№0 βテスト最終日
初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりです。
ミニ丸語と申します。
ブクマ・感想・レビュー・評価点をいただけると非常に嬉しいです。
誤字脱字はできるだけない様に務めさせていただきます。
「よーす~」
「待たせちゃったかな?」
「いや、俺も今きたとこ」
街の中心から離れた場所にある寂れた酒場、そこにはNPC以外に二人のプレイヤーだけがいた。
「じゃあ、ダイパンさんも遅刻だねぇ。よかったぁ」
「よかねぇよ。お決まりのセリフってやつだよ。てか台パンじゃねぇし!」
酒場で先に待っていたプレイヤーは机をバンッと叩いて、いわゆる台パンを行い抗議。勿論、静かな酒場でそんな狼藉をすればその音はよく響くわけで、酒場のマスターである厳ついNPCにジロリと睨まれペコペコと頭を下げる。
「某半吸血鬼主人公の様に繰り返すが、俺の名前は『パン・ダ―パン』だ」
「失礼、面白かったのでつい」
「べあーべさん、飽きないねそのネタ」
「でもそういって律義に毎回台パンして抗議してくれるダーパンさんが好き」
「はいはい、俺も好きですよ」
少しやさぐれたような振りをする男のPLネームは『パン・ダ―パン』。そのプレイヤーネームに合わせるようにパンダ柄のパーカーにパンダ様な耳付きのキャップを被っていた。そして本来であれば背中に括り付けられている黒い金棒は、今は腰かけている椅子に立てかけられている。
一方で後から酒場に入ってきたプレイヤー『べあーべ』は、寸動型のクマの着ぐるみの上から青い”ツナギ”を更に装備するという極めて奇妙なファッションだった。
路地で見かける一般のプレイヤーは皮鎧や金属鎧、あるいは盗賊用の装束であったり魔導士用のローブであったり”如何にもファンタジー世界の住民”の様な姿であるところを見れば、明らかにこの二人のプレイヤーが”普通のプレイヤー”ではないことは確かだった。
「他は?」
「全員それぞれの所用で欠席だとさ」
べあーべの問いに対し簡潔に答えを返すパン・ダ―パン。べあーべは一瞬言葉に詰まったように動きを止めると、マスターに取り敢えず飲み物をオーダー。パン・ダ―パンの対面に腰かけて小さくため息をつく。
「うん、まあ、ダーパンさん一人の時点で何となく分かってたよ」
「別にクランとかってわけじゃなく、ただの同好会みたいなもんだからしょーがないでしょ。強制力は0だし。情報共有ならSNSでできるし」
「ボクをβ六皇とかいって祭上げといて、君たちは無責任だなぁ」
いじけたように机に指をぐりぐりと押し付けるべあーべ。オーダーしたリンゴ酒がくると着ぐるみのまま器用に一気飲みする。
「俺も欠席でいいかな、って思ったけど流石に可哀想だから来てあげた」
「まるで『善意で来てあげました』みたいな言いぶりだけど、この【ネタエンジョイ倶楽部】なんてふざけた集まりを作った張本人は君だからねっ。そしてそのリーダーをまんまとボクに押し付けたのもね!」
着ぐるみなのにジト目になったクマフェイスから顔をそらし、口笛を吹くパン・ダ―パン。その頬にべあーべのストレートが突き刺さりパン・ダ―パンの口笛が強制終了される。
「その話は今は置いておこう。争いは何も生まないのだよ」
「いいや置いておかない。いい加減β六皇の一人にカウントされるのは勘弁してほしいんだよ。このままだと正式版になっても其の名前が残っちゃうかもしれないじゃん」
「そんな目立つ格好してたらどのみち注目が集まるから無理でしょ」
パン・ダ―パンの真っ当なツッコミに、言葉に詰まったべあーべの方が今度は目を反らす。
「『吾輩のくそみそなテクニックをご覧に入れようッ!』ド ン ッ !!!」
キリッと効果音な付きそうなキメ顔で、さらに22世紀現在でも伝説的な漫画とされている海賊漫画の代表的な効果音を口にしつつ歌舞伎のようなポーズとるパン・ダ―パン。べあーべはパン・ダ―パンをジッと睨みつけて吠える。
