№5 Revenge Match ①
※この話は『最強ネタビルド~金棒装備の魔法使い(遊び人)~』で間違いありません
「よっし!勝ったーーー!!」
「おめでとう兄ちゃん!」
「すげー!また勝った!!」
「すごーい!」
WOMの正式版がスタートして早10日。殆どのプレイヤーが次の街まで一度は到達している中、1人の男は相変わらず街から一歩も出ず、歓声を上げる子供たちに囲まれて、そして数十戦の末に幼女に勝って恥も外聞もなく雄叫びを上げる。
一点差で負けてメインクエストがストップした翌日、ダーパンはギリギリで幼女に『エーテルカード』で勝利したが、βテスト同様そこでクエストは終わらない。別のゲームで決闘を挑まれた。幾度となく負け、漸く勝てば今度は次のゲーム。幼女が挑むのは決まって運と戦略が両方絡んでくる勝敗の行方がどちらにも転がる可能性のあるゲームばかり。
逆を返すと、もしチェスとか運の絡まないゲームならAIに勝てるわけがないので運が絡むゲームばかりなのは好都合、とはいかない。何をしても一発では決して勝てない。今のところ一番早く決着がついたのはトランプゲームの一つであるハイ&ロウ。これは三回で勝利した。逆に、運要素が薄いヌメロンというゲームを真似たカードゲームでは数えたくないくらいの大苦戦をした。
しかし、ダーパンは実感していた。βテストの時よりはかなりいいペースで勝てている、と。『遊び人ex』の効果か、それとも単純になんども挑んだせいでゲームが上手くなっているのか、それはダーパンにはわからないが、勝率自体は明らかに上がっていると感じている。
依然として幼女が何故勝負を挑んてくるのか、何故ここまで強いのか、それは一切見えてこない。これまで遊びが終了し解散となった際に、ダーパンは追跡スキルで幼女を追いかけてみようともした。しかし、幼女はいつも忽然と消えてしまう。正体不明であり、これがいつ終わるのかもわからない。幼女は勝手も負けてもとても嬉しそうであり、意思が読めない。
今も自分がやっとこさ勝利して、大人気なくガッツポーズしても拗ねるどころかとても嬉しそうだ。むしろダーパンが勝てば勝つほど、喜びの感情が大きくなっている様に見える。
そして幼女はどこからともなく取り出したものを両手に載せてニコニコしながらダーパンに突き付ける。
【『????』から決闘を挑まれました。特殊ルールを適用します。決闘は『100ハインドヨット』の勝敗で決定します】
【決闘を受諾しますか?YES/NO】
幼女が手に持つのは『金色の100面ダイス』5個。それはダーパンがβテストで唯一、勝率0%のまま断念した因縁のゲームと同じ。その時、御隠居が取り出したのも、今までゲームで使っていたサイコロとは違う『金色の100面ダイス』。
「もしかしてこれは、最終決闘なのか?」
ダーパンが思わずそう問いかけると、幼女は満面の笑みで何度も頷く。
「すげー」
「きらきらしてるー!」
「きれいだね~」
「ほうせきみたい!」
オーディエンスとして飽きもせずにずっと二人の勝負を見ていた子供たちはそのダイスに歓声を上げる。今までのゲームでは子供たちはそのルールを知っているようで、どんなゲームでも楽しそうに見て、勝敗が決まればリアクションをした。しかし今回は、子供たちは幼女の取りだしたそれがなんなのかも理解できていない。そしてこのゲームだけは、既存のゲームを元にしている物の唯一のWOMオリジナルのゲーム。
つまり「今までのゲームとは違う」というメッセージ。
今度こそ、本当のリベンジマッチ。ダーパンは漸くここまできたという歓喜と、またクエストが詰みかねないスリルの両方を感じながら決闘を受諾するのだった。
◆
「ヨット」という6面のサイコロを5つ使って遊ぶゲームがある。非常にザックリ言えば、サイコロを使ったポーカー。つまりサイコロの出目で役をつくり、その点数で勝敗を競う。
ただしポーカーと違うのは、役がただそろえばいいというわけではなく、既定のターンの中で定められた役を多く作った方が勝利するというシステムであるということ。
ポーカーで言えば、フォーカードという強い役を何度も出せばいいわけではなく、フォーカード、フルハウス、ツーペアなど色々な役が出たほうがいいということだ。
完全な運ゲーに思えるが、意外と戦略性がある。
例えば1の目が3つ、6の目が2つ出たとする。
