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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1179 おじさんの絵を描くとはどういうことなのか


 王国の美術史は主に四つの時代に区分される。

 さらに細かい分け方もあるが、その話は横に置いておく。

 

 最も古いのが神殿様式、あるいは神聖様式と呼ばれるものだ。

 絵画的に見れば、平面的なものだと言える。

 神々であったり、偉人を大きく描くもので、いわば記号的な絵になるだろう。

 

 ちなみに、アルベルタ嬢が言っていたエトコバル期。

 これは神殿様式を代表する画家が築いた一時代を指す。

 金箔を使って、絵に装飾するという時代があったのだ。

 

 次に英雄様式と呼ばれる時代になる。

 平面的な絵に立体感がでてくるという変化が起きたのだ。

 

 内容的にも戦場などを描くことが多くなる。

 神聖様式と比較すれば、モチーフが生臭くなったとも言えるだろう。

 

 その次にくる時代が貴族様式だ。

 貴族の生活であったり、華やかなドレスなど優雅に描く。

 

 この時代に起きた大きな変化がいわゆるパトロンだ。

 絵師の後援者となることで、自らの権力を誇示する貴族がでてくる。

 写真などないのだから、お見合いなどの際にも用いられたのだ。


 ただ、だんだん絵が盛られるようになってきた。

 そこで起きるのが、有名な令嬢逐電事件である。


 実際に会ったら、お前誰だよとなったという話だ。

 あまりにも絵とちがうことで、ショックを受けた令嬢が逐電したのである。

 

 まぁおじさんの前世でも似た話を聞いたことがある。

 マッチングアプリの写真盛りすぎというやつだ。

 

 こうした事件の反省から、写実的な描写が良しとされるようになる。

 それが今だ。

 

「んむむむ……」


 さらさらと筆の進む音が響く教室。

 その中で、一人声をあげているのがルルエラであった。

 

 おかしい。

 おかしいのだ。

 

 どう描いたとしても、おじさんの顔を表現できない。

 なんだろう。

 この違和感は。

 

 ルルエラとて公爵家の御令嬢。

 それなりに絵というものにも理解があるのだ。

 

 そして――多少なりともその心得はあるはずだった。

 貴族たる者、芸術系の知識というのも必要になるから。

 主に社交の場で。

 

 なので、肖像画を描くということも幾度か経験はあったのだ。

 だが――どうにも様子がちがう。

 

 おじさんの絵を描こうとして当たりを取る。

 顔の輪郭、目、鼻、口。

 そういったパーツなら描けるのだ。

 

 ただ、顔として認識できない。

 いや、ちがう。

 

 ちがうのだ。

 ルルエラにはなにがちがうのかはわからない。

 ちがうと言うことはわかるが、言語化できないのだ。

 

 おじさんはただニコニコとしている。

 時折、侍女が淹れてくれたお茶を飲んで。

 

 おじさんはおじさんでルルエラの肖像画を描いていた。

 魔法でだが。

 

 一瞬だ。

 モノクロではあるが、写真のような精密な絵ができあがっていた。

 なので、おじさんは今、モデルをしながらの読書中である。

 

「……なぜ?」


 ついそんなことを口にしてしまうルルエラであった。

 そこへ聖女の声が響く。


「らああああい! できた!」


 聖女が紙を頭上に掲げている。

 そこには漫画チックなセロシエ嬢がいた。


 写実的というよりは、デフォルメされたセロシエ嬢だ。

 ただ、しっかりと特徴は捉えている。

 

「ほおん……エーリカ。なぜボクの頭の上に猫耳があるんだい?」


「にーははは。よくぞ気づいたわね!」


 勝ち誇る聖女だ。

 

「そこがポイントなのよ! セロシエはもっとこう愛嬌があった方がいいわよ」


「……愛嬌と言われてもねえ」


 頭脳派のセロシエ嬢。

 どちらかというとクール系女子である。


「……ものすごおく恥ずかしいんだけど」


 ちょっと顔を赤らめている。

 自分のキャラクターではないという自覚があるのだろう。


「けっこう似合っていると思うけど」


 参戦してきたのはアルベルタ嬢だ。

 聖女の描いた絵を見て、うんうんと頷いている。

 

「私もそう思うのです!」


 パトリーシア嬢もだ。

 いや、他の面々からも声があがる。

 

「そ、そうかな……」


 でへへと照れるセロシエ嬢だ。

 

「リー!」


 聖女が声をかける。

 同時に、聖女の手元に猫耳が出現した。

 おじさんが魔法を使って送ったのだ。

 

「そ、それは……」


 以前、おじさんがやらかして封印したものである。

 禁断の猫耳セットだ。

 

「ほれ、つけてみんしゃい」


「い、いや……実際につけるのはちょっと」


「いいから、いいから」


 聖女がにじり寄る。

 それを受けて、一歩ずつ後ずさるセロシエ嬢だ。

 しかし、どんと背中がぶつかってしまう。

 

 思わず、振り向くとプロセルピナ嬢たちがいた。

 脳筋三騎士である。

 

「ちょ……」


「私たちも見たい!」


 脳筋三騎士が声を揃えて言う。

 

「い、いや……だから」


「今よ、捕獲!」


 聖女の合図とともに脳筋三騎士たちがセロシエ嬢を拘束する。

 といっても、腕や肩を掴んだだけだ。

 

「ぱいるだーおおおおおん!」


 聖女が跳び上がってセロシエ嬢の頭に猫耳をつけた。

 同時にピコピコと動く猫耳。


「いやあああああ!」


 顔を押さえて、うずくまるセロシエ嬢だ。

 猫耳もへにゃっとなっている。

 

 その姿が愛らしかった。

 皆がでへへとなっている。

 

「ん~でもエーリカの絵はどこの影響を受けたのです?」


 パトリーシア嬢が聖女の絵を見て言う。

 大なり小なり、芸術というのは先人の影響を受けるものだ。

 

 現代の流行りである写実的な描写とは、かけ離れた絵。

 しかも、盛りすぎ問題を引き起こした当時の画風ともちがう。

 

 不思議だな、とパトリーシア嬢は思ったのだ。

 

「ばっか、あんた。そこはほれ、アタシをなんだと思っているのよ」


「……蛮族なのです?」


「ちがわい! 聖女! 正真正銘の聖女なの!」


 うそだーと言いたげな表情になるパトリーシア嬢だ。

 でも、頭ではわかっている。

 聖女は聖女なのだ、と。

 

 ただ、どうしても蛮族のイメージが消えない。

 

「つまり――神託を受けた、と?」


 アルベルタ嬢が補足する。

 そのとーりと胸を張る聖女だ。

 うわははは、と高笑いまであげて。

 

 その姿はまさしく蛮族であった。

 

「きゃあああ!」


 そこへルルエラの悲鳴があがった。

 見れば、手元の紙が燃えている。

 めらめら、と。

 

 ほどなくして紙はすべて焼け、灰となった。

 

「いったいなにが……」


 首を傾げるルルエラだ。

 おじさんもビックリである。

 

「ん~なんなのでしょうね」


 一瞬だが、どこかの誰かさんを思い浮かべるおじさんだ。

 だが、神威の力が発動していない。

 

 となると――よくわからん。

 そういう結論になるおじさんだった。


「リー! 猫耳祭りしたい!」


 とにかくよくわからない。

 けれど、聖女の言葉で笑うおじさんであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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