№1 ※遊び人は賢者にはなりません
目指せ連日投稿!
『WorldOverMythの世界へようこそ』
午前10:00。半田 交はWorldOverMythのサービス開始と同時にWorldOverMythにログインをした。
3か月前に毎日の様に見ていたシステムメッセージが出現し、続いてマトリクスの様に光る数字が流れていく上から下へと流れていく仮想空間で動作確認を行う。
『個人認証を終了しました。βテスター、プレイヤーコード:777psk432rip245yuh、プレイヤーネーム:パン・ダーパンで間違いありませんか?』
人工音声によるアナウンスと共にβテスターのみに現れるメッセージに対しYesのボタンを押す半田交、PLネーム『パン・ダーパン』。続けてメッセージが表示される。
『βテスターはアバターの容姿を引き継ぐことが可能です。引継ぎしますか?』
続けてYes。ダーパンの目の前に自分そっくりのアバターが出現する。第八世代型対応のVR機器の一番の特徴は、従来のVR機器と違い『自分と大きくかけ離れたアバター』でも自由に使うことができる点である。また非常に高度なボイスチェンジャー機能も搭載しており自分の好きな声を創ることができる。
そしてなんといってもWOMでのアバター製作の良い所は、自分の元の体型を元に年齢を進めたり戻したり、手足の長さなどから何まで簡単に変えることができ、なおかつゲーム側で自然に見えるように調節を行ってくれるところである。
男性化、女性化、幼児化、老体化、ひげの有無、髪型の変更、これを弄ってるだけでも十分楽しめるし、美形調整なんてモードもある。因みにパン・ダーパンのアバターは実際の見た目から30才手前ほどに見えるように調整し、少しガタイを良くしている。
アバターの引継ぎダウンロードが終了すれば今度は、ステータス設定だ。
『βテスターはβテスト終了時に貢献度に応じて割り振られたポイントに応じてβテスト時のプレイヤーデータを引き継ぐことが可能です』
―――――きた。これを待ってたんだ。
そのアナウンスと共に、βテスト終了時に送られてきたメールが再び表示される。
『プレイヤー『パン・ダーパン』βテストResult!!!
フィールド踏破評価A、戦闘A、生産A、アイテム取得率A、NPC接触評価S、特殊S、βテスト参加率S。
全ての評価でC以上を達成しました。特殊ボーナスが発生します。
全ての評価でC以上を達成したことにより【C級テスター】の資格を贈呈致します。
【C級テスター】の資格を獲得したことによりC級スキルスクロールを獲得します。
全ての評価でB以上を達成しました。特殊ボーナスが発生します。
全ての評価でB以上を達成したことにより【B級テスター】の資格を贈呈致します。
【B級テスター】の資格を獲得したことによりB級スキルスクロールを獲得します。
全ての評価でA以上を達成しました。特殊ボーナスが発生します。
全ての評価でA以上を達成したことにより【A級テスター】の資格を贈呈致します。
【A級テスター】の資格を獲得したことによりA級スキルスクロールを獲得します。
S評価を三つ獲得しました。ランダムアビリティスクロールを3つ獲得します。
最もNPC・PLと接触したのでEXアビリティ【友愛増加】を獲得します。
最もアルバイトをこなしたのでEXアビリティ【奉仕精神】を獲得します。
最もNPCと遊戯を行ったのでSubCluss【遊び人ex】を選択可能になりました。
βテスト専用ダンジョン完全踏破ボーナスによりスキル・アビリティを一つ熟練度を維持して引き継ぎます。
βテスト専用ダンジョン完全踏破ボーナスによりEXアビリティ【磨穿鉄硯】を獲得します。
βテスト専用ダンジョン最速踏破ボーナスにより踏破時の装備を1つ引き継ぐことが可能です。
総合評価12540Ptを達成致しました。
総合評価が上位10%となりました。ボーナスとしてランダムアイテムボックスを獲得します。
総合評価が上位5%となりました。ボーナスとしてランダムスキルスクロールを獲得します。
総合評価が上位1%となりました。ボーナスとしてアビリティを1つ引き継ぐことが可能です。
総合評価が1位を達成したことにより【Vestテスター】の資格を贈呈致します。
