№2 奉催ギルド
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ダーパンがキャラメイクを完了し転送が始まると、視界がいきなり切り替わり虹色の炎で形成された階段が出現する。そして勝手に視点は階段の下の方に進んでいき白い光の中に飛び込む。
思わず目を閉じて再び開くと、目の前の虹色の炎が霞のように消えていくと同時に、古代ギリシャと西洋ファンタジーの世界を融合させたような街並みが現れた。
βテストですらその力の入り用であったのに、今ダーパンの前に広がる光景はそれを超えていた。
βテストってほぼ本番前のリハーサルって意味じゃなかったか?と首を捻りながらダーパンは初めて来た場所に来たら誰もがそうするように、辺りをそれとなく見渡す。
どうやら今現在ダーパンがスポーンした場所は白い大理石で作られた吹き抜けの神殿のようで、内部からでもその構造がパルテノン神殿に近しい物であるということは予測できた。
神殿の床から虹色の火柱、それがスーッと消えていくとまた一人プレイヤーがスポーンする。
プレイヤー達は皆、初期装備の麻の服か、あるいはスタートパックの課金装備を着ているか。どの道バラエティーに富んだ格好では無い。一つ言えるとするなら、通常のVRMMOより女性と美形の%テージが多いと断言できるところか。
それはプレイヤーメイキングの目玉である女性化、美形化を利用している者が少なく無いという証である。
と言っても、VRでのキャラメイクがかなり自由化した22世期では「『一生で最後のお願い』と『VRの外見』だけは信じるな」なんて言葉が一般常識のレベルで認知されているので22世紀現代っ子なダーパンは然程驚かない。
キャラメイクの自由度が低かった頃でも、肌の質感程度までは再現されていないので自然と綺麗に見えたものだ。なのでどんな人でも1割まし程度に美形にはなっていたのである。
そんな顔以外は量産しただけのような装いのプレイヤーの中で明らかに毛色の違う装備をしているダーパンは目立っていたが、彼は他のプレイヤーの視線には一切気取られずポップアップしたメニュー画面を見る。そこにはチュートリアルでの行動指針が書いてあり、そのチュートリアル兼デイリー運営クエストに沿って行動すれば序盤の動きは問題なく理解できるようになっていた。
しかも戦闘メインか生産メインかで2つのルートのチュートリアルクエストが存在しており、運営側の丁寧な配慮を感じることが出来る。
βの時はもう少しザックリしていて、VRMMO系のゲームが初経験の上、そもそもゲーム自体初めてのテスターは何をしたらいいか完全にまごついていたせいだろう。
―――――今日日ゲームをした事がない奴なんて絶滅危惧種に近いしな。色々な奴がいるもんだな。
21世期の非VR系MMOゲームに対し、22世期のVRMMO系ゲームの自由度は非常に高い。しかし自由度が高いということは選択肢が膨大な量になるということであり、それに戸惑って何もできないよりはある程度最初は流れに沿って考えずに行動できた方がいいという人種がいるのも確かだった。
このチュートリアルクエストによれば、最初に向かうべきは調査防衛ギルド、通称『冒険者ギルド』か、生産関係を司る『農水ギルド』か、β時代で最初の段階で慣れている者は序盤をスキップして特殊なコミュニティに属するため【宗教ギルド】かSubClassのフラグが大量にある【ギルド運営図書館】に向かうことになる。
メニューからMAPを開けば、主要な公共の建造物は表示されており沢山のプレイヤーが調査防衛ギルドか農水ギルドに向けて歩いているのが見て取れる。
ダーパンもプレイヤー達の流れに逆らわず、ギルドのある方へ歩いていく。モデルとなっているであろう古代ギリシャや中世西洋と違い道幅がかなり広いのはゲームの世界であることを感じさせるが、序盤だけあってそれでも人の数が多い。
公共の建物、つまりギルド関連の建物はβテスト同様に街の中心部に集中しており、ある一定のラインを超えるとMAPから直接対象の場所に転移できる。
日本だけでも万単位のプレイヤーがいるのだ。当然ながら一つの建造物に集中して人が集まれば大変な騒ぎになるし収拾もつかなくなる。
建物の内部は小サーバーが大量にあり、約70人程度ずつに分けられる。リアリティが高いだけあって非常にゲーム的な要素が強く感じられてしまうが、昨今のVRMMOではこの形式が普通である。
ダーパンもまた転移可能地点まできたのでMAPを開き、訪れたい場所をタップする。しかしそこは調査防衛ギルドでも農水ギルドでも、はたまた宗教ギルドでも図書館でもない。