「確かに元ネタはそれだけど!ボク一度もそんなセリフいったことないからね!」
「掲示板のあのAAは傑作だったな」
「あぁぁぁぁ!わざわざ匿名モードでやりやがって!!犯人わかったら絶対とっちめてやる!!」
思い返せば怒りが再燃したのか、ダークサイドに堕ちてシュコォォォ!と気炎を吐くべあーべ。
βテストが始まって早三週間。ゲーム内は現実時間に対して6倍速で進むので実質数か月近くβテストが行われていることになるが、βテストでもゲーム内でメニュー画面から使用可能な掲示板は使用可能だった。今日日VRMMO型ゲームではゲーム内掲示板があることは普通なのでテスター達もほとんどの者が戸惑うことなく掲示板を利用していたが、一時期βテスターの中でも有名なプレイヤーを勝手にAAにして匿名モードの掲示板の方に徐に投下する通称”職人”が掲示板に出没した。
そのAAのクオリティはインターネット黎明期に活躍したAA職人に勝るとも劣らない出来栄えで非常に人気を博したが、他方で勝手にセリフを付けて投稿することもあった。その一番の最大の被害者がべあーべである。もともとネタ装備にネタビルドの中でも攻略組に遜色ない活躍をするプレイヤーとして有名ではあったのだが、そのAAによりβテスター内でのべあーべの知名度はいい意味でも悪い意味でも爆上がりしたのである。
「まあまあ、俺もAAにされたから仲間ってことで」
因みにネタ装備ネタビルダーとしてでなく、とある理由でβテスター内でも知名度の高かったパン・ダ―パンもAAにされている。そのAAは『だから台パンじゃねえよッ!』というセリフと共に机をトレードマークの金棒で叩き割っているAA、という少しシュールなものだった。べあーべのAAが投稿された時に散々パン・ダ―パンはそれをネタにしたが、その仕返しとしてべあーべは未だにパン・ダ―パンを隙あらば台パンさんと呼ぶ。
閑話休題。
パン・ダ―パンはべあーべの好きな『リンゴ酒』のおかわりに『地ダコのタコワサ』や『キレイム酢漬け(キレイムはゲーム内のウリ科のオリジナル野菜)』をオーダーしてべあーべをなだめると本題に入る。
「ともかく、本日βテスト最終日な訳だが、前々から議論されていたことの答えは出たよな」
「うん、そうだね。やっぱり『ネタビルドは弱くない』。寧ろ、人やその時のシチュエーションによっては『戦闘特化ビルド相手であっても余裕で勝利できる』だろうね」
WorldOverMyth。通称WOM。今現在パン・ダ―パンとべあーべがβテスターとして参加している完全没入型VRMMORPGである。
今から20年前、第7世代型と呼ばれる新型のVR機器に合わせてアルルフルードオデッセイと呼ばれるVRMMORPGが発売された。完全に、そして完璧に精神を没入可能とした第7世代型VR機器に対応したアルルフルードオデッセイは世界的な人気を誇り、発売してから15年近く第七世代VR機器の代表的なゲームの頂点として君臨していた。
その間に色々な第七世代型対応のゲームが生まれ世界の人々を楽しませてきたが、アルルフルードオデッセイ発売から15年、開発元であるGoldenPear社は第八世代型VR機器の発表と共にアルルフルードオデッセイの後継となる第八世代型対応のゲームの開発を発表した。
其の発表から4年、ついに伝説的なゲームであるアルルフルードオデッセイの後継となるWorldOverMythが発表された。それと同時にGoldenPearは三週間にわたるβテストの実施を宣言。WorldOverMythの初回販売分を確実に購入できるうえに、βテスターは正式版でも『スタート時にβテスト時のデータの一部が引継ぎが可能』などの様々なメリットを得られるという餌を吊り下げβテスターを募った。各国からその国の人口に応じて枠は変わっていたが、GoldenPear社が日本、アメリカ、中国の三国の合同会社だけあって多めに枠が与えられた日本でも、そのβテスターの枠はたった2万人。