【Vestテスター】の資格を獲得したことによりβテスト時の装備・スキル・アビリティなどから2つ引き継ぐことが可能です』
――――結構ガッツリ取り組んではいたが、まさか総合評価で1位になるとは思わなかったぞ。
それは完全な不意打ちだった。βテスト終了と同時に全プレイヤーに一斉に送信されたメールは、運営側からのサプライズは、βテスター達にこれ以上に無い恩恵か、あるいは阿鼻叫喚を齎した。
ちょっとした回復アイテムや消費アイテムが正式版のスタート時に獲得できるならそこまで大騒ぎにはならなかっただろう。
しかしEXアビリティなどという未確認要素や、総合評価上位1%が得られる『アビリティの継承』があまりに有用過ぎたのだ。
WOMに於いて通常の能動的に発動する一般的にアクティブスキルを『スキル』(魔法もカウントされる)、常時発動する所謂パッシブスキルを『アビリティ』と呼ぶ。問題はこの『アビリティ』である。
WOMでは基本的に職業に関係なく『スキル』を習得できる。無論、Clussによって取得・成長しやすい『スキル』もあれば習得・成長困難な『スキル』も存在する。しかしながら、習得できることにはできるし使えることには変わりない。例えば戦士が魔法を使うこともできるし、暗殺者が回復魔法を使うこともできるし、魔法使いが回し蹴りをすることだってできる。
しかし『アビリティ』は基本的にClussを成長することでしか手に入れられない能力だ。そしてこのアビリティは基本的にコストを必要としないし効果が重複し、一度獲得すればClussに関わらず効果を発揮するのでスキル以上に強力である。言い換えればアビリティは『体質』ともいえる。
そしてClussは基本的に簡単に変更できない。よって別Clussのアビリティの引継ぎが可能であるならば、それは非常に強力な恩恵となる。スタートダッシュには非常に嬉しい効果である。
さてダーパンのResultを改めて確認しよう。
S評価の三つの獲得でランダム”アビリティ”スクロールが3つ。
EXアビリティが三つ。
そして最大でアビリティを4つ継承、しかもその一つは『熟練度を維持して』引き継げる。
要するにゲームスタートの時点で10のアビリティを獲得してスタートできるのだ。
WOMはスキルもアビリティも成長するが、アビリティは強力ゆえに成長が緩やかだ。そのアビリティの熟練度、つまり成長度合いを引き継げるとなると話は更に変わってくる。
――――――βテスト専用ダンジョン完全踏破が旨すぎるんだよな。おそらく想定では踏破されることはまずないであろうダンジョンだったんだろうな。『とってもよく頑張ったで賞』って感じがする。んで戦闘とフィールド踏破がAまで到達したのもβテスト専用ダンジョンが原因っぽいな。べあーべも似た様な感じだったし。
パン・ダーパンはβテスターの中でも確かに屈指の入れ込み具合ではあったが、生産やNPC関係での貢献が大きく、本来では戦闘やフィールド踏破ではAランクを叩き出すことはほぼ不可能な筈だった。だがしかし、βテスト専用ダンジョン完全踏破がその評価を大きく上げた。
4人パーティー推奨ダンジョンをアイテムのゴリ押しでダーパンとべあーべは二人で十時間近くかけて駆け上がった(厳密には下がった)のだ。当然討伐数のスコアは大きく跳ね上がるし、『戦闘用のデータを取るためのダンジョン』だけあってあそこで長く戦闘を行った二人には貴重なデータが取れたことによりボーナス点が加算されている。
さらにこの『フィールド踏破』だが、これは『自分が一度も歩いたことのない場所をどれだけ進んだか』『どれだけ他のプレイヤーが歩んでいない場所を歩いたか』の二つが大まかな評価対象になる。
そしてβテスト専用ダンジョンは一階一階が別のフィールドで計算されている。直線の通路をただ真っすぐ進み続けることで無駄なく踏破数は上昇するし、なにより人工物の通路を駆け抜けるだけならば更に効率は上昇する。また、ダンジョンの30階層以上など他のプレイヤーは殆ど進出いないし、51階層~100階層まではダーパンとべあーべの二人きり。プレイヤーの絶対数との相対して計算すれば評価点が跳ね上がるのである。
