113 おじさん薔薇乙女十字団と家で勉強する
先日の薔薇乙女十字団の会合では勉強会をしたのだ。
したのだが、思っていた以上に皆ができていなかった。
いやできていないというのは語弊がある。
基本的な部分は理解しているのだ。
特に魔法関連については、皆が興味を持っている分野である。
だからこそ理解が深い。
しかし興味の薄い分野についてはまるでダメだった。
そこでおじさんは自宅に皆を招くことにしたのだ。
おうちで勉強会である。
おじさん前世ではそんな経験を一度もしなかった。
噂には聞いたことはあったが、誘われたことも誘ったこともない。
“あの子とは遊んじゃいけません”を経験しているのだ。
なので、ちょびっとわくわくしていた。
お茶会を開いたこともあるが、それとはまたちょっと違う感じなのだ。
どうしてもホストとしての意思があるお茶会と、そうではない勉強会では違う。
ただおじさん的に教師役をするのであれば、と。
ちょっと張り切ってみたのだ。
その結果がおじさんのコスプレであった。
特徴的な大きなリボンをあしらったハイウエストのクロップド丈のパンツスタイル。
それにフェミニンなトップスを合わせる。
ついでに女教師っぽく眼鏡をかけて、髪は後ろでくくってみた。
その姿を鏡で見ながら、おじさんは“うん”と呟いた。
「本日はお招き……」
今日はしっかりと参加しているアルベルタ嬢が挨拶をしようとして固まった。
おじさんの姿を目に入れた瞬間のことである。
「はう!」
御令嬢の誰かが言った。
そして聖女が立ち上がったのである。
「にゃんでしょんな格好をしてるのよ!」
「雰囲気をだしてみようかと思いましたの。似合ってます?」
おじさんの笑顔にアルベルタ嬢が、“ぶふっ”と息をはいて膝からくずおれる。
「にににに似合ってるわよ!」
「リーお姉さま、すごいのです! 先生より先生っぽいのです!」
パトリーシア嬢は両手を握りしめて、顔を上気させていた。
「では、皆さん、今日はビシバシといきますわよ!」
「お願いいたします、リー先生!」
なぜか御令嬢たちのやる気がみなぎっていた。
おじさんはその様子を見ながら、満足げに頷いたのである。
今日の勉強会はいつものサロンではなく、ログハウス風簡易拠点で行われている。
皆、野営訓練のときに使ったことがあるので、勝手知ったる我が家のようなものだ。
思い思いの席につきながら、おじさんの講義を聴いている。
その目は真剣そのものであった。
「では、そろそろ休憩といたしましょうか」
切りのいいところで、おじさんが言う。
「リー先生! ここのところをもう少し詳しく教えていただけませんか?」
アルベルタ嬢である。
デキる御令嬢だったのだが、やはりおじさんの心配は的中していた。
玄兎のシフォンと遊んでしまっていたのだ。
ただデキる御令嬢は違う。
ちゃんとやる気モードになれば集中できるのだ。
「そこはですね……」
はらりと落ちてきた髪をかきあげるおじさんである。
その仕草を見た御令嬢たちから、ため息にも似たような声があがった。
「リーお姉さま! パティも教えてほしいのです!」
こうなると我も我もと手があがる。
そんな中で聖女だけは、ゆったりとお茶を飲んでいた。
手にはおじさんが用意しておいたサンドイッチが握られている。
「やっぱり、このローストビーフのサンドイッチは美味しいわね」
「ちょっと! エーリカ!」
聖女がパクパクと食べ進めているところに、アルベルタ嬢が声をかけた。
「あによ」
「口に食べ物があるときはしゃべらない!」
そんな言葉を聞き流しつつ、聖女が紅茶で流しこむ。
「まだいっぱいあるわよ、アリィの分はなくならないから」
「そ、そんなことは心配してませんわ!」
「食いしん坊キャラのくせに!」
「それはあなたでしょう?」
「だったら! アリィの分までいただいてあげるわ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい。
だが、おじさんはまるで気にしていなかった。
こういう喧騒が勉強会の醍醐味だと思っていたのだから。
誤字報告ありがとうございます。
該当箇所の修正をしました。
いつも助かります。