22世紀の人々は幼少からゲームなどに慣れ親しんでいるため、例えば日本ではそのゲーマーの人口は21世紀とは比べ物にならず老若男女問わずゲーマーであった。その中でもたった2万人のβテスターたちの2人がパン・ダ―パン、べあーべである。
「もう一度ここで確認しておこう。まず前身となるアルルフルードオデッセイと比較すると、WOMではUIはあまり変化がない。一方で職関係の自由度は大幅に上昇しているよな」
「一般のゲームに於ける『職業』をClussとして、副職業ともいえるSubClussを条件を満たすことで最大3つ選択可能。Clussはたしか16のファンタジーでは比較的有名な職から選択するんだよね」
―――――純戦士型の戦士・剣士・槍士・格闘士。ファンタジー後衛型の魔術士・弓士・召喚士・調教士。バッファー系の僧侶・呪術士・治療士・祈祷士。いわゆる遊撃系の盗賊・暗殺者・精霊術士・狩人。
パン・ダ―パンがそう諳んじると、べあーべはうんうんと頷く。
「Clussに登録可能なのは通常ではこの16の職業。簡単に変更できない代わりにステータスに直接的な強い影響力を持つ。例えば『戦士』であればHPやSTR(力)、VIT(体力)、DEF(守備力)の成長がしやすくなる。またこの16の職業は条件を満たせばSubClussにも登録可能。SubClussはClussと違って資格さえあれば簡単に入れ替えができることが大きな強みだけれど、Clussほどステータスの成長に影響がない」
「ここまでは、”解説班”の働きでほぼほぼ確定済みだったな」
”解説班”とは、その言葉通りWOMの世界の色々なことを検証、実験しているグループの事である。たまに変な実験を行っていることもあるが本人たちは至って大真面目であり、一部は『デばっか―』の愛称で親しまれる愛すべきバカ・良き変人たちである。
「問題は、異様にSubClussに該当する職業が多いことと、Cluss・SubCluss同士でコンボみたいな相性のいい物が存在して、それにより通常では取得できないスキルやアビリティの取得や新たなSubClussが発生することだよね」
例を挙げると、『治療士』をClussに選択したうえで図書館で生物学を学習。実際に魔物などを観察しフラグをたてて特定のクエストをこなすとSubClussに『生物学者』を選択可能になる。その上で両方の熟練度を挙げることで『医者』という治療に大きなプラス補正を齎す特殊なSubClussを選択可能になる。
あるいは、魔術士をClussに選択。そのうえで図書館などで学習しフラグをたてSubClussに『数学者』、『物理学者』を設定すると強力な結界に特化した魔法を習得するようになる。
これはあくまで解析班で検証され完全に実証できた一例であり、同じCluss・SubClussを選択していても個々で習得するスキル、アビリティが若干異なるケースも多々報告された。こうなってしまうと解析班でももはやお手上げであり、「WOMの自由度高すぎィ!」と呻くこととなっていた。
なにが恐ろしいかといえば、この段階でまだβテストなのである。正式版になれば取得可能なデータ量も解析班も増加することは予想はできたが、メンバーの増加より情報量の増加が遥かに上回るのことなど誰が見ても明らかな状態だった。
例からわかるように、通常のゲームでは「こんなの選択してどうすんだよ」と言われるだろう『数学者』や『物理学者』などの職業もWOMでは何らかの形で役に立つ。つまり100%ゴミといえる要素がない。更に個々の行動で分岐が増加することも判明している。
βテスターの中でもそこに特に着目した、わけではないが、それをメインに色々試していたのがべあーべ率いる(こととなっている)『ネタエンジョイ倶楽部』である。