これがパン・ダーパンの評価点の絡繰りである。因みにパン・ダーパンと似た様なプレイスタイルのべあーべの方は特殊がAの代わりに戦闘でS評価を獲得。総合評価点12490点で2位となっている。もちろんお互いに点数の絡繰りに気づいており、おそらくべあーべが2位であることを察したダーパンはべあーべに煽り散らしていた。極めて性格が悪いといえる。
――――――――それじゃ、引継ぎを開始しますかね。
運営側も色々な考慮の末か、評価点を使って戦闘に直接関連するスキルは引き継げないし、アビリティや装備品(一部条件アリで引継ぎ可能)、アイテム、所持金なども引き継げない。ということで基本的に引き継げるのは非戦闘系スキル、それにどれだけ熟練度を維持して引き継ぐか。あるいはSTRやCON、VIT、DEX、LUKなどのステータスPtをどれだけ引き継ぐか、が選択肢になる。
戦闘系のスキルの引継ぎを許可すればβテスターと通常プレイヤーの差が異常に開いてしまうが故の苦肉の策であろうことは、ダーパンにも予想できた。だが特殊ボーナスによる引継ぎはその限りでないことからも、その報酬の異常性はよくわかるだろう。
――――――――本来は盗賊・狩人経由の魔術士だったけど、狩人・盗賊の欲しいアビリティが取れるから狩人・盗賊スキップで最初からClussは『魔術士』。SubClussは最初は一つしか解放されてないから当然『遊び人ex』だよな。
『遊び人』は元々βテストでもダーパンも選択していたが、戦闘になにか大きな影響があったりコンボが発生することもなかった。その『遊び人』がエクストラ化するとどうなるのかダーパンにはちっともわからなかったが、ゲーマーは得てしてプレミアやレアといった言葉に弱いのでダーパンは迷いなくSubClussを『遊び人ex』にする。
といっても、ダーパンもあることが目標で『遊び人ex』を選んでいるので全くの考えなしというわけではない。
因みにべあーべは『裁縫職人ex』を獲得していることはダーパンも知っている。
――――――――アビリティは………【調理】を熟練値を引継いで選択するか。熟練値上げるのこの中で一番面倒だし。あとは盗賊のアビリティ【宝寄せ】【罠感知】、狩人のアビリティ【敵意感知】を引継ごう。そんでスキルも盗賊と狩人の物を引き継ごう。魔術士のは結局普通にやってればまた獲得できるわけだし。
因みにアビリティには【料理】もあるが、【調理】とは違う。22世紀、ファストフード店やチェーン店は全てロボットに代行され、調理器具も様々な発展を遂げて人間が調理する機械は加速度的に減っていた。だからこそ、却ってゲーム内で料理ができるのは重要なこととなる。
ゲーム内で戦闘が楽しまれるように、日常で経験できなくなりつつあるからこそその価値は高くなるのだ。しかし一から『料理』の技術を磨くとなるとそれはそれで面倒である。そこで役立つのが【料理】のアビリティである。このアビリティは非常に特殊で、どちらかといえばスキルに近い。
この【料理】というアビリティは、もっているだけでどうやって物を切るかアシスト線が表示されたり、手の動きをホログラムにより確認できるのだ。22世紀の現代っ子(ヘタをすると家庭科の授業の調理実習が生涯でまともな料理をした最初で最後という人もいなくはないレベル)がゲーム内で料理するのにこのスキルはまさに画期的といえる。といっても元々のリアルスキルがあるならポイントを使ってまで獲得する価値のないアビリティである。
一方で【調理】のアビリティは、裁量を整えることに特化しているので、素材の品質や料理自体の評価を引き上げることが可能になる非常に有用なアビリティだ。ただしダーパンが心中で独り言つように様々なアビリティの中でもなかなか熟練値が上がらないアビリティだったりする。
といってもそもそもの料理を失敗すれば【調理】も元も子もないないのだが、ダーパンがリアル料理スキルあるかと言うとそうではない。ゲームの中で経験したことである程度動きを覚えたのだ。それに料理のアビリティ自体は一度でもなんらかの料理を行ない食べられる程度の物が作れれば獲得条件は簡単に満たされる。
その点、【調理】の方は食材に関する知識がある程度必要なので習得の方にも手間がかかる困ったちゃんだったりする。
これのどちらを取るかを考えたら、ゲーム内での料理になれた自信があるなら当然【調理】のアビリティの方がお得である。
――――――んじゃ、そろそろお待ちかねのランダム系を開封するか!
