですが……」


 と、アルベルタ嬢も黙りこんでしまった。

 何事かを考えているのだろう。

 

「パティ。解説してちょうだい」


「んーよくわからないのです!」


「あんたもかい!」


 聖女のツッコミが部室に響いた。


「まぁそんなに難しく考える必要はないのです!」


「その心は?」


 聖女の問いにパトリーシア嬢が即答した。


「リーお姉さまがなんとかしてくれるのです!」


 思わず、ああと言葉を漏らしてしまう聖女であった。

 聖女の頭の中では、颯爽と登場してラスボスを倒してしまったシーンが再現されていた。

 あの姿を見てしまえば、パトリーシア嬢の言葉にも頷けるのだ。

 

 おじさんが居れば、どうとでもなるという根拠のない確信。

 それは薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)全員に共通する思いであった。

 

「そうね! リーに任せておけば安心ね!」


「ですです! エーリカも余計なことは考えなくていいのです!」


「そうね!」


 いえーい、とハイタッチをする聖女とパトリーシア嬢であった。

 その様子を見て、アルベルタ嬢がふぅと深い息を糸のように吐く。

 

「ちょっとそこのお馬鹿さんたち、お座りなさい」


 底冷えするような声の冷たさである。

 その声に陽気な気分が一気に冷める二人だ。

 大人しく椅子に座る。

 

「いいですか! リー様を信用するのも、信頼するのも構いません。ですが、丸投げしてどうするのですか! 確かにリー様ならどんなことでも解決してくれるでしょう。しかし、それに頼るばかりでは薔薇乙女十字団としてどうなのですか! リー様のお役に立てなければ、私たちが側に侍る意味がありませんわ! いつか愛想を尽かされてしまいますわよ!」


 めっちゃ早口であった。

 しかし明瞭に聞き取れるところがお嬢様たる所以だろう。


 確かにそうだ、と二人は思った。

 自分たちが丸投げをすれば、おじさんばかりに負担がかかってしまう。

 そのことに今さらながら気がついたのだ。

 

 おじさん的にはそんなことは気にしない。

 役に立つとか立たないとか関係ないのだ。


 ただ側に居てくれるだけでいい。

 それがお友だちだから。

 だが、彼女たちの矜持がそれを許さないのだ。

 

「むぅ。確かにアリィの言うとおりなのです。反省するのです」


「そうね、なんでもかんでもリーに押しつけてしまうのは違うわね」


 聖女とパトリーシア嬢の様子を見て、アルベルタ嬢は頷いた。


「わかればいいのです。ただ今回の事案は大きすぎますから、私たちにできることはありませんわね。まぁ……リー様がどうお関わりになるのか。それ次第では……」


 アルベルタ嬢の言葉が切ったのは、聖女がガクガクと身体を揺らしたからである。

 周辺に神威の力が漂う。

 

 瞬間、アルベルタ嬢とパトリーシア嬢は膝をついていた。

 

『近くの湖に新しい迷宮(ダンジョン)が生まれた』


 聖女の口を借りて神の言葉が告げられる。

 神託であった。

 

「あふん」


 神威の力が消え去るのと同時に聖女の身体から力が抜けた。

 

「エーリカ!」


 パトリーシア嬢とアルベルタ嬢が動いて聖女を支える。


「大丈夫ですか?」


「うん。うん……今、神託があったのよね?」


 聖女の言葉にアルベルタ嬢が答える。


「近くの湖に新しいダンジョンが生まれた、と。恐らくはミグノ小湖のことでしょう」


 アルベルタ嬢とパトリーシア嬢の手を借りて椅子に座る聖女。

 

「あわわ。なんだかとんでもないことを聞いてしまったのです!」


 アルベルタ嬢の言葉を今さらながらに理解したパトリーシア嬢だ。

 そんな彼女とは逆にアルベルタ嬢は眉をしかめていた。

 

「……タイミングが良すぎますわね」


「アリィ?」


 聖女がアルベルタ嬢を見る。

 

「……いえ、なんでもありませんわ」


 ふ、と柔らかい表情に戻るアルベルタ嬢だ。

 そして、聖女を見て言った。


「エーリカ。もう少し休んだら学園長のところに行きましょう」


「……うん」


 若干だが顔色の悪い聖女である。

 

「エーリカ、これを飲むのです!」


 パトリーシア嬢が冷えたグラスを差しだす。

 中身は香り茶を魔法で冷やしたものだ。

 エーリカの顔色を見て、飲み物をいれてきたのである。

 

「たっぷり甘くしといたのです!」


「ありがと」


 小さく呟いて、聖女は口をつける。

 そして、ぶふーと吐きだした。

 

「これ塩じゃねえか!」


「え? 嘘なのです。ちゃんとお砂糖を入れたです!」


 と、パトリーシア嬢が聖女からグラスを受けとって口をつける。

 ぶふーと盛大に吹きだしてから言った。

 

「ちょっとしたお茶目だったのです!」


「嘘つけえええい!」


 こうして聖女は元気になったのである。


誤字報告いつもありがとうございます。

本当に助かります。

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