1148 おじさん国王から言質をとる
明けて翌日のことである。
蛮族たちを学園に送り出すおじさんだ。
今日は行けたら行くという曖昧な返答しかしていない。
なぜなら予定が詰まっているからだ。
改めて、ククノを国王と王妃に紹介する。
ちなみに今日はクロリンダがククノのお付きだ。
やはり友人が側にいた方がいいだろうと思ったのである。
次にラケーリヌ家に転移陣を設置すること。
王城に行くついでに、その許可をもらっておこうとも思う。
父親は問題ないと言っていたが念のためである。
予定は詰まっているが、さほど時間がかかることでもない。
なにかしらのトラブルが起こらなければ。
おじさんは女神の愛し子である。
それ故か、よくトラブルに遭遇するのだ。
だからこその行けたら行く、である。
朝食後のサロン。
おじさんたちはのんびりとお茶をしていた。
ククノもすっかり王国の料理にはまったようだ。
ちなみに妹はククノにもすぐ懐いた。
幼子に懐かれると、弱いのはククノも同じである。
でれでれになっていたのだ、昨日は。
「わたくし、これから王城に行きますが、お母様はどういたします?」
「ああ――転移陣の件ね。そうねぇ……私も行こうかしら」
「そうしていただけると助かりますわ」
「ふふ……ちょっと苦手かしらね?」
楽しそうに笑う母親だ。
おじさんも素直に言う気にはならないが、苦笑で答える。
基本的にはちょっと人見知りなのだ。
ただ、どこかでおじさんはスイッチを入れて対応する。
その出力が大きいと疲れてしまうのだ。
苦手というほどではない。
……疲れるだけで。
そんなおじさんを微笑ましく見る母親だ。
娘だって人間だもの。
苦手のものの一つや二つあって当然だろう。
「ん~服はどうしようかしら」
そもそも王国には妊婦用の服というのが少ない。
ゆるく着られる貫頭衣タイプのワンピースが一般的だ。
「こういうのはどうでしょう?」
おじさんがぱちんと指を鳴らす。
錬成魔法を使ったのだ。
ささっと侍女が動いて姿見が用意される。
「あら、これもいいわね」
おじさんが作ったのは、エンパイアラインと呼ばれるものだ。
古代ギリシアの服装をモチーフにされたもので、胸の下で切り返しがあってスカートがストンと落ちる。
スカートの裾はあまり広がらず、シンプルでナチュラルな印象だ。
お腹を締めつけるデザインでもない。
なので、母親にはちょうどいいと言えた。
胸から上の部分は青、スカートの部分は白。
エレガントな装いになっている。
「お似合いですわよ、お母様」
「んふ。これでいいわ、ありがとう、リーちゃん」
ささっと侍女が動いて、髪やら装飾品を整えていく。
ほどなくして準備は完了だ。
ちなみに、おじさんは今日もパンツスタイルである。
昨日はどちらかと言えば、大人っぽい装いではあった。
だが、今回はガーリーな感じだ。
どちらも侍女の見立てである。
「では、参りましょうか」
おじさんたちは転移するのであった。
転移先は父親の執務室だ。
「ん? ああ……いいね、ヴェロニカ。とても似合っている」
「ありがと」
開口一番で母親を褒める父親はできる男だ。
「転移陣の件だね。それと……」
ククノとクロリンダを見る。
「私も一緒に行こう。聖樹国の動向も把握しておきたいし」
ということで、王城内をおじさん一家が闊歩する。
どうにも悪目立ちする集団だ。
特におじさんと母親。
後ろに続くエルフがまったく目立たない。
そのくらい二人に注目が集まる。
「兄上、失礼します」
父親が声をかけて国王の執務室へ。
「おう、スランか」
父親に続いて入ってくるカラセベド公爵家たち。
それを見て、怪訝そうな顔をする国王だ。
「……どうかしたのか、皆が揃って」
「ああ――いや、ちょっと用が重なりましてね。まずは昨日の件で、挨拶が半端になっていました聖樹国の留学生を改めて紹介しようと思いまして」
「そうだったな。ククノと言ったかな、昨日はすまなかった」