ダーパンがさっそく開封したのは総合評価10%のプレイヤーに与えられる『ランダムアイテムボックス』。開封を選択するとドルルルルルルルルというドラムロール。其の後にシンバルの景気のいい音が聞こえ、手に入れたアイテムが表示される。
『βテストアイテムパック④を獲得しました』
――――――ん?なにそれ?
内訳をみると最寄りの街へ緊急避難できる『転移石』3つに、HPポーション、MPポーション、SAN・Hポーションが5本ずつ、武器の耐久値を回復させる特殊なチケット一枚と序盤では中々お得なセットだった。というより、スタート時の課金で購入可能な一番安い500円のスターターパックの一つと中身がそのまま一緒だった。
――――――なるほど、500円スターターパックのうちどれか一つが手に入るのか。それとも、当たりなら1000円、5000円、10000円スターターパックもあり得たのか?
流石に最高額の5万円用スターターパックはないよな、と思いつつ、とりあえず今は確かめようのないことはダーパンは頭から追いやる。
お次に開封するはC級・B級・A級スクロールに、総合評価上位5%プレイヤーに与えられるランダムスキルスクロール。これを一気に開封する。すると4つのドラムロールが重なり、シャシャシャシャーン!!!とシンバルの音が連鎖する。
C級スキルスクロール:クイックキック
B級スキルスクロール:物品鑑定
A級スキルスクロール:瞑想
ランダムスキルスクロール:テイミング
――――――お、これはどれも持ってないから大当たりといっていいんじゃないか?テイミングは正直持て余しそうだけど、持ってて悪いことはない、はずだ。特に瞑想が手に入ったのは大きいな。
『瞑想』はMPを少し消費して、目を瞑り座禅することでHP・SAN値の回復および集中力の向上でDEX(器用)値がしばらくの間上昇する格闘士でもかなり熟練度を得た格闘士の一部が習得可能なスキルだ。最初こそヘボいスキルだが、しっかり育てれば大きなメリットを得られる良スキルである。
――――――よし、ここまでは概ね順調。あとは本命のランダムアビリティスクロールだ。
S評価達成数に応じて配られるランダムアビリティスクロール。3つのS評価により三つのスクロールを手に入れていたダーパンは、スキルの時とは違い今度は一つずつ丁寧に選択する。
まず一つ目、スキルスクロールよりも心なしか豪華で長いドラムロールの後に、大きなシンバルが鳴り響く。
『アビリティ【妖精の尾】を獲得しました』
聞いたことのないアビリティに首を捻るダーパン。説明を読んでそれがどんな系統のアビリティが察する。
――――――LUKの上昇に『妖精』系統の魔物との親和率・遭遇率上昇か。となると恐らく、『精霊術士』系のアビリティか。
WOMには自分の攻撃をMOBに大きく依存する職が大きく分けて3つある。
野を駆ける鳥獣達と心を通わす調教士、異界より生命を喚び出し使役する召喚士、自然に生きずく精霊達と心通わせる精霊術士だ。
