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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1029 おじさん新たなる争いの火種を作ってしまう


 おじさんの前世において、ソバというのは古くからあるものだ。

 ソバの実が伝わってきたのは縄文時代とも言われるほどに。

 

 現在のように麺として食べられるようになった正確な時期はわからない。

 恐らくは鎌倉時代ではと推察されている。

 

 ちなみに文献として残っているのは戦国時代だ。

 寺の修復工事でそば切りが振る舞われたとするものである。

 

 とまぁおじさんは知識を持っている。

 そういうのが好きだから。

 

 ソバはデンプンの含有量が少ない。

 故に、薄く伸ばすとちぎれやすいものだ。

 なので小麦をつなぎとして混ぜる、二八ソバが一般的である。

 

 そば粉だけを使った十割ソバもあるが……。

 他にも鶏の卵や、布海苔、長芋などをつなぎに使う場合もある。


 今回は二八ソバでいこうと決めるおじさんだ。

 なにせ信頼と安定のチート魔法があるのだから。

 素材さえあれば、なんとかなる。

 

「はいやー」


 と気合い一発。

 おじさんの手元に、なぜか細切りにされたソバが出現する。

 よしよし、と頷くおじさんだ。

 

 よくわからなくても結果が良ければ、それでいい。

 

「サイラカーヤ! お湯を沸かしていますわね?」


「用意できてます!」


 ざっとソバを茹でていく。

 なんとなく、で。

 

 湯切りをしてから、水でしっかり締める。


 ちゅるん、といってみるおじさんだ。

 豊かな風味がある。

 

 歯ごたえ、コシ、のどごしのよさ。

 いずれも上デキだろう。

 

 この季節だ。

 本来なら、かけそばがいい。

 先ほど茹でたソバを熱湯で温め、温かい出汁に入れたものだ。

 

 また、ソバと言えば盛りだろう。

 ソバ好きの食通にある暗黙の了解みたいなものだ。

 

 しかし、おじさんは食通ではないし、そこまでこだわりもない。

 だから今回は皆が食べやすい、ぶっかけを選択した。

 

 器の中に締めたソバを盛り、上からこちらも錬成しためんつゆを掛け回す。

 薬味としてのわさび――もとい、苔を乾燥させた粉もあることだし。

 

「今回は料理長が作ってくれていた天ぷらを具にします」


 と、野草や海鮮の天ぷらをのっけるおじさんだ。

 

「うおおお! 美味しそう!」


 ケルシーが釘付けになっていた。

 待て、ができている姿に微笑むおじさんだ。

 

「皆さんもどうぞ」


 厨房にいたエルフたちの分も用意するおじさんだ。

 

「いただきまんもーす! まんもーす!」


 最初に動いたのはケルシーだ。

 待て、も限界だったのだろう。

 

 ずるずると音を立てて、がっついている。

 

「ちょっと……」


 さすがのデデルシーも引いてしまったようだ。

 こうした麺料理としてのソバは初めてなのだろう。

 エルフたちが戸惑っていた。

 

 なので、おじさんが率先していく。

 

「こちらの箸を使って、つゆと一緒に麺を食べてくださいな。上にのっている天ぷらは適当に」


「カニだー! カーニ、カーニ、ニーカ!」


 ケルシーが天ぷらを頬張っていた。

 なんで最後だけ逆にした、と思うおじさんだ。

 

「さぁどうぞ」


 同胞であるケルシーが、実に美味しそうに食べている。

 その顔を見て、デデルシーが動く。

 さすが蛮族と血のつながりがある。

 

「――!」


 デデルシーの目がくわっと開かれた。

 そのまま何も言うことなく、ずるずるとソバをいく。

 そして、器に口をつけてめんつゆを一口。

 

 てんぷらもかじってみる。

 野草をあげたものだ。

 サクサクとした食感と、独特の苦みが美味い。

 

「……美味しい。こんな食べ方があったなんて」


「でしょう? 存分に堪能してくださいな」


 ニコッと微笑むおじさんである。

 一人が崩れれば、他のエルフたちも手が出しやすくなるものだ。

 

 デデルシー以外のエルフも、おっかなびっくりといった感じで食べてみる。

 皆がその味を気に入ったのだろう。

 笑顔が漏れている。

 

「わたくしたちもいただきましょうか」


 侍女を見るおじさんだ。

 

「そうですわね」


「おかわりだあああ!」


 蛮族が叫んでいる。

 

 おじさんも食べてみるが、よくできている。

 特に即席だったが、めんつゆの味がいい。

 出汁の深みがよくでている。

 

「あら? リーちゃん、それは?」


 母親だ。

 弟妹とコルリンダもいる。

 だいたい村を一周してきたのだろう。

 

「わたくしが作りました。ソバの実を使った新しいお料理ですわ」


 侍女がすぐに動いていた。

 と言っても、皿に盛られたソバの上にめんつゆをかけて、天ぷらをのせるだけ。

 

 すぐに提供された、ぶっかけソバ。

 

「けるちゃん、おいしいの?」


 妹がケルシーに話を振る。

 

「もがもがもがんがー!」


 口の中に入れたまま喋られても、なんのことやらだ。

 そんな蛮族の頭に鉄拳が落ちた。

 コルリンダだ。

 

「御子様、御母堂様、失礼しました」


「まぁ皆も食べなさい」


 母親も腰を落ち着けて、ソバを食べてみる。

 さすがに啜るようなことはしない。

 王国では、そんな食べ方をしないのだから。

 

「んーこのソースがとてもいい味をしているわね。それに麺の方も風味が豊かだし、食べやすいわね」


「天ぷらも美味しいですわよ」


 おじさんの言葉に微笑む母親であった。

 弟妹たちも笑顔で食事をしている。

 

「にーさま。このてんぷらあげる」


「それ、にがいやつだろ?」


「にがいのきらーい」


 奇しくも蛮族と同じことを言う妹であった。

 

 ちょうど昼時だ。

 さらに人が集まってくる。

 皆がおじさんたちが食べるものを不思議そうに見ていた。

 

「ここはもうソバ祭りを開催するしかありませんわね!」


 既に自分の分は食べ終わったおじさんだ。

 小食なので、量を食べる必要はないのである。

 

「御子様、手伝うよ!」


 デデルシーだ。

 錬成魔法を使ってソバ切りを作るおじさんだ。

 それを茹でて、水で締めるデデルシー。

 

 侍女が器に盛っていく。

 他のエルフたちも手伝って、本当に祭りのようだ。

 

「はーこれはもうやるっきゃないわね」


 蛮族のテンションが上がってきたようである。

 

「どんどっとっとだー!」


 どこからか太鼓の音が響いてくる。

 それに合わせて、踊りだすケルシー。

 

「あろろろ……うぷう」


 頬を膨らませるケルシー。

 また虹が描かれるのか。

 

 おじさんがそう考えたとき、コルリンダが動いていた。

 ケルシーを抱えて、この場を離れていく。

 一瞬の早業であった。

 

「もう。けるちゃんは……ダメね」


 お腹をおっきくさせた妹が言う。

 苦笑しながら、弟が言った。

 

「ソニアだってお腹がぱんぱんじゃないか」


「ふふーん、そにあはだいじょ……ぶじゃないかも」


 ごろんと横になる妹だ。

 ぽっこりしたお腹が天を衝くようである。

 

「ねーさま、おくすりくださいなー」


 もう、と言いながら、その愛らしさにやられるおじさんであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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