黒崎の誘惑
「じゃあ、またな。頑張れよ」
「はい」
亮が電話を切ると内村たちが笑っていた。
「今度は何株だ?」
「ロシアで1億株です」
「合計で4億9000万株か33%まであと5000万株
何とかなりそうか」
「はい、有効株数(6か月以上保有)を精査すると
もう少し減ると思いますので1億株あれば安全圏内で
拒否権発動できると思います」
※拒否権とは重要議決が決定される場合
株主の3分の2の賛成で決定されるが3分の1の反対があれば
それを拒否できる。
「そうか、後1億株か・・・やはりいなほ銀行の考え次第だな」
内村はため息をついて座り直した。
「少なくとも企業年金の喪失の原因を追究して
社長及び取締役の責任の追及して
行きたいと思います」
「それは荒れそうだな」
「F電機は総会屋とがっちりと組んでいて
問題解決の為には随分乱暴な事をするそうですが?」
笑っている内村を横目に甲山は総会屋の
妨害を心配していた。
「はい、総会屋塩見正長です。かなり強引な手で
株式総会を抑え込むそうです」
「それなのにまたやるんですか?」
「はい、やります」
亮は甲山に自信をもって答えた。
~~~~~
女装した小関がトランクを車に乗せると運転席に
大飯が乗った。
「さて行くぞ」
「この女物の服を脱がしてもらう、どうもウエストがきつくて
たまらん」
「破っていないだろうな、後でその服を着せないとまずいぞ」
「大丈夫だ。そろそろこの女トランクから
出すぞ。窒息したらまずいからな」
「ああ、明日の夜に上海行きの貨物船に乗せて
上海に着くまで船員に嬲り者になって
中国の領海に入ったら殺して海に捨てられる」
「気の毒にな、一思いに殺されて方が楽だろうに」
「死体が見つからないようにが依頼人の希望だ」
~~~~~
銀座の寿司店は高級店が多く
銀座で飲んだ社用族が会社接待交際費で
食べる人がほとんどであるが
接待になれた男たちは味にうるさく、
少しでもまずい物を提供すれば
あっという間に噂は広がり
高い家賃の銀座では商いは成り立たなくなり
閉店に追い込まれる。
ゆえに日本中の食通が集まる銀座の店主は緊張の毎日なのである。
その中でも銀座の老舗長兵衛に入った
黒崎長一郎は二人の美女と寿司を食してご機嫌だった。
「美喜君、実は渋谷道玄坂にあるセレクトショップの店長が
辞める事になってね。君に任せるから自由にやってみないか」
「本当ですか?じゃあそこで私のデザインの商品を売れるわけですね」
「うん、そうだ。当面売り上げの事は心配しなくていいから、
それに海外に仕入れに行くならそれも良い」
「黒崎さん素敵!仕入れなら香港が良いわ、
この前も香港に行ったばかりなの」
正一郎は今夜美喜を抱けそうな雰囲気に興奮していた。
「うん、いいよ。君の自由だ。そうだ仕入れに
多額の現金を持って行くだろうから
ボディガードにマギーと一緒に行くと良い」
「はい」
美喜は正一郎に答えマギーに微笑んだ。
「どうだ、報酬の話は静かな所で二人きりでしないか?」
「そうですね」
美喜は正一郎の話を受け入れた。
「よし!」
正一郎は塩見のところに確認の電話を入れた。
「例の件は片付いたか?」
「はい、今部屋を連れ出して監禁場所に向かっています」
「分かった、くれぐれも例の件は守ってくれよ」
「はい、処理は3日後、中国で行いますのでご安心ください。
死体は見つかりません」
「分かった、よろしく頼む」
正一郎は自分のアリバイを確保した安心に
顔が綻んでいた。
「さて、行こうかな。美喜ちゃん」
「はい」
「マギーは我々をホテルに送ってもらえば帰っていいよ」
「はい、承知しました」
マギーは後ろから手を回し美喜に白いピルを渡した。
「あら」
マギーがカウンターに目をやるとお土産寿司を持った亮が微笑んでいた。
~~~~~
亮はクラブ蝶を出てまだ作業中の中村達に寿司を持って
銀座の事務所に向かった。
「中村さん、夜食です」
「あら、長兵衛の寿司ですか?ありがとうございます」
亮から寿司を預かった桃華はお茶の支度を始めた。
「それでどうですか?」
「かなりひどいわね。黒崎は関西ステート銀行が貸付をした企業から
見返りをもらっているようだし、検索しても出てこない会社もあるわ。
特にこの3件は山田組のフロント企業です」
「あっ、ホワイト興業の大阪支店も入っていますね」
亮はリストを覗き込んで企業名を記憶していた。
「はい、未回収金がトータルで860億円、
回収不可能の企業が100はあると思います」
「なるほどこの情報が金融庁にばれたら監査が入って
黒田正一郎の数々の不正が一挙にばれてしまいますね」
亮は中村の出した帳簿を体を乗り出して覗いた。
「亮さん、これを証拠に金融庁に報告しますか?」
「盗み取った情報など誰も信用してくれませんよ。
ただあの男には罪を償ってもらわないと。
しかしこんなにひどいとは思いませんでした」
亮はまた落合に連絡をして金融庁の人間を紹介してもらうか
考えていた。
「亮、今どこ?」
美咲から電話がかかって来た。
「事務所にいます、どうしました?」
「あなた私に隠し事していない?」
「い、いいえ別に・・・」
亮は慌ててそれを否定した。
「そう、今日落合さんから電話が有ったわ国税庁の
人間を紹介して欲しいって言ったそうね」
「ええ、黒崎正一郎が脱税している可能性があるので」
亮は落合と美咲がまだ付き合いがあるのかと疑っていた。
「証拠見つかりそうなの?」
「はい、代官山の愛人のマンションに隠しているようです」
「そうか・・・脱税は税務署、国税局だからね。
ただ横領は警察だから横領の事実があればすぐ動くわ」
「その時にはよろしくお願いします」
美咲と落合の関係が頭に引っかかっている亮は冷たく答えた。
「落合さんが国税の人を紹介する時私も立ち会うわ」
「分かりました・・・」
亮はしばらく無言でいた。
「ところで美咲さん、飯田さんの件はどうなりました?」
「その件ね。10年前にお金を借りて1円も返済していないので
詐欺罪になるから捜査二課が準備しているわ」
「では明日の朝F電機の株主総会で塩見を逮捕してください」
「・・・逮捕すれば恐喝などの余罪が出てくるはずだから
二課だけじゃなく一課も喜ぶわ、あの塩見を逮捕できるんだから」
美咲は大物総会屋を捕まえる事で
興奮していた。




