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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1205/1255

1171 おじさんはお披露目したばかりの魔法が禁呪指定される


 おじさんは思った。

 これは防衛戦の物語だと。

 

 小さな村を襲う、ゴブリンの群れ。

 そこに居合わせた冒険者たちは、当初聞かされていた数とちがうことに気づく。

 

 はぐれたゴブリンたちではない。

 巣を作っていたのだ。

 

 周囲の動物たちを食べ尽くし、食料がなくなった。

 そこで村を襲うことにしたのである。

 

 で、冒険者たちは村人と協力してゴブリン退治に挑むのだ。

 七人の侍たちのごとく。

 

 そういう物語だと喝破したのである。

 おじさんは。

 

 だから言った。

 待つ必要はありませんわ、と。

 

 そんな孫娘を見て、ヴァネッサは考えていた。

 どういうことなの? と。

 

 物語の中に入って、そこで起きた事件を解決する。

 そういうルールだ。

 

 だけど、この孫娘であるおじさんは前提を覆した。

 村を襲うゴブリンを待たずに、こちらから攻めるという。

 

 どういう思考をしたら、そうなると言うのだ。

 だって、先に殲滅したら物語が始まらないではないか。

 

 確かに事件は解決できるかもしれない。

 だけど、ルール違反でしょう、と。

 

 だから――やらかした? と判断したのである。

 

 おじさんについては事前に聞いていた。

 娘であるヴェロニカから。

 ほんの少しだけど。

 

 そして――自分の目でも見た。

 規格外の力を持っているというのも理解できる。

 

 魔法蒐集家を自称する自分自身や、娘であるヴェロニカとも比較できないくらいの規格外。

 そう頭では理解していたのだが……。

 

「わたくしにお任せあれ」


 その言葉と同時ににこりと微笑むおじさんだ。

 村人たちは、おじさんたちに注意を払っていない。

 

 だって、物語とは関係ないところの話だから。

 

 おじさんが不敵に笑う。


「トリちゃん!」


『まぁったく、主ときたら……』


 どうにも様子を伺っていた使い魔だ。

 そんな愚痴から会話が始まる。

 

「トリちゃん、わたくしに内緒にしていたでしょう?」


 図書大迷宮のことである。


『うむ。確かに隠していた。理由はかんたんだな。主がこうなるからだ』


「失礼な話ですわね」


 ぷんぷんといった感じのおじさんだ。

 ポーズだけではあるが。

 

「まぁいいですわ。トリちゃん、既にやることはわかっていますわよね?」


『もちろんだ。あの超広域魔法を使いたいのだろう?』


「さすがトリちゃん。話が早いですわ!」


 ニコニコとしているおじさんだ。

 

 ヴァネッサは目を丸くしている。

 超広域の魔法ってなに? と。

 

 その一言でヴァネッサの関心は魔法の方に移った。

 ルール云々などというのは、すっぽり抜け落ちたのだ。

 この辺りが、おじさんにも流れる血なのだろう。

 

「やりますわよ!」


『うむ。まずは様子を把握しようではないか』


「ですわね!」


 ヴァネッサに視線をむけるおじさんだ。

 

「お祖母様、見ていてくださいな」


 と、おじさんは飛翔した。

 飛行魔法を使ったのである。

 

「え? 飛行魔法も使えるの?」


 当惑するヴァネッサを置き去りに、おじさんは上空から村を見下ろす。

 やはり小さな村である。

 

 ところどころに柵があるけれども、防衛には向いていない。

 この村を知恵と勇気をもって救うのだ。

 それが正しい物語。

 

 だが、おじさんの興味はそこにはなかった。

 

「だいたい二キロ四方といったところですわね。階層の広さはアミラたちと同じ……これは共通の規格なのでしょうね」


『うむ。長くある迷宮だからな。ひょっとしたらと思ったが、巧く階層であることを誤魔化しておるな』


「ですわね。なかなか面白いと思います」


 にやっと笑うおじさん。

 

「ですが……今はどうでもいいですわ」


『で、あろうな。さて、主よ。先に少し魔力を借りるぞ』


「お好きなだけどうぞ」


 ぎゅんぎゅん魔力を吸うトリスメギストスだ。

 ピカピカと表紙の宝石が明滅している。

 

『ふぅ……ではやるか』


 おじさんがぱちんと指を弾く。

 村をすっぽりと覆うような結界が張られた。

 魔力吸収型の強固な結界だ。

 