ダーパンがタップしたのは『奉催ギルド』と表示された場所だった。
◆
目の前が虹色の炎に包まれ、再び霧のように霞んで消えると、視界はだだっ広い奉催ギルドの玄関ホール。その奥には10個のカウンター。そこから視線を上に上げると吹き抜けになっており、3階建ての建物である事がわかる。
―――――ここもβと変わってはないな。
ただしカウンターに付いているギルド嬢は全てβ時代と異なっているので、ダーパンは顔馴染みに会えなくなったようで少し寂しいような気がしなくもない。
22世期のAIはもはや人と遜色ないレベルで会話のキャッチボールを可能とする。特にAI研究で今なお独走中のGoldenPear社製のゲームのキャラクターは他のゲームに比べても高度なAIを搭載している。
ただのモブNPCにも名前があり、個性があり、PLと変わりないように思えるのだ。
―――――だからこそ、β時代から引き継ぎはしないわけだ。
幾らβから外装などは引き継げるといえ、そのほとんどはリセットさせる。つまりAIが蓄積した人物データもリセットされる。これでまた同じNPCを配置したら、記憶喪失の人間を相手しているようでそれはそれで嫌だろうな、とダーパンは思う。
「おーい、遅刻だぞー」
だが、変わっていないものもある。
ちょうど二階の部分から身を乗り出し上から手を振る青いツナギに身を包んだクマの着ぐるみが二体もいたら世も末だ。
ダーパンが3ヶ月ぶりに対面するべあーべは、βと全く変わらない格好でダーパンに手を振っていた。
「今いく」
ダーパンは返事をすると、カウンター横の二階に上がる階段へ歩みを進める。もちろん、その道中にいるプレイヤーに片っ端から声をかけて早速フレンドリストを埋めていく。
奉催ギルドの中にいるプレイヤーは第一小サーバーにも関わらず僅か30名ばかり。他のギルドの小サーバーが既に何十サーバーも最大人員の70人満杯になっているのと比べるとひどい過疎具合である。
逆を返すとこんなギルドにゲーム序盤から訪れる人種など限られており、そのどれもがダーパンの顔馴染み。つまり外装とプレイヤーネームを引き継いだβテスター達である。それも『ネタエンジョイ倶楽部』でも少なからず名の知れた連中ばかりだ。
「ダーパンやっぱりその装備引き継いだんすね」
「よう、久しぶり」
「パンダちゃんおひさ〜」
「台パンさんもやっぱり来たんですね」
「早速フレンド登録ですか?相変わらず手が早いですね〜」
すれ違うプレイヤー達と二言、三言言葉を交わし、フレンド登録。それを繰り返して二階に行くと、そこでベガ立ちしてべあーべが待っていた。
「なぜベガ立ち?」
「気分、かな?」
その時の気分でベガ立ちするクマがいるだろうか?と思いつつツッコむと面倒そうなのでダーパンはスルーする。
「取り敢えず、まあ、久しぶりだね?」
「Vocone(ゲームで主流のSNS)でもやり取りしてたから久しぶり感は0に近いけどな」
2人は早速フレンド申請を投げ合い了承する。
それをするや否や、ダーパンの肩にガツっとべあーべは手を回してダーパンを逃げられないようにする。
「それで、台パンくぅん?散々煽り倒してくれたけど、βテスト総合評価1位おめでとうだね?さあ何を手に入れたかさっさと吐くんだ。ボク達トモダチだろぅ?」
βテストのイベント装備である着ぐるみの目をギョロつかせながら小声で問いかけるべあーべに、ダーパンは笑って答える。
「相互確証破壊って言葉知ってる?」
簡単に言えば、相互確証破壊とは核兵器に関する理念のことである。明確な理由は定かではないが、WOMはβテスト終了後も1週間はWOM内の掲示板を利用できた。
恐らくβテストの生の意見を聞くための場であったのだろうが、そこで最も話題になったのは勿論、βテスト時の評価によって与えられた報酬に関してである。
その時の上位5%が手に入れる『ランダムスキルスクロール』の情報の漏洩だけでもスレは阿鼻叫喚状態だったのだ。上位1%の『アビリティ引き継ぎ権利』など言わずもがな。
S評価獲得時の『ランダムアビリティスクロール』に関してゲロってしまった奴がいた時はキレ散らかしたお気持ち表明民が多数沸いたレベルである。
しかし、『EXアビリティ』に関する情報は一切なかった。『EXアビリティ』の獲得はダーパンだけでない事は『ネタエンジョイ倶楽部』上層の情報共有会でも既に判明している。
だがそれでも情報がないという事は、取得した連中が全員だんまりを決め込んでいるという事。
