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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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190 おじさん新しい楽器を開発する


 バンド。

 おじさんだって組んでみたいと思ったことはある。

 青春時代にはバンド全盛期だったのだ。

 

 だが、おじさんにはそんな余裕はなかった。

 生きていくのに精いっぱいだったからだ。

 だから今生で楽器を習ったときは楽しかった。

 

 チートがあるとはいえ、おじさんは楽器が演奏できるようにがんばった。

 ピアノやフルート、バイオリンにチェロ。

 結果、大抵のことはできるようになったのである。

 

 ただどこかで物足りなさがあったのだ。

 その理由にようやく思い当たった。

 おじさん、バンドを組んでみたかったのだ。

 

 では、必要となるものはなんだ。

 ギター、ベース、ドラム。

 うん、大丈夫だとおじさんは思った。

 

 常勝無敗の錬成魔法があるのだ。

 今回だってなんとかなる。

 そう思って、素材を宝珠次元庫からだして目をキラキラとさせた。

 

「お、お嬢様?」


「やりますわよおおおお!」


 錬成魔法の光が素材を包む。

 そして、次の瞬間にはできあがっていた。

 おじさんの憧れた楽器たちが。

 

 真っ黒なのと青みが強い紫の二本のレスポール。

 真っ黒のバイオリン型ベースに、ドラムセット。

 

 真っ黒のレスポールを手に取って爪弾いてみる。

 よくできていると思ったのだ。

 ただ、おじさんの記憶にあるような音ではない。

 

 はて、と首を傾げるおじさんであった。

 

 それはそうだ。

 エレキギターの音を大きくするにはアンプがいる。

 そして音質や音色を変えるのはエフェクターの役割だ。

 

 悲しいかな、おじさんはそれを知らなかった。

 だってテレビで演奏しているところしか見たことがないんだもの。

 それにクラシックの楽器にはアンプもエフェクターもない。


 幸か不幸か。

 おじさんは触るだけで、だいたいの弾き方は理解できる。

 できてしまうが故に、記憶にある音とのちがいに戸惑うのだ。

 

 どうしたらいい?


「んにゅう……」


 唇をとがらせながらも、おじさんは考えていた。

 音を大きくするのなら、魔道具にしてしまうか、と。

 術式を刻印すれば、拡声の魔道具と同じ要領でできる。

 

 問題は音質や音色の方だ。

 最悪はシンシャに頼めばなんとかなるかもしれない。

 だけど、できたら楽器側でやりたいのだ。

 

 その方が格好良いから。

 

 では、どうする。

 どうしたら音質や音色を変えられるのか。

 

 おじさんは拡声の魔道具に使った術式を中空に描く。

 音を大きくするのと同時に、ぎゅいいいんとするにはと術式を変更していくであった。

 

 小一時間くらい術式と格闘していただろうか。

 納得のいくものができたおじさんは、真っ黒のレスポールに術式を刻印する。

 そして魔力をとおして弾いてみるのだ。

 

“ぎゅいいいん”と歪んだ音がでる。


「やりましたわ!」


 ついでにストラップも錬成して、ギターを肩からかける。

 ぎゅいんぎゅいんとかき鳴らしつつ、ちょっとしたポーズもとってみた。

 

「きゃああああ! お嬢様、ステキぃいいいいいいいいい!」


 侍女のテンションが上限を振り切ってしまった。

 

 その声に応えるように、おじさんは覚えているフレーズを演奏してみる。

 さらに魔力の流す量を調整することで、音質や音色、音の大きさも調整していく。

 職人技の極みのような精緻な魔力制御であった。

 

“ふっ”とおじさんは笑う。


「わたくしの聖書(バイブル)の中に、できないの文字を探してみたいですわ!」


 完全に調子にのっているおじさんである。

 

 残りの楽器もすべて魔道具化してしまう。

 こうしてこの世界に新しい楽器が誕生してしまった。

 魔道具化された楽器、略して魔楽器が。

 

 ここまでくると、おじさんは衣装にもこだわりたくなる。

 ふだんはあまり頓着しないのだ。

 侍女が選んでくれるから。

 

 と言うかである。

 おじさんの着る服というのは、ほとんどが献上されたものだ。

 王都の公爵家と取引のある御用商人が、頼んでもいないのに持ってくる。

 

 だが、今日だけはこだわってみたい。

 ということで、おじさんは錬成魔法を発動する。

 

 そして、できあがったのがゴスロリのワンピースだ。

 白と黒が主体となったものだが、人形よりも整った顔をしているおじさんである。

 それはもう恐ろしいくらいに似合っていた。

 おじさんバンギャ仕様である。

 

「お、お嬢様……そのお姿は……」


 侍女が声を震わせる。

 おじさんは“ふッ”と冷たく笑った。

 

「わたくしは光と闇を揺蕩い、黄昏を統べる者。さぁわたくしと契約して、その身と心を捧げなさい。さればそなたに祝福の烙印を与えましょう」


 すぅと右手を伸ばす、おじさんである。

 ちょっと中二心がうずいてしまっただけだ。

 

「しゃ、しゃしゃげましゅう!」


 まさかこんなことになるなんて思ってなかったのである。


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