この時成立できる役は4つ。3つの目と2つの目がそろっている時に成立する『フルハウス』(得点は出た目の合計。つまりここでは15点)、出た1の目を合計する『エース』、出た6の目の数を合計する『シックス』、そして出た目の合計を点とする『チョイス』だ。
この中で最も成立し難い役は当然ながらフルハウス。しかし1が3つで成立してしまっている。例えば3が3つ、4の目が2つでもフルハウスは成立しこの時は17点手に入る。ではシックスはというと、6が2つしかない。チョイスを使うのも期待値から考えると悩むところだ。
しかし、ヨットは1ターンの中で2回ダイスを振れる。1回目は全てを、2回目は振りたくないダイスはキープして振りなおしたいダイスを振れる。
ここで6の目2つを残し、1の目3つだけを振りなおす。
この時6の目が一つでも出ればチョイスは期待値以上を確実に達成、シックスなら18点以上だ。もし2つ出ればフォーダイス(4つの目がそろう)も狙える。
しかし1、1、4とでると、まずフルハウスは不成立。シックスも12点と変わらず、勝負にでないならチョイスしか選択肢がなくなる。一度成立済みにした役は上書きできない。例えば2回ふっても運悪く点の高い役が一つもできないことがある。それでもどれかの役を犠牲にしなければならない。それがヨットの難しいところだ。
それをとんでもなく複雑化したのが「100ハインドヨット」。使うのは100面ダイス5個。そして作るべき役の数が大幅に増える。その上、通常のヨットと違い相手の出目を見れても何の役を成立させたかは確認ができない。
さらに、事前に11枚のカードが配られており、このカードを使うことでダイスをもう一度振りなおしたり、裏返して使うと「相手のダイスを振りなおさせる」こともできてしまうような色々な特殊効果を持ったカードがゲームをより複雑化させる。
そしてこのカードは使わなければそれはそれで点数となる。当然有用なカードほど残しておいた方がもらえる点は高くなる。しかしそれだけは決して勝てないのが100面ダイス×5という滅茶苦茶なルールである。
このカードをいつ使うのか、それとも使わないのか、相手がどの段階でどんなカードを使ってくるかも予想しなければならない。
これによりゲームの戦略性は格段に上昇する。そしてこのゲームでダーパンは御隠居に全敗した。ただの運ゲーと詰ることもできたかもしれない。しかしあとでゲームを見直せば、自分の戦略により勝てた可能性の高い勝負も多々あった。だからこそ、なかなか諦める決心のつかなかったゲームなのだ。
幼女は目をキラキラさせて輝くような無垢な笑みで、100面ダイスを一気に振った。
◆
「(『イーブンナンバー(出目偶数のみ)』か。18、28、38、40、58の合計に+100だから282点。悪くはないが…………)」
20ターンのうち、第16ターン目。18、38、40を残しダーパンの2回目に振ったダイスは28と58で、イーブンナンバーの役を成立。だが、『神の手』という特殊カード使えば一つのダイスの数字を自由に変化させられる。この時、40を48にすると、10の桁が連番で1の位は等しい『10Bストレート』という特殊な役が成立する。
『10Bストレート』は4000点。しかし『神の手』のカードは強力なだけに1000点分の得点がある。更に『神の手』のカードは調整した点数分×100点のペナルティ。つまり-800点。
計算しなおせば+2200点ということになる。『神の手』の得点とペナルティ点の合計は超えている。だが、『神の○○』というカードはあと2枚あり、それを全部残すと特殊ボーナスが発生する。ただし渋っていると『チェンジング』というカードで持ち札をランダムに1枚交換するカードでとられてしまう可能性がある。残り4ターン、自分の残りカードはあと5枚。11枚のうち『神の○○』シリーズは未だに3枚全部持っているが、幼女はまだ『チェンジング』を使っていない。
この場で『神の手』を出し渋り、次のターンで『チェンジング』でカードを取られたら最悪だ。『神の○○』シリーズを全て残して終了することによるボーナスは+1万点。
しかし1枚とられただけでそれは不成立となり、其のうえ幼女は3/5の確率で『神の○○』シリーズのカードを自分から奪える。もし自分ならば、ここで『神の○○』シリーズを使わなければ次のターンで『チェンジング』を出すとダーパンは考える。
最悪のパターンは、『チェンジング』で『神の○○』シリーズを取られ、幼女側で『神の○○』シリーズ保持のボーナスが発生してしまうこと。カードのボーナスは相手からとっても発生する。そしてこのボーナスは『神の○○』シリーズを種類に関わらず3枚以上持っていれば成立する。
