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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1022 おじさんロボネス湖を観光してみる


 ――モクリーナ氏族。

 ロボネス湖の近くにある村に起居する氏族の名である。

 

「どどどどど、どうも!」


 今、おじさんの目の前で引き攣った笑顔を浮かべている女性。

 名をククノという。

 

 クロリンダと同じく長身でスレンダー。

 新緑のような鮮やかな碧色の瞳と髪をしている。

 

 ちなみにモクリーナ氏族の長の娘だ。

 クロリンダとも友人なのだそうである。

 

 大聖樹の下にあるエリート校で知り合ったそうだ。

 

「そんなに緊張しなくてもいいですのに」


 少し微笑んでみせるおじさんだ。

 あまり畏まられても困る。

 だって、おじさんは小市民だから。

 

「み、みみみ、御子様!」


「はい、なんでしょう」


「ほ……ほほほ本日は、お、お日柄も良く……」


 ダメだ、これは。

 かなりテンパっているようだ。

 

「落ちついて」


 そっと魔言の禁呪を発動するおじさんである。

 この禁呪は実に使い勝手がいい。


「あ……あり?」


 少し落ちついたようだ。

 そこで侍女が声をかけた。

 

「はい、深呼吸! 吸ってえええ……吐いてえええ……」


 侍女と一緒になって深呼吸をするククノだ。

 それで少しは落ちついたらしい。

 

「し、失礼しました。御子様にお会いできるなんて感激です!」


 今度は目を潤ませているククノ。

 なんだか感情の振り幅が激しい。

 こういうところがエルフなのだろうか。

 

「少しそちらのロボネス湖を見学したいのです。それと……できればでいいのですが、湖の中央にある島にも行ってみたいですわ。無理なら構いませんが」


 さっさと話を進めてしまうおじさんだ。

 こういうときに相手に付き合っていたら、いつまで経っても話が進まない。

 前世の経験から得た教訓である。

 

「あ! はい! エイヴンから聞いています!」


 ククノの頭の上で、エイヴンが一鳴きした。

 エルフは精霊獣の言葉がわかるのだろうか。

 

「島の中央にある祭祀場にも立ち入りできます!」


 あら、とおじさんが声をあげた。

 断られても当然だと思っていたのだから。

 

「どうやら配慮してもらったようですわね」


 おじさんたちとククノを遠巻きに見ているエルフたち。

 色々とあって近づいてこないのだろう。

 

 遠慮しているのかもしれない。

 老若男女のエルフたちが。

 

 ただ、おじさんとしては近寄ってきて欲しい。

 遠くから見られるというのも、なんだか変な感じだからだ。

 

 べつに隠すようなことはなにもない。

 話があるのなら聞くくらいはする。

 

 そう思っているおじさんなのだ。

 

「あまりここに長居するのは悪いですわね」


 と、踵を返す。

 

「ご足労をかけますが、案内してくださる?」


「はい、喜んで!」


 居酒屋の店員のような返事をして、てててっと駆けていく。

 おじさんたちを追い抜いて、ククノが笑った。

 

「こちらで……えええ!」


 躓いたのだ。

 そして、くるんと回ってバランスを崩す。

 おっとっととなったククノを侍女が支えた。

 

「そそっかしいですね」


 クロリンダ、それにケルシー。

 二人とはちがう方向性で、とは付け加えない。

 侍女の優しさである。

 

「す、すみません」


 ちょっと顔を赤らめるククノであった。

 

「お気になさらず」


 侍女もくすりと笑う。

 

「さて、いいですか」


 おじさんの一声が空気を変えた。

 ククノがおじさんを見て、こくんと頷く。

 

 村からロボネス湖へと続く道を歩く。

 この辺りは木々が多い。

 が、きちんと手入れされているようだ。

 

「この辺りにはですね、モクリーナという薬草が生えているんですよ。聖樹国の他の地域にはない薬草でして」


 その辺りの話は以前、さらっとクロリンダが話していた。

 というか氏族の名前そのままである。

 

「ほおん……どういう効能があるのですか?」


 おじさんの質問にククノがにぃっと笑ってみせた。

 少しは慣れてきたのかもしれない。

 

