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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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971 おじさん不在で冒険者たちは……


 暗闇を赤く切り取るように焚き火が揺らめいている。

 さすがに冬だ。

 陽が落ちると、一気に気温が低くなる。

 

 アメスベルタ王国は比較的に温暖な国だ。

 ただし、聖女一行がいるのは王国の北方である。

 雪は降らずとも、吹く風は冷たい。

 

 だから、クルートは新調した外套を着て焚き火の前にいた。

 かじかんだ手を火にかざして暖をとっているのだ。

 

 昼間には襲撃があった。

 だから、夜襲を警戒できる場所での野営である。

 

 虫に悩まされなくてもいい季節だ。

 しかし、寒いものは寒い。

 

 焚き火にかけられた小鍋。

 ポコポコとお湯が沸騰してきている。

 

「それにしても……あいつら何してんだ?」


 ぼそりとクルートは漏らす。

 あいつらとはパーティーメンバーであるヤイナとマニャミィだ。

 

 二人は護衛と称して、聖女の馬車に同乗していた。

 そして――野営地についてからというと、専用の天幕に引きこもっている。

 

 うっかり近づくこともできないので、クルートには何もわからなかった。

 

「ハハ……お仲間が気になりますか?」


 昼間の男性神官だ。

 ぺこりと会釈するクルートである。

 

「そうですね。あいつら、まったく出てこないんで」


 ちょっと愚痴っぽくなるクルートだ。

 その言葉を聞いて、男性神官はまた軽く笑った。

 

「そう言えば、きちんと挨拶していませんでしたね。私はアーモスと言います」


 差しだされた手を握るクルート。

 

「オレはクルートです。よろしくお願いします」


 こちらこそと笑うアーモスであった。

 

「これ、飲んでみるといいですよ」


 小鍋の中にお湯しかないことを見て、アーモスが小袋をだしたのだ。

 クルートが開けてみると、中には針のような形の葉が入っていた。

 

「……これ、レブの木の葉っぱ?」


 王国北方でよく見かける針葉樹である。

 

「ええ、あまり民間には浸透していないのですが、神殿では昔から薬湯として親しまれているものですよ。北方ならどこでも手に入るものですし、葉っぱを乾燥させただけのものですから、どうぞ遠慮無く」


「へえ……そうなんですか」


 小鍋の中にパラパラと乾燥したレブの葉を入れるクルートだ。

 しばらくすると、透明だったお湯がほんのりと色づく。

 

「あまり美味しいものではありませんが、お湯だけを飲むよりは随分とマシですから」


 アーモスの話を聞きながら、クルートは杯を二つだす。

 そのときだった。

 

「クルート!」


 マニャミィだ。

 聖女の天幕から出てきている。

 

「あ、すみません。ちょっと行ってきます」


 アーモスの分の杯に茶をいれて、小走りで駆けていく。

 

「どうかしたのか!」


「ほら、あんたにこれを渡しておこうと思って」


 マニャミィが手の平サイズの魔道具を渡す。


「んあ? なんだこれ?」


「いいから。黙って懐に入れておきなさい。使っているところは誰にも見せるんじゃないわよ。それ、ものすごく貴重なものなんだから」


「お、おう……」


 と、魔力を通してみるクルートだ。

 すると、じんわりと魔道具が温かくなってくる。

 

「え? あ! こ、これ……」


 しーっと唇に人差し指をあてるマニャミィだ。


「わかったでしょ。絶対に秘密にしておきなさいよ」


「た、助かるよ」


「私とヤイナの二人が聖女様に付きっきりなのは悪いと思ってる。その埋め合わせだから」


「お前ら、メシはどうすんの?」


 素朴な疑問だった。

 だが、マニャミィの顔が一瞬で崩れる。


「……ここだけの話よ。聖女様の天幕って特別製でね。中で調理ができるようになってるのよ」


「うへえ! すげーな!」


「ちょっと、大きな声ださない。と、とにかくそういうことだから!」


「わ、わかった。じゃあ、オレは適当にメシ食うからな」


「……悪いわね」


 さっと天幕の中に戻るマニャミィであった。

 

「ふぅ……これで最低限の罪滅ぼしはしたと思う」


 ぼそりと呟くマニャミィだ。

 天幕の中はぽっかぽかである。

 外気の冷たさとは無縁の世界。

 

「ほら、早くこっちきなさいってば!」


 聖女がマニャミィを呼ぶ。

 もう、聖女たちの前にはフリーズドライの即席麺が並んでいる。

 お湯を注ぐだけのお手軽料理。

 

 しかし、その正体はおじさん手製のものである。

 マズい訳がないのだ。

 

「むっふっふ。さぁ食べるわよー!」


 おおー! と拳を振り上げるマニャミィであった。

 

「うまー!」


 聖女が叫んだ。

 お付きの女性神官たちもだ。

 マニャミィたちも叫んでいる。

 

「にょほほほ。なにこれ、このうどんの完成度の高さ!」


「エーリカ様、ご存じなのですか?」


 女性神官が聖女に聞いた。


「あったりまえじゃない。この麺料理はうどんって言うのよ! かつて遙か東方のある国で作られたという美食のひとつ。それはやがて派閥を生み、戦乱を引き起こす元になったとも言われているのよ!」


「……そ、そんな恐ろしい食事があったなんて……」


「嘘ですよ! 真っ赤な嘘ですから、お気になさらずに」


 即座に否定するマニャミィだ。

 とは言え、である。

 姉妹であることをあかせないのだから、中途半端なツッコミだ。

 

 そのモヤモヤ感を抱えながらも、マニャミィはうどんを啜っていた。

 すびずばと音を鳴らして、聖女姉妹がうどんを食べている。

 

 あまりにも笑顔で食べるのだ。

 それを見て、躊躇していた女性神官もヤイナも再び手を伸ばした。

 

 やっぱり美味いは正義なのだ。

 

 一方のクルートは、もそもそと乾燥肉を食べていた。

 かっちかちなので、レブの茶につけてふやかしている。

 

「そうなんですか。三人で王都の対校戦に」


 アーモスはクルートの対面に座っていた。

 同じく乾燥肉を食べながら、雑談をしていたのだ。

 

「ええ……そのときに聖女様の目にとまったみたいで」


「なら、活躍したんですね」


「まぁ……活躍というほどのことは。決勝戦には行けませんでしたし」


「そう言えば今年は王都の学園が優勝したと聞きました。聖女……エーリカ様はご出場されなかったようですが」


 こくんと頷くクルート。

 レブの茶を少し飲む。

 

 さっきから身体がぽかぽかとあったかい。

 マニャミィに渡された魔道具の影響だろう。

 

「私のときは王都の学園と言えば……」


 ふわぁとクルートの口からあくびがでた。

 暖かくなって眠気がきたのかもしれない。

 

「そうです……か」


 アーモスの言葉が遠くで聞こえているようだ。

 近くにいるのに、こくりと首が縦に振れる。

 

「ふわっ」


 眠気がきていたことに驚くクルート。


「疲れているようですね。少し眠ってください」


「い、いや……そ、それは……」


 再び、クルートは睡魔に襲われる。

 そんな若き冒険者の姿を見て、にやりと笑うアーモスであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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― 新着の感想 ―
なんか波乱の予感が。リー様が来るのでしょうか?
>「これ、飲んでみるといいですよ」 >小鍋の中にお湯しかないことを見て、アーモスが小袋をだしたのだ。 >「……これ、レブの木の葉っぱ?」  これはアイスティーしか無いと言われている? >「疲れてい…
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