ならばここで使ってしまう方が賢い。しかし『神の手』という強力なカードを使って+1800では少し損だ。役の出来方はどっこいどっこいかもしれないが、幼女は特殊カードをまだ7枚も残している。これが全部最後にボーナスになると一気に点が増えて負ける。1800点ではこのボーナス分を解消できない。
このように、ダーパンは1ターン1ターンで非常に頭を悩ませることになる。
『100ハインドヨット』は本家ヨットのサイコロと同じぐらいにこの特殊カードの駆け引きが重要になる。10面ダイス故に点数が極端に上下しやすく、役の点数も非常に高い。最後の一手で全部ひっくり返ることもあるのが、このゲームの異常に恐ろしく難しい所だった。
ダーパンは既に数十と挑んでいるが、未だ一勝もできていない。非常に楽しそうな笑み自体がポーカーフェイスとなり、ダーパンは自分がどれほど有利か推し量れない。
ダーパンは悩んだ末に『神の手』を使用。1800点を獲得。
続けて幼女のターン。カードは未使用。2回振って53、65、71、87、99。『イーブンナンバー』の奇数版『オッドナンバー』か、それともチョイスか、十の桁が連番の『10ステア』か、一の桁の奇数をコンプリートする『フルオッド』か、どれを選んでもかなりデカい点数が手に入る。
ダーパンは残しておいたカード『スナイパー』を使ってダイス『99』の振りなおしを要求。幼女が再度振りなおせば、ダイスは『2』。これではなんの役も成立しない。『スナイパー』の持ち点は500点だが、それを差し引いてもこの妨害は非常に大きい。
さて、自分のターン。ダーパンがダイスを振ると、11、44、55、65、88。特殊な役は無し。65を再度振りなおして77。5つ全てがゾロ目の『フルダブルアイズ』の特殊役が成立。『フルダブルアイズ』は出た目の合計の×20点。つまり5500点。なかなか出る役ではない。というより、ダーパンもカード未使用では初めて成立させた。
しかしここでダメ押しカード『神の祝福』。『神の○○』シリーズの一枚で、得点を倍加させる強力なカードだ。持ち点は1000点だが、1万点のプラスなら何の問題もない。『神の○○』シリーズによるボーナスを捨てたぶんは回収できた。
そう思いダーパンが『神の祝福』を使おうとすると、【相手のターンが終了していません】と表示される。
100ハインドヨットは、1ターンの間に、まずダイスを振るほうにカードを使う権利が与えられて、それからダイスを振り、ダイスを確定した後でもう一方にカードを出す機会が与えられ、最後にダイスを振った方がもう一度カードを使う機会が与えられる。これが1ターンの流れだ。
しかし、幼女は11枚のうち相手のダイスを変えられる2枚のカードの両方を使い果たしている。では一体何を使う気なのか。幼女の手には『チェンジング』のカードが握られていた。
「(あ、やべ!!)」
16ターン目に『神の手』を使用。17ターン目に『スナイパー』で幼女の役成立を妨害。残るダーパンのカードの枚数は3枚。其のうち『神の○○』シリーズ2枚。2/3の確率で幼女は『神の○○』シリーズ成立のボーナスで1万点を獲得。万が一、1/3の確率で『神の祝福』を取られたら、4500点分の加算分を阻止したうえに1万点を幼女は獲得する。
斯くして『チェンジング』で交換されたのは――――
「(『神の祝福』持ってかれた上に『Joker』かよ!!)」
11枚の特殊カードのうち、非常に厄介なカードが2枚ある。それが『Joker』。所持していると-5000点。このカードはダイスを振る前に“自分だけを対象にすることしかできない”特殊なカードで、出た目の合計分をマイナスするというとんでもなくお邪魔なカードである。
万が一役が成立すると役の点数までマイナスに裏返るという鬼畜仕様。絶対にいらないカードだ。そのカードをよりにもよって『チェンジング』で受け取ってしまった。
ダーパンは序盤にさっさと『Joker』を処理したが、幼女は2枚とも保持していた。そしてカード残り7枚で『チェンジング』。『チェンジング』の分を引いて6枚のうちから1枚交換される。『Joker』を引き当てる確率は1/3。確率としては起きる可能性は十分ある数字だ。
ダーパンはこの『チェンジング』が決め手になり、1万8245点差という記録で今回も惨敗した。