1254 おじさん不在の学園では勲章の話で盛り上がる
「おっはよーございまーす! 今日もありがとー!」
騎士たちにいつもの挨拶をするケルシーだ。
愛想はいいのである。
ニコニコと笑顔を振りまく。
騎士たちもそんなエルフの少女を気に入っていた。
ある意味で親しみやすいというか。
実に庶民的なのだ。
そんなケルシーに挨拶を返す騎士たち。
もちろん、さりげなく勲章を褒める。
てれるなーとか言いながらも、嬉しそうな表情を見せる蛮族二号だ。
意気揚々と馬車に乗りこむ。
その平らな胸には、日の光を吸いこむような漆黒のメダル。
きらきらと七色に輝く螺鈿が映える。
「……お嬢様、よかったですね」
クロリンダが言う。
「うん! すっごい気に入ってる!」
なだらかな坂のような胸をそらす。
にーははははは!
高笑いまでがワンセットだ。
学園についてもケルシーは注目の的であった。
すれちがう誰も彼もが、その胸に輝く勲章に目をやる。
視線というのはわかるものだ。
にーははははは!
ケルシーは絶頂期であった。
なんだか気分がいい。
だから、つい高笑いが出てしまう。
ずんずんと歩いて教室へ。
「おっはよー!」
「また今日はいつにもまして元……」
聖女の目がケルシーの胸でとまる。
同時に言葉も失ってしまう。
なにせ、その存在感のある勲章が否が応でも目につくから。
「あんた、それどうしたのよ?」
「んん~なんのことかな~?」
わざとらしく首を傾げるケルシーだ。
思わず、聖女は小さく舌打ちをしていた。
ちょっとイラッときたからだ。
「どうせリーにもらったんでしょうけど」
「ご褒美なんだって~!」
聖女の言葉にのっかっていくケルシーだ。
確かにおじさんはそう言っていた。
ただ、これだけだと説明不足だ。
なので、クロリンダがすかさず補足を入れる。
さすがにこの勲章は嫉妬をうむと考えたからだ。
要は聖樹国からきて、半年と少し。
馴染みのない王国でがんばってきたんだ、と。
そのご褒美だという話である。
丁寧な補足に、聖女以外の御令嬢は納得したようだ。
確かにそれもそうかという話である。
ケルシー自身は根明だから、悲壮感はない。
ただ、見知らぬところでの苦労はあったのだろう、と。
我がことに置き換えれば、というやつだ。
逆に聖樹国に留学に行き、なれない場所でひとりぼっち。
そんな状況を考えれば頷けるというものだ。
「ズルいわね! アタシも欲しい!」
だが、そんな忖度をしないのが聖女である。
蛮族だから。
「にーははははは! これはご褒美だからなー!」
「そんなこと言うなら、アタシだって聖女としてがんばってるでしょうが!」
それはそうだという話である。
「しらないなー。そんなことは! にーははははは!」
高笑いするケルシーだ。
「ケルシー。ちょっと見せてくださいます?」
アルベルタ嬢がケルシーに言う。
いいよーと気軽に応じる蛮族二号だ。
「……これはスゴいですわね」
実際に手に取ってみるアルベルタ嬢だ。
重さはさほど感じない。
しっとりとして肌に吸いつくような感触があった。
円の中に大聖樹が描かれている。
よく見れば、小さな妖精まで飛んでいた。
ちょっとした遊び心だろう。
七色に輝く螺鈿細工。
不思議だ。
こういう細工は初めて見るアルベルタ嬢である。
「さすがリー様というべきでしょうか」
「ん~こういう細工ってボクも初めてだな」
セロシエ嬢も興味があるようだ。
ちょっと首を引っ張られるのをうざいと思うケルシーだ。
首からリボンを外して、令嬢たちに渡してやる。
「にはははは! スゴいでしょ!」
己で作った的な言いようをするケルシー。
