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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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378 続・おじさんの居なくなったイトパルサで蠢くものたち


 暗黒三兄弟(ジョガー)は、イトパルサの闇に潜む住人である。

 王領では最大規模を誇る港町。

 そんな港町でも、人の出入りはさほど多くない。

 

 なので裏の住人と言えど、顔見知りの者ばかりなのだ。

 だが暗黒三兄弟(ジョガー)の三人はちがう。

 出自不明なのだ。

 

 いつの頃からか居着き、いつの間にか裏の住人にも名が知れ渡っていた。

 そんな彼らは一目置かれるのと同時に敬遠されてもいる。

 要は裏の住人たちにも怪しいと思われているのだ。

 

 そんな彼らと対峙するマディ。


 イトパルサの路地裏奥の奥。

 小さな空き地で、四人はまだむきあっていた。

 

「ばっかみたい! 私、帰るわ!」


 少し冷たくなってきた夜風に吹かれて、酔いまで冷めてしまいそうに感じるマディだ。

 

「ちょおっと待ったー!」


 それを制止したのは長兄ガイーアである。

 見た目は壮年の男性だが、パンチの利いた(かんばせ)をしているのだ。

 

 平たく言えば、おじさんと対極である。

 共通点は目鼻や耳の数くらいものだ。

 

(あね)さん。そりゃ気が早いってもんだ」


 ふぅと大きく息を吐くマディである。

 彼女は眉間に皺を寄せながら吼えた。

 

「あんたらと組むことのメリットは? それに私の……何を知っているって言うのよ!」


 彼女の言葉に、やはり似合わないニヒルな笑いをするガイーアだ。

 

()商業組合の会長さん、だろう?」


 ガイーアの言葉に眉をつり上げるマディだ。


「悪かったわね、()で」


「いいや、()だから都合がいいんでさぁ」


「どういうことよ?」


「だってその若さで組合長に就いた実績があるってこたぁ優秀だってことだ。その力をオレたちは欲してるんでさぁね」


 優秀。

 そんな一言がマディの心をくすぐる。


「いいですかい? オレたちゃ腕には自信がある。だが、頭が足りねえ」


「……頭」


「そう。逆に言えば、だ。あんただって腕の立つ手駒が欲しいんじゃないのかい?」


 ガイーアの言葉にマディは、ふむと考えこむ。

 確かに自分だけが使える手駒があれば、商業組合で返り咲くことも夢ではない。

 

 だが……信用できるのだろうか。

 マディは()っと三人を見た。

 

 ガイーアはパンチの利いた壮年の男性。

 オールテガは巨漢で、顔を隠すように目の部分に穴を開けた布袋を頭にかぶっている。

 マアッシュは小柄でどこかネズミを思わせるような容姿だ。


「……おっと。そんな熱のこもった目で見られちゃ恋の花が咲くってもんだぜ、姐さん」


「咲かないわよ」


「こりゃ手厳しい」


 と、自らの額を叩くガイーアだ。

 

「で、腕が立つって言ってたけど何ができるのよ」


 ガイーアはマディの言葉に、ニィと笑みをこぼした。


「オレたちゃ全員がちょいと特殊な天与持ちなんでさぁ」


 天与。

 それは神託の儀の際に加護や祝福とともに授かるものだ。

 おじさんでいう、令嬢の心得(極)などがそうである。

 

 大抵の人は能力を授かっても平凡なものがほとんだ。

 だが、中には特殊な天与もある。

 

「なぁ姐さん。オレたちゃちょっと目立つ見た目をしているとは思わねえかい?」


 その言葉には素直に頷くマディだ。


「裏の業界でいやぁ目立つってこたぁ、よくねえんだ。それでもオレたちゃ巧くやってきた」


 後はわかるよな、と言いたいガイーアだ。

 

「なるほどね。それで腕が立つ、か」


 ガイーアの言いたいことを正確に察するマディだ。

 

「わかったわ。手を組んでもいい。だけど! 先ずはあんたたちの実力を見せてちょうだい」


「ふふ……そうこなくちゃな。で、なにをすればいい?」


「そうね、あの小娘。あの小娘の鼻を明かしてやりたいわ!」


 マディの目がどろりとした黒い輝きを放つ。

 だが、ガイーアを含め三人が小さく首を横に振った。

 

「……なによ! できないっての?」


「姐さん、世の中にゃ二種類のニンゲンがいるんだ」


 ガイーアは懐から煙草を取りだして火をつける。

 粗悪な紙巻き煙草だ。

 ちりちりと葉が焼けて、小さなオレンジ色の灯りがともる。

 

「絶対に手をだしちゃいけないニンゲンと、そうでないニンゲンだ。わかるか、オレたちみたいなヤツらはそこを見誤っちゃいけねえんだ。長生きしたけりゃな」


「つまり、できないってこと?」


「姐さんの言う小娘ってのは、あの公爵家の娘さんだろ? 見たよ、オレたちもな。ご丁寧に祭りまで開いてくれたもんだから見物しに行ったんだよ」


「で? どう見たのよ?」


「ありゃあ絶対に手をだしちゃいけねえ存在だよ。まぁあの娘さんだけじゃねえ、母親の方も大概だ。正直なところ、生きた心地がしなかったよ」


 ガイーアの言葉の途中から、マディの顔がさらに歪んでいく。


「だったら無理ね、手を組めない」


「まぁ落ちつきなって。あの娘さんには手をだせなくても、搦め手を使って嫌がらせをするくらいならできるぜ」


 ふぅと紫煙を大きく吐きだすガイーア。

 その煙を見て、さらに表情をしかめるマディだ。


「おっと。煙草の煙は苦手かい? すまなかったな」


「ふん。ちょっと嫌なことを思いだしただけよ。で、搦め手を使った嫌がらせってどういうこと?」


「それを考えるのは姐さんの役割だってこった。言ったろ? オレたちゃ頭が欲しいって」


 ガイーアの言葉にマディは深く頷いた。

 

「わかった。じゃあ手を組みましょ」


 マディの言葉にガイーアたち暗黒三兄弟が手を打ち合わせて喜ぶ。

 

「私が頭、あんたたちが手足。それでいいのね?」


「ああ、もちろんだ。マッドレディ!」


 ガイーアが煙草を捨てて、足でもみ消す。


「ちょっと待って。なにそのマッドレディって?」


「なにって姐さんの呼び名だけど?」


「呼び名?」


「いやさすがに本名じゃ呼べないだろ? だから暗黒三兄弟(ジョガー)頭領としての呼び名だよ」


「もうちょっとなんとかならないわけ?」


 腕組みをして睨みつけるマッドレディことマディである。


「ダメだ。これはオレたちの縁担ぎだからな。ちゃんと意味もある」


 どういう意味よ、と促すマディ。

 

「オレたちの呼び名は花からとってるんだよ。マッドレディってのは沼地に咲く白い花だ」


 イトパルサの闇に咲く花は伊達や酔狂ではないのだ。

 ただし、毒を持つという部分は巧妙に隠すガイーアであった。

 

「ほおん。なら、それでいいわ!」


 満更でもない顔をする彼女を見て、ガイーアはほくそ笑む。


「これからよろしくな、マッドレディ! オレたちぁ小物界の大物を目指すぞ!」


 おお! と声をあげる新生暗黒三兄弟(ジョガー)


「ねぇ。それって私のことバカにしてない?」


 ただ一人、その輪に入れなかったマッドレディであった。


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[一言] マディルダさ~~ん!!
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