調教士はフィールドでテイム可能な魔物を仲間にする事が可能である。ただし、相手をある程度攻撃して戦意を奪ったり餌付けをして自分が主人であることを認めさせることが必要となる。また、好感度が重要であるのでテイムに成功した後のケアも必要だ。その代わり、一度使い魔にすれば進化をさせることもできるので自分と共に着実に戦力を挙げることが可能になる。
召喚士はそういった手間がない上に使い魔は使い捨てにする事も可能である。ただし、召喚自体に手間がかかったり触媒が必要になったりするし、召喚する対象の知識が必要な場合がある。自分の用意できるアイテムとMPを脳内でしっかり管理しないとうまく立ち回ることは難しい職業である。
では、精霊術士とはなにか。精霊術士はそのフィールドに棲む精霊たちから力を借り受けて魔法などを行使する者の事である。何ができるかは自分ではなくその場所にいる精霊に大きく依存しており、また精霊たちも非常に気まぐれなので手を貸してくれるかどうかは術士のアプローチの旨さが重要になる。その分、フィールド全体が味方になるため非常に強力な力を行使できるのも特徴である。
その精霊術士は、実は最初から精霊を使役するわけではない、というより精霊は大きな見返りを求めることが多いので何でもかんでも精霊に力を求めるのは賢くない。普段は、例えば通常MOBとの戦闘程度ならその下位互換的存在である『妖精』にアプローチする。
精霊はどこにでも存在するわけではない。比較的自分の棲み処をしっかり定めている。一方で妖精はどこにでもいる。特に近くに人に好意的な妖精がいるならとてもラッキーといえる。ただ、人懐っこい妖精であろうと常に人の前に簡単に姿を現してはくれない。その妖精とのコンタクトを支援してくれるのがアビリティ【妖精の尾】である。
本来ならば、精霊術士が複数種の妖精とコンタクトを取り、其のうち一つでも好感度を一定以上まで引き上げた時に手に入れられる取得が難しいアビリティなので”精霊術士ならば”大当たりといえる。
そもそも妖精とコンタクトをとり、交渉し、使役することで精霊術士は力を発揮する。これを別の物に例えよう。
例えば妖精を魚、【妖精の尾】を餌付き釣り竿とする。
精霊術士は魚を取るために、つまり精霊に出会うために、手づかみでやっていてはらちが明かない。そこで釣り竿を使うわけだが、【妖精の尾】とはつまり”かなり上等な餌の付いた釣り竿”と考えてほしい。上等な餌があれば釣り竿に魚は食いつくので後は吊り上げれば魚は手に入る。つまり妖精と出会うことはできる。
だが魚は捌いて調理しなければ食すことはできない。この調理が『妖精との交渉や使役』に該当するのだが、それには精霊術士が習得している『スキル』が必要になる。
つまり、いくら魚を釣り上げることができて、それを“処理できる力”ができなければ何の意味もないのだ。
といっても、妖精に出会える確率が大幅に上昇するしLUK値にも大きなボーナスがある。また実際に使役はできずとも妖精に何かを与えそれを気に入ってもらえれば見返りを得ることも出来る。手に入れられて損かといえば違うと断言できるアビリティだった。そもそもとしてダーパンは攻略ガチ勢でもなければ戦闘ガチ勢でもないので、むしろこの手のアビリティの方が嬉しかったりする。
――――――さて、お次はどうかな?
