1155 おじさんの知らないところで故郷に錦を飾るか、マディ
無理に笑うマディとヨランダ。
その二人をじとっと見ながら、ドミツィアナは思った。
――こいつら大丈夫か、と。
「と、ところでドミツィアナと言ったからしら。ちょっと聞きたいのだけど」
マディが話を振る。
「参考までにあなたが思う組織図を作ってきてくれないかしら?」
「かまいませんが……私はこちらで働く方々のことを存じ上げませんので、人選などはできません。簡易的な組織図だけになりますが、それでもよろしいですか?」
きちんと確認をとるドミツィアナだ。
「も、もちろんよ。私たちが考えていたことと、どこまで合っているかなっていう確認がしたいから」
「そ、そうね。そうすればあなたという人をしれるわ」
お、おほほほ。
とマディとヨランダの二人が笑う。
「……承知しました。それでは組織図を作ってまいりますので、少し席を外させていただきます」
と、退室するドミツィアナだ。
ばたん、とドアが閉まるのとほぼ同時だった。
「ど、どどど、どーしよ!?」
マディが慌てて、ヨランダに言う。
「どうもこうもないわよ!」
「っていうか、なんでそこに気づかなかったかなー」
軽い自己嫌悪に陥るマディだ。
いや、まぁおじさんの母親に言われたからである。
お前が責任者で好きにやれ、と。
敬愛する母親に言われたのだ。
そりゃあ、マディとてはりきるというものである。
ただ、それが裏目にでてしまった。
冷静になって考えるべき部分を見失ったのだから。
「まぁいいじゃない。これで書類仕事ともおさらばできるってもんでしょ」
「……完全には無理よ」
「……なんでさ? 私は錬成魔法士と呼ばれたの!」
ヨランダが鼻息を荒くする。
「だって、ここの副工房長はあんただもん、ヨランダ」
「はあ!? どういうことよ?」
「いや、だってヴィー様に聞かれたから勢いで答えちゃった」
てへぺろするマディである。
「あんたねぇ……」
ほうと息を吐くヨランダ。
そういうのは根回しとかちゃんとしときなさいよ、とは口にしない。
だから結婚できないのよとは、もっと口にできない。
マディがおかしくなるから。
この状況でおかしくなってもらっては困る。
と言うか、母親に報告済みということは撤回すらできないのだ。
そんなことしたら絶対に怒られるから。
なによりも怖いのは、母親の怒りなのである。
それはここに勤める者が共通する認識だ。
「姐さん、ちょっといいですかい?」
黙って事の成り行きを見ていたガイーアが口を開く。
「その……なんだ。おれぁ組織がどうのって話はさっぱりですがね。ただまぁ仕事が滞ると怒られるんじゃねーですかね?」
正論を吐くガイーアだ。
「ぐぬぬ……」
唸るマディ。
そのとおりである。
進捗状況が把握できていないというのも問題だ。
冷静になってみれば、問題だらけである。
このままでは非常にまずい。
母親の逆鱗に触れる可能性だってある。
「ん~正直に言やあ、姐さんが不利になる状況ってのも、おれぁ困るわけですし兄貴に頼んでみますか?」
「ウドゥナチャに? あいつってばそんなことできるの?」
「よくわかんねーですね。ただまぁいちおう頭領張ってたって話ですし、まったくの素人じゃねえと思いますよ」
元邪神の信奉者たちの首領がウドゥナチャだ。
ある意味で組織として人の使い方を知っていると考えてもおかしくない。
実際には失敗して追いだされたわけだが……。
「あるいは……お嬢様に頼んでみますか?」
「う……」
超絶美少女を頭に描くマディだ。
未だに苦手意識は消え去ってはいない。
が――以前のように悪く思うだけでもなくなっている。
色々とお世話になっているのだから。
「いやね、おれぁ思うんすよ。こういうのってよくわかんねーすけど、カネがありゃいいって話でもねーですよね?」
「まぁそれはそうなんだけど……」
ガイーアの話を聞いて思う。
マディには伝手がひとつだけある。
イトパルサの商業組合だ。
あそこなら書類仕事が得意なものも多い。
特に組合長となったプエチ会頭とモッリーノ会頭の二人は、そういう意味でも知識と経験が豊富だ。
――その知見に頼る。
いや、と思うマディだ。
あの二人とは最悪な別れ方をしたわけである。
今さら頭を下げるというのも……。
「ねえ、マディ。なにか心当たりがあるの?」
ヨランダが問う。
長い付き合いだからわかるのだ。
なにか煩悶しているということは。
「う……ま、まぁ」
その態度を見て、ピンときたヨランダだ。
「わかった。その相手と会いたくないんでしょ?」
ずばりと切り込んでくる。
マディは控えめにだが頷いた。
「あんたね……そういうところ直しなさいって言われたんじゃないの?」
「でもさ……」
「でももへったくれもない! というかこのままじゃヴィー様に愛想を尽かされるわよ!」
わかってはいた。
だが、他人に言われるとそのショックは大きい。
「う……もうなりふり構ってられないってことなのね?」
「当たり前でしょ。ヴィー様は昔からそうだったでしょ。できると思った者にしか仕事を任せない。その上で失敗したなら、自分でも責任を取られる御方でしょうが!」
学生時代のことを思いだすマディだ。
「そうね……そうよね。なら、ヴィー様の顔に泥を塗るわけにはいかないわよね」
「まぁ強制はしないけども」
「わかった! こうなったら背に腹はかえられないわ!」
マディが勢い良く立ち上がった。
「私、ちょっとイトパルサまで行ってくる!」
「……今から行くの? 王都からどのくらい時間がかかると……」
ヨランダが息を吐く。
その瞬間だった。
「その意気やよし。ならば麻呂が手を貸そうではないか」
唐突に姿を見せたのはバベルである。
「げええ! おつかれさんです! バベル師匠!」
一瞬で土下座をするガイーアだ。
どうやらかなり厳しく修行をさせられているらしい。
「うむ。では疾くと行くか」
え?
マディが疑問の声をあげた。
だが、同時に部屋にいた全員が転移していた。
マディにヨランダ、ガイーアの三人は気づけばイトパルサにいたのだ。
それも暗黒三兄弟たちの拠点だった場所に。
もう長く帰っていない古巣だ。
だが、ここの権利はしっかりマディが持っている。
多少は埃が積もっているが、生活できないレベルでもない。
「あ? え?」
「首尾良く行けば、麻呂が帰りも手伝ってやろう」
かかか、と笑いながらバベルの姿が消えていく。
「ちょ、ちょっと!」
マディが手を伸ばすが、時既に遅しである。
おじさんの周囲には、こういう人物が揃っているのだ。
「ははは……随分と久しぶりですね、ここ」
ガイーアが懐から安煙草を取り出す。
火を点けながら言う。
「あっしはここを掃除しときやすんで」
「あんた、順応性が高すぎでしょうが!」
マディが言う。
「っていうか、こんなところに住んでたのね?」
控えめに言ってあばらやである。
興味深そうにキョロキョロとするヨランダだ。
「いや、ここはあくまでも仮の拠点というか」
「あ、姐さん。見てくだせー。まだ酒が残ってやすぜ。景気づけに一杯いっときやすか?」
「マディ、あんたも苦労してたのね」
色々と言われてマディは軽く混乱していた。
「もういいわよ! よっしゃああ! 景気づけといこうじゃないの。ガイーア、一杯もってきなさいな!」
「あいよ! さすが姐さん、話がわかる!」
もうやけくそである。
どうにでもなあれ、的な心境のマディであった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります。




