第3話
俺(僕)は夢を見ているような感覚だった。
でも、夢のようで夢でない感じがある。
俺(僕)は互いに顔を合わせる。
「お前、誰だよ?」
「ぼ、僕ですか? 僕はリッカと言います」
幼い少年は大人の人に威圧されながらも自己紹介をした。
大人の男は特に反応がないままブツブツを独り言を言っている。
「これは一体どういうことなんだ? 俺は死んだんじゃなかったのか?」
「あ、あのー。何を一人で考えているんですか? あなたは誰ですか?」
リッカは恐る恐る男に話しかけた。
男は特に表情を動かさないままリッカを見た。
「俺か。俺はだなー・・・『勇気』とでも言っておこうか。この感じだと俺は多分消えてなくなるからな」
男はニヤリを笑った。
リッカは困惑した。
「消えるってどういうことですか?」
男は「まあ、最後だと思うしなー」とまた独り言を言ってリッカに話した。
「どうも、俺にもよくわからんが、俺はもう死んでいるらしい。でもなぜかこうやってお前・・・リッカに会ってしまっているだけだと思う。まあ、ちょっとした運命とでも言おうか」
「おじさん死んじゃったの?」
「まあ、そうなんだろうな。俺の最後の記憶も確実に死ぬ状況だったしな」
二人は真っ白な世界にいたが、いつの間にか生活感のある部屋にいた。
「ここは俺の部屋か、何だか懐かしい感じがする」
男は本当に懐かしむように部屋を見渡していた。
「おじさん、ここで生活してたの?」
リッカは勇気の方を向いて言った。
「ああ。ここが俺と俺の家族が最後に生活していた部屋だ。広い部屋ではなかったが、あの頃はとても幸せだった」
初めは優しい顔をしていた勇気だったが、徐々に怒ったような顔になった。
「でも、ある日を境に俺はこの家から出ていった」
「何があったの?」
子供の純粋な疑問が男の胸に刺さる。
男はすごい形相でリッカを見たが、この子には何の罪もないことを思い出した。
「まあ、なんだ。あまり面白い話ではないから聞かないほうがいい」
リッカは納得していないと言った顔をした。
「世の中には、知らない方が幸せに生きていけることがある。多分、これはその一つだ」
勇気は悲しそうな、寂しそうな顔をしてリッカに話した。
「・・・うん。わかった。もう聞かない」
「いい子だ」
勇気はリッカの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「さて、リッカも何か悲しいことがあったんじゃないか?」
空間はいつの間にか全く違うものになっていた。
どこかの屋根裏部屋だろうか、天井も少し低くて斜めに傾いている感じからそうだと思われる。
「うん。ここは僕の部屋だよ」
「お前、こんなところに住んでるのか?」
子供部屋にしては何も置いていない殺風景な部屋だった。
でも、しっかりと掃除は行き届いているのか埃などのゴミは見当たらない。
「綺麗だな」
「いつも掃除してくれるお姉ちゃんがいるから! 僕といつも遊んでくれる優しいお姉ちゃん何だ!」
リッカはとても嬉しそうに楽しそうに話す。
「とてもいい人なんだな」
「うん!・・・でもね、お父さんやお母さん、それに弟も僕のこと嫌いなんだ」
リッカは暗い顔をした。
それはとても子供がしていい顔ではないと勇気は感じた。
「何だ? 何かあったのか? ほら、話してみると泣くになるもんだぞ」
勇気はそう言ってリッカに話すように勧めた。
リッカはい言いづらそうにしながらも何があったのか話した。
勇気は黙ってそれを聞いた。
「おい、それは親がやっていいことじゃねえだろ」
勇気は怒っていた。
これでも父親をしていた身だ。
そんな親のことが勇気は許せなかった。
「でもいいんだ。 お姉ちゃんたちやお料理してくれる人たちが優しくしてくれるから、毎日が楽しいの」
どこか悲しそうに言った。
勇気は何もしてやれない無力感を感じていた。
状況はまた変化した。
満天の星空だがどこか宇宙が落ちてきたような宇宙だった。
そしてその視界には大きくて美しい満月が輝いていた。
「綺麗だな」
「うん」
その満月は黄金に輝いている。
男は子供の前に膝をついて目線を合わせる。
「もう、そろそろ時間みたいだ。最後に言っておきたい」
男は子供の手を両手で包んだ。
「君が生きてるかどうかはわからない。死んでしまっているからね。でも、これだけは言わせてほしい。心に留めておいてほしい。君はもっと自由に生きなさい」
リッカには何を言っているのかわからなかった。
「君は、なんかずっと我慢をしているように見える。あの部屋を見て、君の表情を見てそう思った。それじゃだめだ。絶対に後悔する。いいかい、君にはそのための時間がある。後悔しないように、人生を楽しみなさい! 俺みたいになるな!」
リッカには理解できなかったが、なんだかわかったような気がした。
勇気も自分がいきなり何を言い出しているんだと思ったが、どうもいう必要があると感じた。
「俺の名前は『勇気』じゃないんだ。でも、君の中では『勇気』さ。勇気を持って生きるんだ!」
男はそう言って右手同士で握手するように手を握った。
「じゃあ、そろそろ行く。もう会うことはないだろう」
そう言って、徐々に光の粒子になってリッカの体の中に入っていく。
「・・・? なるほど、そういうことか。俺はお前でお前は俺だったのか」
「え? 何?」
そう言って、全てが終わった。
リッカもすぐに姿が消えた。
残ったのは満天の宇宙と笑うように輝く黄金の満月だった。
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