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006 おじさんノブレス・オブリージュを示す


「リー様」


 学園にある食堂に向かっていると声をかけられた。


「アルベルタ=カロリーナ・フィリペッティ嬢」


 フィリペッティ侯爵家の御令嬢である。

 蜂蜜色の髪がふわりと揺れた。

 翠色の瞳がおじさんを見あげている。


「いやですわ、アルベルタとお呼びくださいませ」


「わたくし、お友だちがいなかったので慣れないのですわ」


 おじさんにとって数少ない級友である。


「お友だち……」


 アルベルタ嬢は両手で頬をはさんで、いやんいやんと首を振っている。

 こういうのが御令嬢なんだろうな、とおじさんは微笑ましく思った。


「これから食堂にまいりますの、よろしければアルベルタ嬢もご一緒しませんこと?」


「喜んで!」


 おじさんに比べれば劣るとは言え、アルベルタ嬢も同じ学年では高位の実力者である。

 ただアルベルタ嬢は親しみやすい性格のようだ。

 食堂に向かっている間に、ひとりまたひとりと御令嬢が増えていく。


 食堂につく頃にはそれなりの人数になっていた。

 学園の食堂は広い。

 というか食堂だけで別棟を建てているほどである。

 三階建てになっていて、三階が利用できるのは伯爵家以上の貴族と王族だけだ。

 一階と二階は男爵家・子爵家の子弟が利用している。


 おじさんは迷いなく一階にある大きなテーブルに向かう。

 皆が一緒に食事をとれるようにと配慮したわけだ。

 アルベルタ嬢を初めとした高位貴族の令嬢たちも文句を言わなかった。

 その態度に感服したのが、男爵家と子爵家の令嬢たちだ。


 学園においては身分の差はない。

 それは建前になりがちではあるのだ。

 しかしおじさんを初めとした高位貴族の令嬢たちは、それを見事に守ったのである。

 まさにノブレス・オブリージュ。


「おい、そんなところで何をしている?」


 令嬢たちの心に冷や水をさしたのが王太子であった。


「リー、キミは私の婚約者なのだ。誰はばかることなく三階で食事をとればいい」


 その言はもっともである。

 憧れの令嬢と食事をともにできる。

 運がよければ名前を覚えてもらえるかもしれない。

 そんな乙女たちの願いを無情にも打ち砕いたのだ。


「ついてこい」


「あん?」


 傲慢な王太子の態度に、思わずおじさんは本音を出してしまった。

 おじさん、実はハーレム気分でウハウハだったのである。

 女の子たちに囲まれていい気分だったのだ。


 おじさんは彼女たちを手折ろうとは考えていない。

 前世の記憶からすれば、娘たちとでも言える年齢だからだ。

 だから愛でたかっただけ。


 そこへこの言葉である。

 おじさんは激怒した。

 かの邪知暴虐な王太子を必ず排除しなければ、と。


 端正なその容に怒りの色が宿った。

 アクアブルーの瞳が王太子を射貫く。

 美人が怒ると怖いのだ。


「殿下、わたくしは級友の皆と食事がしたいのです」


「う、うむ。そうか、じゃ邪魔したな」


 すごすごと引き下がっていく王太子とその取り巻きたち。

 その姿を見て、何人かの令嬢はグッと拳を握りしめたのであった。

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