325 おじさんの家での一幕
公爵家邸に薔薇乙女十字団の面々が顔を見せた。
そのまま庭に通されて、野点のようなお茶会が始まる。
きゃいきゃいと明るい声が飛ぶ。
おじさんちの家族もその場にいて、お茶やお菓子を楽しんでいる。
そんな中、おじさんの近くにはいつもの三人がいた。
「しっかしさぁ」
聖女が焼き菓子をつまみながら口を開いた。
「リーってば格好よかったよね」
“そうなのです”とパトリーシア嬢が賛同する。
「私、気になっていたのですが、なぜ仮面をつけておられたのです?」
アルベルタ嬢の問いに、おじさんはお茶を飲みつつ答える。
「あれはお母様がくださったのですわ!」
自慢するかのような返答に、母親も思わず笑みを漏らしてしまう。
「リーちゃん、あの仮面にはちょっとした認識阻害をつけておいたのよ」
「はへ? そうなんですの?」
おじさん、実は気づいていなかったのだ。
仮面のデザインに心を奪われていたからである。
「まぁ薔薇乙女十字団には効果がなかったようだけど」
母親は三人組を見て、より笑みを深くする。
「リーちゃんのことが大好きなのね!」
母親の言葉に顔を真っ赤にして俯いてしまう三人である。
「もう! お母様、からかってはいけませんわ!」
頬を膨らませるおじさんである。
そんな言葉を“はいはい”と流して、お茶を飲む母親であった。
咳払いをして、おじさんは話を変える。
「さて、どうかしたのですか?」
「王都がこの有様ですから、薔薇乙女十字団の活動についてご相談にあがったのです」
アルベルタ嬢がストレートに問う。
「学園も恐らくは休校になるでしょうし、活動はできませんわね。と言うよりも、この有様では自領に戻られる方も多いのでは? 王都出身なのはニネット嬢とプロセルピナ嬢でしたか。この二人は大丈夫なのですか?」
そうなのだ。
既に被害を受けた者の中で、自領のある貴族家は王都を発っている者も少なくない。
そんな中、なぜか全員集合しているのが薔薇乙女十字団である。
「はい。ニネットは被害が軽微だったそうです。ですがプロセルピナは現在、知己の家で仮住まいをしているとのこと」
そこで、ちらりとおじさんは母親を見た。
どこまで話していいのか迷ったからだ。
そんなおじさんの気持ちを察したのだろう。
母親が大きく頷いた。
「そうですか……プロセルピナ嬢。うちに泊まっていただいてもかまいません。ひとりでは不安ならニネット嬢も一緒に。ご家族ごとでもかまいませんわ」
その言葉にプロセルピナ嬢とニネット嬢の二人が目を見開く。
“ムリムリムリ”と同時に二人は思ったのであった。
「まぁでもその不自由も数日中には解消されるはずですわ」
続けて放たれたおじさんの言葉に、事情を知る者以外の頭に疑問符がうかんだ。
「ここだけの話にしておいてほしいのですが――」
と、断りを入れてからひと息入れるおじさんである。
「貴族街のお屋敷を作ってきましたの」
薔薇乙女十字団の面々がその場で固まってしまう。
「ちょ、ちょっとリー?」
聖女が最初に動いた。
「それってば、そういうこと?」
意味をとりにくい言葉にしかならない。
だが、なんとなくニュアンスはわかる。
だからおじさんは頷いた。
「あ!」
と、大きな声をあげるおじさんである。
ぴこんと閃いてしまったのだ。
「……薔薇乙女十字団の階層を作ってしまいますか」
ぼそり、と呟いた不穏な言葉。
その言葉を聞いた母親が、おじさんを見た。
「リーちゃん、それはやりすぎじゃないかしら?」
「……そうですか?」
「目立ちたくないなら、やめておいた方がいいわ」
「……承知しました」
こそこそと話す、おじさんと母親であった。
「プロセルピナ嬢とニネット嬢の二人は先ほどの件、考えておいてくださいな」
おじさんは、にこりと微笑むのであった。
「そうだ! リー、あのときの格好になれる?」
空気を変えたのは聖女であった。
「あのときの格好?」
「でっかいラスボスと戦ったときの格好!」
聖女の勢いに負けて、おじさんは苦笑しながら立ち上がった。
そして、コウモリの形を模したドミノマスクを取りだす。
一瞬にして、男性用貴族服にドミノマスク姿になるおじさんであった。
割れんばかりの声が薔薇乙女十字団からあがる。
「か、かっこいいおおおお!」
だが、最も興奮していたのはタオティエであった。
なにか琴線に触れるものがあったのだろうか。
「リーちゃん! タオちゃんもかっこよくなりたいお!」
「ちょっと待ちなさい!」
走り寄るタオティエに立ち塞がったのは聖女だ。
「お? お? 誰だお?」
タオティエとよく似た背格好なのだ聖女は。
一部の大きさと髪の色はちがっているが。
「聖女エーリカよ!」
腰に手をあてて、胸をそらすポーズの聖女である。
「タオちゃんはタオちゃんだお! よろしくお! エーちゃん!」
聖女と同じようなポーズをとるタオティエ。
「よろしくね、タオちゃん! ってちがうわよ!」
「お?」
「私の方が先! いいわね!」
「よくわかんないお!」
にぱあとした笑顔を見せるタオティエに聖女はやられてしまった。
「あら、かわい……おぐぅ」
笑顔に見惚れている聖女に、タオティエが突進したのだ。
そのパワーに耐えられず、聖女は弾かれるのであった。
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