βテスター以外にも既にβテスターの恩恵はかなり大きいものであると大なり小なり知られている。
スレの荒れ具合からして万が一EXアビリティに関する情報を漏らせば血祭りでは終わらない事も予想された。
というより、迂闊に喋れない程度にはEXアビリティは中々イカれたアビリティなのだ。なのでほぼ気兼ねなく情報のやり取りを行うダーパンとべあーべの間ですらEXアビリティを持っている事は伝えてはいるがその数も効果も話してはいない。
それだけに留まらず、ダーパンとべあーべはたった2人のテストダンジョン踏破者。その恩恵はあまりにも大きかった。つまりどちらかが暴露した瞬間、自動的にもう片方も爆死する素敵な関係である。
「だから仲良くしようじゃないか兄弟」と大変胡散臭い笑みをダーパンはべあーべに向ける。
「他は?玄武岩さんとか、千鳥目とか、もう動いてる?」
「早々とね。“色々とする事があった”βテスター以外はむしろ他のプレイヤーよりも早く来て早く動き出してるはずだからね」
べあーべの言外に示唆するように、一番時間のかかりそうな外装の引き継ぎをβテスターはスキップできるので通常のプレイヤーよりスタートは早くなるはず。
そもそも“評価点が多かったり”、“他に何かする事がある”βテスターで無ければとっくに行動を開始しているのである。
なので総合評価点1位2位のダーパンとべあーべはお互いに胡散臭い笑みをうかべあう。
ゲーマー同士の繋がりは強いようで案外脆い。それでもβテスト終了から3ヶ月間、ずっと連絡を取り続け合うほど2人が仲がいいのは元々お互いにつながりがあったわけではなく、2人が似たもの同士なのがその大きな要因である。
「まあダーパンさんが隠してるであろう情報はおいおい吐き出してもらうとして、取り敢えずボクたちも動き出そうか。『連絡会』はいつも通りVoconeで時間は18:00 からで」
「了解」
そして2人は一緒に行動することなく、自然と別々のカウンターに向かう。スタンドプレイが基本なのもこの2人に共通するところ。誤解を招くことを承知で言うならば、そもそも『ネタエンジョイ倶楽部』の奴はどちらかと言えばスタンドプレイか少数先鋭スタイルオンリーの連中ばかりなのである。
「こんにちは、奉催ギルドへようこそ。此方では戦闘以外の街で発行されるクエスト、及び街で開催されるイベントについて担当しております。本奉催ギルドに関しての説明は致しますか?」
約4ヶ月前、体感では更に前にそう出迎えられたように、半ば人外じみた美麗さを持つギルド嬢は柔らかな態度でダーパンを出迎えた。
「いえ、大丈夫です。今回はクエストを受けにきました。どんなクエストがありますか?」
「かしこまりました。現在受注できるクエストは此方になります」
ギルド嬢が何かを差し出すように両手をダーパンに向けると、ダーパンの目の前に受注可能なクエストの一覧が表示される。
これが冒険者ギルドならばスライム退治やらゴブリン退治やら巨大蟻退治やら、森の奥にある泉の調査などが表示される。
農水ギルドなら生産物の納品などが提示されるだろう。
では、奉催ギルドのクエストはというと。
皿洗い、洗濯、庭の雑草抜き、納屋の掃除、厨房の手伝い、猫探し、塗装工事、土木工事、畑仕事の手伝い、荷物の運搬、屋根の修理などなど、22世期では高度なAIを搭載したロボットにより駆逐された仕事が並んでいた。
―――――よし、全部問題無さそうだな。
因みにギルドには『ギルドランク』と言うものが存在しており、ギルドへの貢献度に応じて受けられるクエストの難易度は上昇する。勿論、難易度の高いクエストの方が報酬がいい上に、あげればあげるほど様々な恩恵があるのでギルドランクは出来るだけ上げておいたほうがいい。
それは冒険者ギルドや農水ギルドにも限らず、奉催ギルドにも存在する。奉催ギルドで受けられるクエストは簡単なようで案外拘束期間が長かったり面倒なケースもあるので安請負いは厳禁である。
だがしかし、序盤も序盤でギルドランクの低い今は特にそういった地雷クエストに気をつける必要はない。
ダーパンは一通り確認するとうんうんと頷き、受注するクエストにチェックを入れて決定ボタンを押す。
「取り敢えず全部受注します」
「…………………えぇ?」
にこやかに数十のクエストを全てを受けることを伝えるダーパン。それに対してギルド嬢は何を言われたかわからなかったように数秒口を噤んだ後、戸惑うように首を傾げるのだった。
各ギルドに関する詳しい説明は設定資料集を作って近いうちに公表いたします。