だが、御令嬢たちは蛮族の言葉はそっちのけだ。
アクセサリーではない。
が、勲章という感じでもないから珍しいのだ。
しかも使われている技法が王国のものではない。
だから――すごく知的好奇心をくすぐられたのである。
正直、ケルシーには御令嬢たちが何を言っているのかわからない。
ただなんとなく褒められているのがわかる。
だから、嬉しいのだ。
「で、リーは? 今日はお休みなの?」
聖女が聞く。
「うん。お休みだって! なんかやることあるって言ってた」
うすうすそうだとはわかっていた。
ただ、実際に聞くとがっかりする狂信者の会だ。
「あ~これは言ってもいいのかな。リーお嬢様は勲章をお作りになっています」
クロリンダが再び補足を入れる。
「勲章?」
聖女が話にのってきた。
「ここだけの話ということにしてくださいね」
と前置きしてからクロリンダが語る。
「今度、新しく勲章が増えることになったそうなのです。その制作をリーお嬢様が請け負われたということですわね」
ほえええ、とつい声をだしてしまう聖女だ。
というか、他の御令嬢たちも驚いていた。
なんでそんなことになっているのだ、と。
勲章を作るということも誉れである。
職人として最高峰だと認められた証でもあるのだから。
「さすがリー様!」
「その勲章を作る練習にという形でもありますわね」
クロリンダが余計な嫉妬を買わないように、また補足を入れる。
なるほど、と頷く御令嬢たちだ。
「ぬふふふ……アタシの勲章だとすると図柄はやっぱり聖女ね!」
「ん~エーリカの場合はお肉とかの方が合ってる!」
「なんだとー!」
ケルシーの言葉に聖女が怒ったのだ。
さすがにお肉の勲章は欲しくないと思ったのである。
「なんだったら斧とかでもいいのです」
パトリーシア嬢が混ぜっ返す。
「斧? なんで斧なのよ?」
「蛮族っぽいからなのです!」
「誰が蛮族じゃ、ごるらああああ!」
「そういうところが蛮族なのです!」
「ぐぬぬ……じゃあ、パティならどんな図柄よ?」
聖女が聞き返す。
「パティは楽器、ジャニーヌは料理、ジリヤは本!」
ケルシーが答える。
それぞれが個性を象徴するようなものばかりだ。
「プロセルピナだと槍でしょ。カタリナは片手剣か、ルミヤルヴィだと細剣ね」
聖女が続ける。
「ニネットはパン、ルシオラは地味、エンリケータも地味」
ちょっと調子にのってきたようだ。
パンってどういうことよ! とニネット嬢が吼えた。
差し入れのイメージだ。
……地味。
おじさんちの寄子コンビは凹んでいた。
「ウルシニアナはお馬さん! イザベラは……わかんにゃい!」
ケルシーも口を挟んでくる。
「わかんにゃいって……」
と、頬に手をあてて困った表情になるイザベラ嬢だ。
「イザベラとニュクスはリーの横顔でもいいでしょ」
「エーリカ、でもいいではありません。それがいいのです!」
ニュクス嬢とイザベラ嬢が同時に同じことを言った。
「セロシエも難しい……」
「バッカね、セロシエはあれよ、羽根のついた扇よ。今です! とかそういう感じで」
「エーリカの言ってる意味がわからないね」
苦笑するセロシエ嬢だ。
聖女にとっての軍師というイメージだろう。
ちなみに聖女の生まれた国の軍師は不遇のイメージが多い。
お隣の国の軍師はけっこう華々しいのだけど。
「で、アリィはなにがいいの?」
「私ですか? ……私は」
でへへと表情が崩れるアルベルタ嬢だ。
「……私は猫のリー様か、ちっさいリー様がいいですわね!」
「……ドヘンタイじゃんか」
誰がヘンタイだー!
聖女のツッコみに声を荒げるアルベルタ嬢であった。




