鈴木聡の正体
「石油部門は色々な利権や価格で裏の取引があります。
ひょっとしたら二井物産は何かの事情で
鈴木聡の存在を隠しているのかもしれません」
「なるほどな、それでそっちの方はどうなった?」
「キム・ユンヒの黒幕と思っていたもう一人の
鈴木聡を捕まえたんですが
黒幕の替え玉だったんです。
本当の黒幕は森さんも知っているあの森田耕作です」
「森田ってあの森田か!」
「はい、おそらく森田を操っているもっとダークな
人間が垣間見えていますけどね」
「恐ろしいな」
「それから一文字大介と高田義信がホテル内にいたんです」
「なんだって!」
森は亮に恨みを持っている森田と一文字と高田の名前を聞いて
亮の対する復讐とにしか思えなかった。
「それから小妹がキム・ユンヒをイラン大使館付近まで
追い詰めたんですが逃げられたようです」
「そうか、残念だったな」
「はい、残念です」
「そうか、そろそろこっちのパーティが終わりそうだが
戻ってくるのか?」
「いいえ、まだ新宿で後始末があるので後はお願いします」
「了解、気を付けろよ」
「任せてください。僕には仲間が居ます」
亮は蓮華と桃華の事が心配で今すぐにでも
有栖川公園に行って二人を探したかった。
しかし、今ここで浩二を追い詰めて捕まえる事が
命を懸けて戦っている二人の意志と亮は信じていた。
「ああ、そうだな」
亮はダテメガネをかけてラブポーションに客として入った。
「ご指名はございますか?」
案内の女性が亮の前で膝をつき
指名の確認を取った。
「いらっしゃいませ」
間もなく1人の女性が亮の前に現れた。
「こんばんは」
亮は初めて見るホステスに頭を下げた。
「梨華です。よろしくお願いします。
お客様ここへは良くいらっしゃるんですか?」
梨華は驚いた顔をして亮の全身を舐めるように見た。
「そうですね、1か月以上ぶりかな」
亮はそう言いながら周りのスタッフとキャストの動きを見ていた。
「私は1か月前にここで働き始めたからすれ違いでしたね」
亮の事を知らない梨華は普通の客と同じトーンで話を始めた。
「そうですね、梨華さんこのお店の雰囲気はどうですか?」
「えっ!楽しいです。お客様は多いしスタッフさんは親切だし
福利厚生でマッスルカーブへ只で行けるんです」
「そう、それはすごい」
「私たちトレーニングに行っているので、マッスルカーブに
入会なさったらいかがですか?」
亮は自分のしていないはずのマッスルカーブの
勧誘をする梨華の話を聞いて不思議に思った。
「美女が集まるスポーツジム良いですねえ」
亮は興味深そうに微笑んだ。
「でしょう。はい無料体験カード」
梨華はマッスルカーブの一回無料券を亮に渡した。
「随分準備が良いですね」
「お客さん、信用できる人?」
梨華は亮の目を見つめ真剣な顔で聞いた。
「は、はい、あなたの両親の次に信用できると思います」
亮が言うと梨華がケラケラと笑って指切りに小指を出した。
「じゃあ約束ね。実はこのお店とマッスルカーブの
経営者が同じなんです」
「へえ、水商売とスポーツクラブですか。面白いですね」
亮は一生懸命話をする梨華の話に乗っていた。
「それにここのステージに出演するアーティストも系列会社で
時々人気な歌手が出演しているんですよ」
「すごいすごい」
「それが、この前マッスルカーブでトラブルが有って
会員さんが減っちゃったらしいの、
それでマッスルカーブにお世話
になっている私たちが自主的に
ここに来るお客さんに紹介しているんです」
「へえ、社長の命令じゃないんですね」
「ええ、私まだ会った事が無いんだけど
すごく素敵な社長さんらしいんですよ。
だから私も社長の為に頑張っているんです」
亮は一生懸命に自分の話をしている梨華に感謝した。
「梨華さん、将来の夢はなんですか?」
「旅行関係の仕事がしたいんです。だから英語の勉強しなくちゃ」
「そうですか・・・」
亮がそれを聞いてHITを紹介する考えていると
亮の元に電話がかかって来た。
「亮、浩二が私の事を誰かに紹介するみたいで
20分後にお店を出るわ」
「了解です。くれぐれもおかしな物飲まないでください」
「分かっているわ」
「私が付いているから大丈夫ですよ」
突然電話の向こうに孝子の声が聞こえた。
「ああ、孝子さんですか。よろしくお願いします」
「OK」
「梨華さん、せっかくだけど用事が
出来てしまいました。チェックお願いします」
「あん、もう帰るんですか?」
梨華は魅力的な亮ともっと親しくなりたかった。
「また来ます」
スタッフが亮に明細を持ってきて亮は1万円札を渡した。
「おつりはチップです。それに見送らなくて結構です」
亮はかっこつけていると梨華が不思議そうな顔で聞いた。
「あのう」
「はい!」
「どうして、タキシード姿なんですか?」
「へっ!」
亮は自分のしていた服装を思い出した。
「その格好なのでホテルにお勤めかなと思いました」
「い、いいえ」
亮は恥ずかしそうに席を立つと
店の入り口で眼鏡を外し、理沙を呼んだ。
「亮さん、どうしたんですか?突然」
「ちょっと遊びに・・・」
「それで誰が接客したんですか?」
「梨華さんです」
「接客は大丈夫でしたか?」
「はい、それでお願いがあります。彼女たちの配っている
マッスルカーブの無料券に個人が認識できる番号を入れてください。
受け取った人がマッスルカーブに入会した時に
紹介料が入るようにします。
気遣ってくれてありがとうございます」
「いいえ、キャストの女の子たちが
自主的にやっていたんですよ」
「心から感謝します!」
「そういえば、お父様が時々お店に
いらっしゃって助言いただきまして
ありがとうございました」
「本当に父は役立ちましたか?」
亮は秀樹はただ若い女性に囲まれて喜んでいるだけだと思っていた。
「はい、ここで働いている女子大生の奨学金の
推薦状を書いてもらったり、
英語での面接の練習をしてくれました」
「まさか保証人にはなっていませんよね」
「ないみたいだけど、一人春から美宝堂に入社するみたいですよ」
「えっ、本当ですか?」
美宝堂は入社審査が難しいと言われ
美人はもちろん、その中でも家柄の良い子女は優先的に
採用すると聞いている。
亮は自分が女性に甘いのは父譲りだと実感した。
「理沙さん、息子さんの件は弁護士さんが進めています。
今度一緒に行きましょう。大門さんと言う優秀な方です」
「えっ、大門さんですか?」
「知っているんですか?」
「ええ、大門さんは熊田の古くからの友人です」
目を伏せた理沙に何か言い難い事が有るように見えた。
「理沙さん、じゃあ、また来ます」