ダンジョンマスターは料理人に転職する。(仮)
【プロローグ】
「“ユリアン”っと」
《世界を展開中…》
俺の名前はユリアン。6文字までの制限があったので、姓はない。
候補は、3つ用意していたが。
かっこいいグラフィックで、この世界にたった今作成されたアバターだ。
「さて、神殿は…右の突き当たりか」
マップを確認して、俺は始まりの街の大通りを進んで神殿へ入っていく。
ジョブチェンジのために。
「お次の方どうぞ」
金髪で鼻筋の通った、美人のNPCが声を張る。
「転職で」
カウンターについて俺はそう言って、にこやかな笑みと共に渡された用紙に記入していく。
そしてしばらくして、そこから少し離れた儀式の場へと向かう。そこには既に聖職者がいた。彼はNPCではない。俺と同じギルドでもトップを絶賛活躍中のディルレフだ。
「随分レベル高いけど、本当に変えるんでいいんだね?」
「はい」
俺の返答に、ディルレフは黄色のチョークで描かれた魔法陣のある、前へ進むよう促した。
たった6秒、光が辺りを包むようなエフェクトがあって、俺は画面越しに目をちかちかさせた。
「ステータス、みてごらん。変わってるはずだよ」
「あ、はい」
ディルレフさんはさっきも言ったように、すごいエリートで有名人だ。
なかなか会うこともないから正直、少し感激している。
「ステータス……。あ、ほんとだ」
さっき用紙に記入した通りのジョブが、画面には記載されている。前のジョブはもう書かれていない。
「ああ、同じギルドだったんだね」
プレイヤーのステータスは本人が開くと、近くにいる人にも見える仕様になっている。
だからきっとディレフさんにも透けて見えたんだろう。
「はい。でももうすぐ辞めると思います。ほら、戦闘向けじゃないんで」
「そうか」
すこしの間があって、ディルレフは優しい微笑みを作る。
「新しいジョブ、料理人。頑張ってね」
「はい!」
料理人。それが俺の新しいジョブだ。
【冒頭】
『コルリスト』はコルリスト王国を舞台にした、ロールプレイングゲームだ。
無料インストールができるので結構な人気を誇っているが、外国語が表示されないところを見ると、そういえばあまり外国人っぽいアルファベットのキャラクターを見かけない気がする。
それで俺の前のジョブは狩人。
このゲームの面白いところは、リアルがそうであるように、筋力を鍛えないと弓が引けないこと。筋力が弱くても使える弓はあるが、射程距離が短い。
なので俺は正統派に、遠くまで矢を飛ばせるように筋力と、命中力を上げる効果のある知力を重点的に上げている。
ジョブチェンジをしてもそういう基礎値は変わらないらしく、俺は料理人なのに筋力、知力に偏りがある。
それも…著しく…。
「さて、イベント…じゃなくてヘルプ!」
料理人、という職業は前回、今日の17:00のアップデートでできたばかりの職業だ。
しかしそれと一緒に登場したのが満腹度補正。初代にはなかった満腹度数値だが、6ヶ月ほど前の大型アップデートで現れ、課金して得られる“ 高級な食事 ”を取ると満腹度が一気に上がるというオマケがあった。
元々食事という機能はなかったが、この大型アップデートで一緒に作られた。
しかし食事を取らないわけにはいかない。
この満腹度が0を下回ると出血と同じダメージがくわわり、ダンジョンの外でも死に戻る。逆に60以上だと回復魔法の効果も上がるという副産物など他にもいろいろあったが、俺はめんどくさがりなので、ちゃんとは覚えていない。
とにかく、俺はこれまでに幾度となくそれをやらかした。
俺はとにかくめんどくさがりで、ダンジョンに行く前に数で満腹度を増やしていたが、この食べるのに時間がかかるので何度も何度も食べ損なって、死に戻りをした。
とはいえ『コルリスト』はやり込みがいがあるゲームなので、今更そんなことでやめるのも惜しい。
だがそんなやつは俺以外にも結構いるだろう。
そして俺はそこに目をつけた。
料理人の料理は、料理人が作ったというだけでブランドがつくらしく、例の高級な食事ほどではないが満腹度補正があるそうなのだ。
「というわけで、ここに俺の伝説が始まる」
もっともまだ何もしていないが、今からする。
「まずは農地買い、か。ん?いやまずは料理スキルやレシピのアンロックからだろ」
そう思って俺は再び「ステータス」を開いて、先程の転職で一緒に料理スキルがとれていることを確認した。
次にレシピのアンロック。
料理スキル画面から開くと、まっさらなので困ってしまう。
「農地で野菜が育つまでどのくらいかかるかな」
そんなことをぼやいてすぐ気を持ち直した。
いやいやここは計画的に。
残念ながら何度も言うように、このアップデートでできたばかりの料理人ジョブ。攻略サイトはまだできていないし、俺はそんなチートはあまりよしとしない。
────単に読むのがめんどくさいだけなんだが。
だから俺はまず始まりの村の市場に向かった。
始まりの村が人が一番集まるので、物価がもっとも安いからだ。
というのも運営によるNPCの店以外に、プレイヤーが店を出せる機能のある『コルリスト』の街でもここは例によって新人も多いので値段競争が激しいのだ。
「マーサさん?でいいのかな」
俺はみたところ品揃えの多い出店の店長を呼び止める。
「気安く店長って呼んでくれよ。こういう仕入れ売りは長いんだ」
「わかった。じゃあ店長、さっそくだけど、めぼしい料理できそうなもの5個ずつくれ」
「あいよ。あ、そうだ、お前さん料理人とったんだな?」
「そうだよ」
俺はマーサがそれらの食材をえりすぐっているのを見ながら返事した。
「そうかそうか。じゃあすこーしまけとくよ。俺、そういう新しいことするやつ好きなんだよ。あとは情報回してくれる人」
「ありがとな、店長。じゃあ今度ここ来るときは料理人の話も持ってくるよ」
「それは嬉しいな。じゃあ、これで。2060ゴールド」
「はい」
俺は店長にきっちり2060ゴールドを渡して、そこを出た。
店長は気を良くしてくれているようで、手を振ってくれている。
「ついたー」
冷え冷えとした個室。
もっとも個室にしては随分大きく、声が響く。
いわゆるダンジョンという洞窟の、隠し部屋だ。
『コルリスト』にはダンジョンを各プレイヤーが最大3つ保持できる、というすごいやり込み要素がある。
そうして攻略者が保持すると決めたダンジョンは、プレイヤーに“覇者”という称号を与え、プレイヤーは好きなように手を加えられる。
またその分攻略可能なダンジョンは現在も6000を超え、難関度はまたバラバラにあるので、きっと運営さまは大忙しのことだろう。
しかしこういうところは優しく、地道にストーリーを進め、レベルを上げとやっていくと完全無料で3つ保持を許されるのだ。
俺は結構やり込んでいるので、既に3つ持っている。
【あらすじ】
レシピをどんどんアンロックする
↓
ダンジョンカスタマイズ
↓
マーサさんに情報をうる
↓
……店を持つとか?
まだ未定部分ばかりです…が。
結構面白い内容かなと作者は思っています。
喜んでもらえたなら、感想などお待ちしています。