1133 おじさん学園長との戦いに決着をつける
「くはあ!」
がばぁと上半身を起こす学園長である。
その身体は舞台の外にあった。
「ワシは……」
いったい何が起こったのか。
舞台の上を見ると、微笑を浮かべたおじさんがいた。
「まだやるのなら舞台の上へ」
黒騎士が学園長に告げた。
「もちろん、やりますわい!」
学園長は立ち上がる。
一瞬だが、ふらりとした。
「……な、なんじゃあれは!?」
国王がハデに驚いている。
軍務卿と宰相は呆気にとられていた。
父親はおじさんを見て、微笑んでいる。
「さて、種明かしはリーがしてくれますよ」
嬉しそうにしている娘が見られて良かったと思ったのだ。
先ほど、おじさんが軽く蹴りを放った。
同時にその蹴り足に合わせて轟雷が起こったのだ。
幾条にも走る雷の嵐である。
それを食らって、学園長は一瞬で結界の外へ弾かれた。
闘技場ダンジョンでは怪我をしても、死ぬことがない。
その機能が働いたためだ。
初級や中級といったレベルの魔法ではない。
それは明らかである。
ただ、おじさんは一切の詠唱をしていない。
少し離れた女性陣たちの中から、アハハハと明るい笑い声が響く。
母親だ。
「ヴィーちゃん」
解説して、と期待をこめた目で王妃が母親を見る。
「うふふ……そうね、そういうこと」
母親はおじさんのしたことを理解したようだ。
「ヴィー! なにがどうなっているんだ?」
サンドリーヌが母親に詰める。
「まったく、あなたたちは何を見ていたのよ?」
母親は嬉しそうに幼なじみを見た。
「あれはね、儀式魔法と体術を組み合わせたものよ」
「はあ?」
まるで意味がわからない。
そんな表情になるサンドリーヌだ。
「いい? そも魔法と武術を組み合わせて使いたいわよね?」
近接戦闘において魔法は弱い。
いや、使い方次第ではあるのだ。
先に学園長がしたように、幻影魔法と武術を組み合わせる。
これは使い方によっては、かなり強い。
武術を補強するような形だと言えるだろう。
さらに魔法を極めることで、初級や中級の魔法を使うこともできる。
いわゆる無詠唱というものだ。
ただ、こちらはいささか魔法に意識をとられてしまう。
故に学園長のレベルであっても、武術が単調になる。
どちらにも強みはあるが、弱みもあるのだ。
そうした意味で、おじさんの使った方法は斬新であった。
儀式魔法を使うことにより、魔法を意識するだけで使える状態にする。
この方法だと上級以上の魔法だって使えるのだ。
おじさんが実演したように。
だが、そうかんたんに再現はできない。
そもそも儀式魔法とは複数人で行なうものだ。
例えばケルシーがやった。
おじさんに贈り物をするのに、風の大精霊の力を宝石に宿すもの。
あれだって薔薇乙女十字団が協力したのだ。
独りで儀式魔法を行使する。
その難易度の高さは推して知るべしだろう。
ということを母親が解説した。
「……つまり?」
メイユェが結論を求める。
「儀式魔法の効果が続く間は、リーちゃんは魔法を使いたい放題ってこと!」
はえええ、とハデに驚く女性陣であった。
学園長が舞台に戻る。
「まさか、そのような手でくるとはな」
学園長はおじさんの手口を喝破していた。
「いずれにして行き着く先は同じなのですわ!」
微笑むおじさんだ。
どんな方法をとろうが、魔法だけ、武術だけという枠を壊しにかかる。
それが強者だと思うのだ。
「とは言えです。使い魔との連携を深めればこんな手間を踏まなくてもいいのですけど?」
おじさんにはトリスメギストスがいる。
いつもやっていることだ。
トリスメギストスとシンクロすることで魔法を使うのだ。
もちろん、どえらい勢いで魔力を使う。
要は二人で魔法を使うのと同じだから。
「むぅ……ワシ、あいつ嫌いなんじゃ」
学園長にも使い魔はいる。
が、滅多に呼ぶことはない。
おじさんだって、その姿を見たことはないくらいだ。
「嫌いって……子どもじゃないのですから」
「嫌なもんはイヤなんじゃ!」
と、構えをとる学園長だ。
「まだまだ見せてもらうぞ、リー!」
いいでしょう、とおじさんは笑った。
同時に学園長の槍が襲いかかる。
しかし、おじさんには通用しない。
円環の動きである。
槍を引く動きに合わせて、懐に飛びこむ。
「はいやー」
おじさんの掌底が学園長の腹を捉えた。
瞬間的に学園長は跳び退ろうとする。
が、おじさんの追い足がそうはさせなかった。
どん、と衝撃を感じる。
同時に学園長の身体は吹き飛ばされていた。
風の魔法が発動したのだ。
竜巻がおじさんの手から発生したのである。
螺旋を描くように学園長の身体が上空へと巻き上がった。
「ぬわあああ!」
「まだ終わりではありませんわ!」
おじさんが手を外側に広げた。
その手から無数の蝶が発生する。
対校戦の決勝戦で見せたものだ。
焔、氷、雷、土。
様々な属性の蝶が竜巻の風にのって学園長を襲う。
「にぎゃあああああ!」
為す術もない学園長であった。
「ひ、ひでえ……」
軍務卿が顔を真っ青にしていた。
「まさか師父が手も足もでないなんて」
宰相は純粋に驚いている。
おじさんの実力に。
「なぁ……スラン。あれ、余の姪っ子ってどんだけ強いの?」
「兄上……言ったでしょう。最強です、と」
国王はもはや驚きを通り越して呆れるレベルだ。
学園長の強さはイヤというほど身に染みているのだから。
「この状態を使うのは二度目なので、かなり慣れてきました」
おじさん、一度は実験していた。
カーネリアンとリリートゥを相手にしたときに使ったのだ。
あのときはもっと危ない魔法を使ったが……さすがに学園長には使えない。
ぱちん、と指を弾いて竜巻を解除するおじさんだ。
学園長が闘技場ダンジョンの天井近くから落ちてくる。
それを短距離転移で舞台に戻すおじさんだ。
「そろそろ終わりにしていいですか?」
息も絶え絶えな学園長だ。
槍を杖代わりにして、どうにか立ち上がった。
「ふ、ふん。ワシはまだ戦えるがの」
「だから、これで終わりにということですわ」
ぱん、とおじさんが手を合わせる。
そして――魔力を高速で励起させた。
「月の女神コトゥーノ! 満ちては欠け、巡る刻の輪、白銀の雫をもって迷える魂の渇きを癒せ」
「な、なんじゃあ!?」
それは積層型の立体型魔法陣である。
「宵闇を裂く一筋の冠、優しき光の檻にて悪夢を封じん。銀河の果て、凍てつく静寂より至れ。 我が守護の星よ、久遠の軌跡を描き、今この手に熾火を灯せ。 穢れし闇を射抜くは、天球の意志!」
リーちゃん……と母親が呟く。
「さっきからの動きは、この魔法陣も仕込んでいたのね!」
「瞬け、星屑の断罪。 我が祈りに応えよ、天枢の光! 幻の銀水晶よ! 悲劇を断ち切れ!」
おじさんがニヤリと笑った。
「学園長、お見せしましょう!」
【月の女神の鎮魂歌!】
「ぬわあああ!」
積層型の立体型魔法陣の中で星々が乱舞する。
煌めく光があふれ、学園長は舞台の外で目を回していた。
「月にかわってお仕置きですわ!」
ちゃっかり決めぜりふを言うおじさんであった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります。