ダーパンは先ほど以上に大きな期待感を胸に2つ目のアビリティスクロールを開封する。
アビリティ【妖精の尾】はダーパンの想定するビルドには直接的な大きなプラスにはならないアビリティではあった。だがしかし、【妖精の尾】レベルの有用なアビリティが手に入るという証でもあるということ。此れにはダーパンの期待も高まらざるを得ない。
『アビリティ【調理】を獲得しました』
「え、ちょっ、嘘だろ!?」
二個目の獲得アビリティは【調理】。それは既にβテスト時から引き継いだアビリティであり、重複ありかよーーー!と心の中で慟哭、そして顔を両手でおおいダーパンは天を仰ぐ。
【妖精の尾】のアビリティとしてのランク(習得難度)は、βテストの時から考えても序盤はかなり高め。つまりそれだけ難易度の高いアビリティが手に入るということは他に手に入る可能性のアビリティの数も一気に増大する。そんな数あるアビリティの中でまさかの重複。ダーパンは自分の籤運の無さを儚む。
だが、続けてアナウンスが発生する。
『習得したアビリティ【調理】の重複を確認しました。アビリティ【調理】をEXアビリティ【調理SP】に変化させます』
「ほぁっつ!?」
再び性能不明なEXアビリティの獲得。これは他のプレイヤーに話したら袋叩きにあいそうだな、と思いつつ良いことには違いないとEXアビリティ習得を素直に喜んでおく。
――――――おそらく俺の知人連中でもEXアビリティを取得できた奴は確実にいる。てかβ六皇なら確実に何かしら手に入れてなきゃおかしい。
「早いとこべあーべ辺りと情報共有がしたいな」と思いつつ、今度は心の中で大量の予防線を張りつつ最後のスクロールを開封する。
『アビリティ【夜纏】を獲得しました』
――――――なんだこのアビリティ?
ダーパンはβテスト時に情報屋系のプレイヤーとの繋がりも強かったためにプレイヤーの中でも様々なスキル・アビリティに関する知識を有していた。そんな彼でも聞いたことのないアビリティにダーパンは眉を顰め、効果を確認して愕然とする。
――――――DEF(防御力)ダウンの代わりにAGI(速さ)・DEX(器用)強化の上、奇襲時のダメージ上昇だけでも十分なのに、夜間・単独行動時ステータス全強化に加えて常時隠蔽効果の発動!?ぶっ壊れアビリティじゃねえか!?
効果の感じからして恐らく『暗殺者』となんらかのSubClussとのコンビネーションでゲットできるアビリティっぽいな。長期間の単独行動と夜間時の行動数が鍵か?
獲得アビリティから習得条件を予想するダーパン。冷静なようにふるまっているがその顔には笑みが浮かんでいた。
――――――さて全部出揃ったし、あとは装備の引継ぎと行こうか。
今回ダーパンが引継ぎ可能な装備数は1つ。評価ポイントでは装備品は引き継げないが、『完全プレイヤーメイド』で、武器以外なら例外的に引き継げる(ただし消費ポイントも割高)となっているので防具も引き継げないことはない。
ということであれば、ダーパンが引き継ぐ物も決まっていた。
――――――例外的に武器を引き継げるんだからダンジョン最速踏破による報酬では、β用テストイベント報酬の『漆黒金棒』を選択。あとはべあーべフルメイドの『ぱんだ組パーカー』に『ぱんだ組キャップ』にしておこう。
あとは評価ポイントで欲しい盗賊・狩人のスキルを取得。残りをDEXとLUKを上昇のみにつぎ込む。
――――――よし、これでOK。
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NAME:パン・ダーパン
SEX:MAN
SEED:人間
LUNK:1
Cluss:魔術士
SubCluss❶:遊び人ex
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HP:10/10
MP:10/10
SAN:100/100
STR(力):I
POW(精神):I
VIT(体力):I
DEX(器用):C
AGI(敏捷):I
DEF(防御):I
INT(知識):I
LUK(幸運):B
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―――――これでOK!さて久しぶりにWOMに行きますか!
ダーパンは引継ぎ完了のボタンを押し、続けてキャラメイク完了のボタンを押す。そして三か月ぶりにWOMの世界へと転送された。