「いえ……あの、ご家族が倒れられたのですから、当たり前のことです」
「そう言ってもらえると助かる」
かんたんに挨拶を交わす、国王とククノだ。
「で、ヴェロニカはどうしたのだ?」
「うちの実家の件ですわね。昨日の様子だと必ず、うちにくると言い出すでしょうから」
「あ~。ヴァネッサなら、そうだろうな」
国王も知るほどには有名人なのである。
「うちにくるのは構いませんが、帰りそうにないのですわ。なので、いっそのこと転移陣で結んでしまおうかと」
さらっと言ってしまう母親だ。
「……転移陣か。なら、ついでに王宮の方も結んでくれんか」
「……かまいませんが」
ちょっと言い淀むおじさんだ。
べつにそのくらいは問題ない。
手間が多少かかるだけだ。
「よろしいのですか?」
「リーさえよければ、サムディオとも結んでもらいたい」
「ん~それだとうちが基点になってしまいますわね」
おじさんが言う。
「なら、いっそのことですわ。三公爵家と王家。この四つの間で行き来ができるように調整しましょうか。少ーしお屋敷を弄ってもいいのなら、ですが」
「かまわん、かまわん。リーの好きにしてくれればいい」
鷹揚に返事をする国王だ。
対して、父親は額に手を当てていた。
おじさんに白紙委任の言質を与える。
その意味を十分に知っているからだ。
「むふ。そうですか、畏まりました」
ちょっと楽しみになってきたおじさんである。
「では、わたくしとお母様は王妃様のところへ」
「で、あるか。デミアンは余の義父でもあるからな。よろしく伝えておいてほしい」
「承知しました。では」
と、退室するおじさんだ。
父親と国王、そしてエルフたちが向き合う。
「さて、ククノ殿。少し話を聞かせていただいても?」
「はい。あの……その前に、昨日はお世話になりました」
いやいや、と答えつつ面談に入る父親たちであった。
一方でおじさんと母親である。
「待ってたわ! ヴィーちゃん!」
王妃だ。
昨日の今日というのに元気である。
「お姉さま、陛下から許可もでましたので転移陣を刻みにいってきますわ」
「うん。だから、私も連れていって」
「……いいのかしら?」
王妃付きの侍女であるオーヴェに確認をとる母親だ。
「既に陛下からご許可はいただいていますので。リー様が付いてくださるのなら、何の問題もなかろう、と」
「私も久しぶりに実家に帰りたいわ」
おじさんからすれば、一人・二人増えようが問題ない。
ということで、ささっと転移するのであった。
「陛下!」
ドタドタと国王の執務室に入ってきたのは宰相だった。
「ヴェロニカとリーがきていると聞きまして」
「少し落ち着け、ロムルス。来客中だ」
「あ……これは失礼いたしました。聖樹国の方ですな。私は宰相を任じられているロムルスと言います。ん……そちらの侍女はリーのところの?」
「ええ……クロリンダと申します。私はこちらのククノと同窓でして。その縁で王城に罷り越しました」
「……なるほど。そういうことですか」
「義兄上、ヴェロニカとリーなら王妃様のところへ」
「そうか。スラン、ありがとう。陛下、かまいませんか?」
「ああ……かまわん。今なら追いつけよう」
「では、お言葉に甘えて失礼します。ククノ殿、クロリンダ殿、我々王国は聖樹国とともにあらんということを覚えてください」
と、残して退室する宰相である。
慌てて、王妃の部屋へ。
「アヴリル! 入るぞ!」
走ってきた勢いをそのままにドアを開ける宰相だ。
だが、既におじさんたちは転移した後だった。
「ぐぬぬ……遅かったか」
がくりと膝をつく宰相だ。
父親の件が気になっていたのである。
一応、報告は受けている。
おじさんが活躍してきた、と。
ただ、当時者の口から聞きたかったのだ。
あわよくば着いていこうとも思っていた。
だが、すべてが水泡に帰したのである。
転移が気軽に使える、おじさんのせいで。




