悦子への提案
亮は悦子が出した伝票にサインをすると
悦子は興味深そうに名前を読み上げた。
「團亮さん」
「はい」
商品のラッピングを待っている亮に
店内にいる女性が話しかけてきた。
「済みません、このバッグの色違いはありますか?」
「このバッグは他にブラウン、オレンジがあります。
お客様の場合は
ブルーの方がお似合いですね」
亮は美宝堂の店内にいるような気分になって
商品を進めると他の女性客たちも次々に亮に話しかけてきて
店内は異常な雰囲気になっていた。
ラッピングが終り店の外に出ると亮は彩音にポーチを渡した。
「はい、約束のプレゼント」
「あ、ありがとう」
彩音は亮にいきなり53000円のポーチを
何の交換条件も無く渡され驚いていた。
「じゃあ」
亮は彩音にそっけない態度を取った。
「えー、もう帰るの?」
「はい」
「やだ、そんなの」
彩音は目に涙を浮かべた。
「そう言われても僕はあなたと
付き合うつもりはないし・・・」
「どうして、どうして私にこんなに高い物を
買ってくれたの?私じゃダメなの?」
亮が何の代償も求めない事で雑誌の人気モデルの
彩音のプライドはズタズタになっていた。
「一緒にピートに行ってくれたお礼です」
「ああん、そんな」
亮は足をバタつかせ茫然と立ち尽くしている
彩音と別れ、井の頭線の改札口の前で
悦子からもらった名刺の裏側に書いてある
番号に電話を掛けた。
「團です、先ほどの約束通り電話をしました」
亮はレジの前で悦子に電話を
するようにと名刺を渡されていた。
「あっ、團様。先ほどはありがとうございました」
「いいえ」
「今からランチいかがですか?
ちょっと早いですけど・・・」
悦子が亮を誘った。
「分かりました。ではマークシティで」
「はい、すぐに向かいます」
悦子は少女のように胸を弾ませ店を出て行った。
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東京第一不動産の会議室では取締役を集め久保田社長が
ランド不動産との逆さ合併の話をした。
上場企業と未上場企業の合併で未上場企業が大きい場合
でも証券取引所が認めれば上場維持される。
社名はランド不動産に社名変更されながら
上場を維持すれば合併後の株価は何倍も上がる事になるのである。
取締役会はそれを見込み、合併を承諾した。
「では、明日キャシー・ランド氏を迎え合併に向けて
動く事にします」
久保田茂は立ち上がって頭を下げた。
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亮が待っていた25階のレストラン、アビエント
に悦子が入って来た。
「済みません。お誘いして」
「いいえ、僕ももっと話がしたかったので・・・」
「良かった・・・」
彩音は嬉しそうに笑い周りを見渡すと
女性たちが亮を気にして見ていた。
「ここはブッフェなので、さあ食べましょう」
「は、はい」
二人は料理を取って席に座ると悦子が
亮に聞いた。
「彩音さんはお帰りになったんですね」
「ええ、あの後すぐに・・・」
「あのう、二人の関係を聞いていいですか?」
「今朝、ハチ公前で初めて会って
お茶をしてそちらもお店に行ったんです」
「じゃあ、マッチングアプリかなんかで?」
「いいえ、彼女に直接声を掛けられました」
「はあ、そうですか・・・逆ナンパ?」
悦子は首を傾げた。
「いやいや、それほど僕はもてませんよ。
たまたま彼女が友達にすっぽかされた
みたいで暇だったようですよ」
「じゃあ、彩音さんとは・・・」
「ええ、LINEもメルアドも電話番号も知りません」
「そう、なんかもったいない気がするけど。
教えてくれないならしょうがないわね。
彼女けっこうファッション誌では人気があるんですよ」
亮はファッションショーに出る有名モデルは知っていたが、
ファッション誌レベルのモデルまで気が回らなかった。
「そうですか。6歳年下なのでそんなに気になりませんよ」
亮はそう言って自分の年齢を推測させた。
「そうすると團さんは私より1つ上
なんですね。随分落ち着いているから
私よりかなり年上だと思っていました」
「えっ、田代さんは27歳であのお店のオーナーなんですか、
すごいですね」
「いいえ、私は店長でオーナーは別に居ます」
「そうですよね、あのお店補償金や内装それに仕入れ代金。
最低でも5千万円以上かかっていますよね」
「まあ、計算が早いですね」
悦子は亮の計算の速さに驚いき
先ほど店内で他の客に的確なアドバイスを送っていた事に
興味を持っていた。
「團さん、ブランド名を教えていただけますか?」
「はい、スタジオDです」
「スタジオDってあの銀座の美宝堂にある?」
「はい、ご存知でしたか」
彩音がスタジオDを知らなかったので
亮は不安だった。
「ええ、確か去年銀座ファッションショーを主催しましたよね」
悦子は銀座のホステスたちが率先してファッションショーの
チケットを販売していた頃、蝶で働いていた。
「はい、そうです」
「じゃあ、團さんって美宝堂の・・・」
「息子です」
「じゃあ、あなたは私の店をスパイに来たの?」
悦子は声を荒げた。
「いいえ、逆です。僕があなたのお店の力
になれないかと思っています」
「どういう意味ですか?」
「美宝堂はご存知のようにブランド品販売の老舗で
多くの富裕層の顧客を持っています。
実は密かに顧客のブランド中古品の
買取を行っていてその在庫が山のようにあるんです。
天下の美宝堂がリサイクル商品を売る事が出来ません、
もしよかったらそちらで販売出来ないかと思っているんです」
「本当ですか!」
悦子は現金仕入れの為に多額の現金を用意しなければ
ならず、店の運営に悩んでいた。
「はい」
「その話、詳しく聞かせてください」
悦子は体を亮に近づけた。
「商品はすべてクリーニング、修理してありますので
新品同様の物もあります。
それで資金の事もあるでしょうから当面は
委託販売でいかがですか?」
「はい、お願いします」
悦子は目を輝かせた。