ただし、対外的な取締役はべあーべだったが、実質的に仕切っているのはパン・ダ―パンである事も『ネタエンジョイ倶楽部』の上層では周知の事実であった。
WOMのβテスト開始から6日。6倍速なので実質36日目。βテスター達の中でも目立つプレイヤーが現れ始め、それらのプレイヤーを旗頭にプレイヤー達の派閥めいた物が形成された。
『近接戦闘軍』、『魔法戦闘団』、『生産連合』、『解析班』、『探索グループ』、そして以上5つの派閥に属さず活躍していたプレイヤーなどが集まった『ネタエンジョイ倶楽部』である。派閥があったからといって派閥同士でいがみあっていたわけではない。むしろ派閥内では派閥内で切磋琢磨し、別の派閥とはその向上具合を競い合う良きライバルでもあった。
またこれら6つの派閥の代表的な人物(単純に強いとかだけでなく知名度などほうが重要視された)をβテスター達は某海賊漫画よりあやかって『β六皇』と呼んでプレイヤー達は面白がったし、一週間前には『六皇会談』と称して各派閥のトップが集まり情報共有も行われていた。
勿論、『ネタエンジョイ倶楽部』のトップであるべあーべも『β六皇』の一人して『六皇会談』に参加している。ただし他の派閥と違って『ネタエンジョイ倶楽部』はなにか共通したものがあって集まっている派閥ではないので、所属しているメンバーも定かでなければ団結力も皆無に等しい。逆を返せば、誰でも気軽に参加できるので最大派閥であるという見方もできる潜在能力が不明な派閥だった。
そんな不安定すぎるその場のノリのみで出来ているような派閥のトップに祀り上げられたのが『べあーべ』なのである。一応、『ネタエンジョイ倶楽部』の中でもべあーべ、パン・ダ―パンを除き4人の幹部的なプレイヤーはいるが、最終日なので『ネタエンジョイ倶楽部』上層で集まるかと思いきや幹部全員欠席という体たらくである。(ただしその緩さも相まってSNS上でのやり取りは結構活発なのも特徴)
べあーべとしてはこんな状態の団体の派閥のトップとして祀り上げられ、他のガチなプレイヤー達と同格として扱われるのは気が引ける。なので自分が『β六皇』なんて呼ばれる”色々な部分での諸悪の根源”であるパン・ダ―パンに押し付けたいのだが、パン・ダ―パンンも負けじと逃げていた。
そんな『ネタエンジョイ倶楽部』だが、所属人数は他の派閥より圧倒的に多くかつレパートリー(情報量の絶対数)も圧倒的なので、解析班よりもSubClussに関する調査は進んでいた。特に4幹部含め上層が全員ネタビルドなのでその有用性や難点も把握しつつあった。
べあーべとダ―パンは自分で集めた情報を持ち寄り考察を重ね、正式版ではどのようにClussやSubClussを選択し、どのように行動するかお互いに意見を出し合いながらも計画する。
「ま、ざっとこんなところだろ」
「そうだね。それで、これからどうする?今日はテスト終了までいるでしょ?」
「まあ、急用がない限りはそのつもりだ」
「だったら、どこかしらのダンジョンに行かない?」
「…………OK、どこにする?」
酒場を出た二人はその後βテスタ用のダンジョンに二人でアタック。直前に自分の手札を完全に晒しあい話し合っただけあってお互いにできることはしっかり把握しており、二人の役割が被らないお陰で二人はガンガン最前線組顔負けの勢いでダンジョンを進む。
「このペースなら、行けるところまで行ってみる?」
「どうせこれでお終いだ。持ちうるアイテムも全部使っていくか!」
ノリに乗った二人は更にそのコンビネーションのレベルに磨きをかけ、アイテムも惜しみなく使う。
βテストでは戦闘データ取得用のインスタント訓練用ダンジョンが設置されている。街にある渦巻く紫色の光を放つ門から入ると、ブロックで通路が作られた如何にも人工物チックなダンジョンが広がっているのだ。この訓練用ダンジョンは敵や罠がバランスよく設置されており、一部アスレチック要素もあるのでVRゲームが初めてのプレイヤーでも十分楽しめるようになっている。