「そうですね。葉の部分は乾燥させてお茶にするのが一般的で、血の巡りを良くする効果があります」


 他にもと続けるククノだ。

 

「茎と根っこの部分は煎じて飲むと、胃腸の調子を整えてくれますね。あと、夏頃には黄色い花が咲くですが、この花を治癒薬の素材として使うことで効果が高まります」


 どうやら捨てるところがない薬草のようだ。

 お茶と聞けば、捨て置けないおじさんである。

 

 今生では色々なお茶を飲むのにはまっているのだから。

 

「ふむ……そのお茶を少し分けていただけますか? もちろん対価は支払いますので」


「御子様なら差し上げます。今年はたくさん生えたので、余っているくらいなんです。他の氏族にも融通しますけど、それでも余らせているほどなので」


「余っているとしても、こういうのはきちんと対価を支払うものですわ」


 ニコッと微笑むおじさんだ。

 だが、その笑顔には奇妙な迫力があった。

 

「そ、そういうものですか」


 ちょっと萎縮してしまうククノだ。

 

「お嬢様が対価を支払うと仰せなのです。素直に受け取りなさいな」


 侍女が助け船をだす。

 ククノも頷くのであった。

 

「ケルシーからロボネス湖には魔物がでると聞きましたが……」


 話を変えるおじさんだ。


「あ。その話はもう聞いているのですね。と言っても、魔物の姿を実際に見た者はいませんが……」


 霧の濃い日に魔物が姿を見せた。

 そういう話があるのだ。

 しかし、村人たち総出で討伐しようと湖に出向くと影も形もなかった。

 

 クロリンダの話とほぼ同じ内容を話すククノだ。

 いや、ククノから聞いたクロリンダがおじさんたちに話したのだろう。

 

 そうこうしている間に、道の先にロボネス湖が見えてきた。

 

 風光明媚な場所というだけのことはある。

 湖の透明度がとても高いのだ。

 

 加えて、水がキラキラと光って見える。

 冬の季節だというのに、色とりどりの植物が華を添える。

 穏やかな湖面に反射して、まるで鏡写しのようだ。

 

 ほう、と声をあげるおじさん。

 景観としてシンプルに美しい。

 

「ここは水の精霊が生まれる場所とも言われています。あのキラキラと光るのが生まれたての水の精霊だと」


「そうなのですか……」


 湖に近づくおじさんだ。

 砂利になっている部分を歩いて、すっとしゃがむ。

 

 手で水をすくってみた。

 透明度が高く、きれいな水だ。

 そして――季節柄もあるのだろうが冷たい。

 

 キラキラと光るものが集まってきた。


 それはおじさんの掌の上で遊ぶような動きを見せる。

 

 大精霊たちとの関係があるからか。

 あるいは女神の愛し子だからか。

 

 おじさんは無条件で精霊たちに好かれるようだ。

 

『主よ、少し魔力をわけてやるがいい』


「大丈夫なのですか?」


『問題ない。ここは魔力が豊富な場所ではあるが、ちと水の属性に偏っているのでな』


「いいでしょう」


 威圧しないように、少しだけ魔力を解放するおじさんだ。

 すると、キラキラがどんどん集まってくる。

 

「かあああ!」


『なにが羨まし……けしからんだ。キサマには主がいるだろう。クロリンダという』


「かあ、かあ」


『ちょっとだけ主の魔力がほしいとな? 契約を上書きするようなことはダメだぞ』


「あほーあほー」


『ふん。ズルいなどと言われてもな』


 使い魔たちが話をしているときであった。

 ククノが声をあげる。

 

「ちょ! 御子様!」


 少し慌てたそぶりをみせる。

 だって、おじさんの全身がキラキラに包まれていたから。

 

「問題ありません。お嬢様にとっては日常のことです」


 侍女はもう慣れたものである。

 おじさんはそういうものだと思っているのだ。

 

 だが――初見のククノは焦ってしまう。

 だって、おじさんが光の人みたいになっていたのだから。


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― 新着の感想 ―
>だが――初見のククノは焦ってしまう。 >だって、おじさんが光の人みたいになっていたのだから。  そんな……まるで光の国からやってきた巨人みたいな例えを……デュワッ!
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