「これで準備は整いましたわね」


『……うむ。主よ、開放するのはだいたい一割程度にしておくといい』


「え?」


『え?』


 思わず、おじさんはトリスメギストスを見た。

 トリスメギストスも困惑の声をあげる。


「もうちょっとまかりませんか?」


『無理であるな。階層そのものが崩壊してしまう』


「む゛ぅ……それならば仕方ありません」


 同時に、おじさんが魔力を高速で励起させる。

 ばちん、と空気が弾けた。


『むぅ……主よ。また魔力が増えているな』


「そうですの? もう自分では把握できませんわ!」


『自信満々で言う台詞ではないな』


 思わず、苦笑してしまうトリスメギストスであった。

 

『主よ、その辺りで』


「もうですか!」


『そんなものだ』


 ふぅと息を吐くおじさんだ。

 

「いいでしょう。さすがにダンジョンを壊してしまうのは、わたくしとしても本意ではありませんからね」


『主よ、制御はこちらで受け持とう』


「……任せました。トリちゃん、いきますわよ!」


 すぅと息を吸って、ゆっくりと吐く。

 少しだけ目を閉じて、集中力を高める。

 

「眠れる氷獄の魂に問う――凍てつくヴァレリアの根源を唄うバラ・シィコよ。かつて世界が生まれる前、火も光も熱もなく、ただ静寂と冷たさだけが満ちていた刻を、まだ、覚えているか?」


 おじさんが詠う。


「忘れたのなら、思い出せ。失ったなら、取り戻せ。水がその流れを忘れ、風は吹かない。世界よ、その温もりを手放せ。すべての命よ、疾く眠れ。すべての光よ、少しだけ瞳を閉じよ」


 いつもとは少しちがう詠唱。

 おじさんとトリスメギストスで作り上げたものだ。


「滅びにあらず――滅びにあらず。ただ、世界が深く息を吸う、その瞬間を永劫のものへと変えよ。リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワの名のもとに、命じる。我が意志のもとに、この世界に満ちるすべての熱を、我に預けよ」


白無へと至る永霜(コキュートス)!!!】


 一瞬。

 それは一瞬であった。

 

 おじさんが魔法を発動したその瞬間。

 すべてが凍てついた。

 

 空気すら、いや、この迷宮世界が凍てついたのだ。

 物語の基点である村以外。

 

「ふぅ……成功ですわね、トリちゃん」


『……うむ。想定していた以上の威力だな、これは。精霊言語による術式だとこちらの詠唱の方が合うとは思っていたが……主よ、これはもう禁呪指定だな』


「むぅ。せっかく作りましたのに」


『いや、恐らくというかだ。ほぼ確実なことなのだが……主が本気でこの魔法を使えば、世界そのものが凍てつくぞ。それはもう問答無用でこの世の終わりである』


「もう、すぐにそういうことを言うのですから」


 おほほほ、と朗らかに笑うおじさんであった。

 

 一方で、ヴァネッサである。

 彼女はずっとおじさんを見上げていた。

 

 そして――思い知ったのだ。

 規格外という言葉ですら生ぬるいと。

 

 もはや、この規模でなす魔法は魔法ではない。

 神の起こす奇跡だ。

 

 人が扱う魔法の範疇にはない。

 娘であるヴェロニカも大概だと思っていた。

 

 あれこそが天才であると、ヴァネッサ自身も認めるほどに。

 だが――孫娘はちがう。

 

 天才だとか、そういう言葉で括れるものではない。

 ああ――と嘆息する。

 

 ――なんて素晴らしいことか、と。


「お祖母様、どうかなされましたか?」


 おじさんである。

 ニコッと微笑んで、ヴァネッサを見ていた。

 

「いいえ……リーちゃん」


 ヴァネッサもおじさん見る。

 美しい娘だ。

 

「さっきのあの魔法。あれはいったいどういうものなの?」


 やっぱりヴァネッサも頭のネジがいくつか飛んでいる。

 それに応じるおじさんも同様だ。

 

 そして――ぱりんとガラスが割れるような音がした。

 

 すべての氷結がとけたのだ。

 同時に、村以外の森が、川が、ゴブリンが。

 なにもかもが淡い結晶となって、崩れ去った。

 

 迷宮の階層と、結界を張った村を残して。


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― 新着の感想 ―
>やっぱりヴァネッサも頭のネジがいくつか飛んでいる。  幾つかじゃなくて、ほぼ全てのネジが飛んでると思われます。  神同然のチカラを見せられても、神として崇めるとか恐ろしくて距離を取るとかじゃなくて…
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