HPが尽きるまではどこまでも下層へ下がることができるようにできており、序盤に役立つアイテムが取得できるのでβテスターのほとんどがそのアイテムを獲得できる10階層まではアタックしている。
因みに最高アタック階層は現在50階層。10階層以降は魔物のステータスが徐々に強化されるだけで種類が増えるわけでもない。かといって有用なアイテムが手に入るわけでもない。代り映えしない通路をただ突き進むだけだ。先駆者はそれでも『キリ番の50階層まで行けばなにかあるのでは?』と歩みを進めたが、結局なにも起きなかったので嫌になって50階層でリタイアしている、とのことだった。(出典:ゲーム内掲示板)
「問題は、『クリア』じゃなくて『リタイア』な所だよね」
「ただデータ取るだけなら、わざわざ11階層以降を作る必要はないしな」
「…………100までイッちゃう?」
「行けるもんならな!!」
このままダンジョンに出現する魔物が強くなり続けるなら、例え種類が変わらなくともそれだけで脅威だ。一階層あたりに必要な必要な時間も伸びる。グラフ状にデータを整理すると、今から二人で全力で挑めばギリギリ間に合うか否かという時間であった。
「でもさ、βテストの終わりに100階層まで行くのってなんだか達成感がありそうじゃない?」
「だな!やるだけやってみるか!!」
赤いトサカの目立つ巨大なカエルを金棒でぶっ飛ばしながら吠えるダーパン。【ヒートアップ】と魔法を詠唱し身体強化の魔法を発動すると更にペースを上げてダーパンは魔物を屠っていく。それに応えるようにべあーべも貴重なバフをアイテムを使用し魔物撃退のペースを上げていく。
それはまさしく殺して殺して殺す。多少道順が異なるとはいえ、基本的に出現する魔物と罠が同様ならば積み重ねた時間だけ行動は最適化される。特に通路という比較的狭い場所での戦闘は寧ろ二人だけの方が闘い易い。
もともとはβテスト開始時から開いていたダンジョンである。3週間にわたるβテストの最終日、お互いの手札を深く理解し、ネタビルドでも最前線組に一目置かれる活躍が可能なプレイヤーが2人だ。その上、消費アイテムは正式版に引継ぎ不可と最初から運営から明言されていたので消費アイテムも惜しみなく使える。
進んで殺して進んで殺してを繰り返し、消費アイテムの在庫もほぼ底を尽いた。装備品の耐久値も消費アイテムで誤魔化しながら使ってきたがサブ武器まで含めて限界に近い。それでも二人はβテスト終了まで残り5分というところで99階層最奥に到着した。
「はぁ、はぁ、はぁ、漸く、辿り着いたぞ」
「本当に、なにも変わり映えがなかったね」
目の前にあるのは、下層へ続くワープゲート。他と変わらず紫色の光色の渦だけというのがなんとも徒労感をにじませる。これで赤い光だったりすれば特別感があるのだろうが、1階層から99階層まで全部同じデザインだった。
「これはハズれかなぁ?」
「100階層なら、なにかあるとおもったんだけどな。まぁ、βテストの記念にはなっただろ」
「そうだね。これで同じように通路が続いていてもがっかりしないようにしておこう」
「期待すればするほど徒労感が膨らみそうだしな」
ダーパンは苦笑しつつも一応なにがあってもいい様に、アイテムを全て使って万全の状態に整える。それを見て同様に苦笑しつつ、べあーべもアイテムを使いきって今できる最善の状態まで用意を整える。
なんだかんだ言って、予防線を張りまくっているが心のどこかでは『ワンチャンなにかあるんじゃないか』と思っているのだ。
「よし、いくぞ」
「おっけー」
2人はここまで登ってくる間に決めたように手を繋ぐと(傍から見ると大の男がクマの着ぐるみと手をつないでいる非常にシュールな図である)、きららジャンプでワープゲートに二人で飛び込んだ。
―――――それから三カ月後、夏休みに合わせてWOMの初期ロット1000万本が発売。7月下旬、WOM正式版が遂にサービスを開始した。