入国後はじめてタクシー(籠)に乗る
第二章
その1 Hey!、タクシー
関所を出る前に、現代のお金やクレジットカードが使えるか聞いてみた。
やはり使用できないと聞き、途方にくれる。
その様子を見てシャコウさんが教えてくれた。
この国は少し前まで海外の人を受け入れない、鎖国状態だったらしい。
現国王が王座につくと部族会議を開き、海外の旅人を受け入れるよう改革をした。
しかし、東方の辺境と思われ人があまり来ない。
そのため、この国を知って貰おうキャンペーンを開始した。
つまり、海外の旅人に衣食、宿、交通費を無料にすることにしたらしい。
旅人には至れりつくせりだ。
ただし庶民生活以上の贅沢に対しては料金が発生するらしい。
これで宿や食事の心配はなくなった。
料金の支払い方法を聞くと、生体認証のスキャンだけでよいそうだ。
注文したとき、無料にならない場合はあらかじめ通知されるとのこと。
これで心置きなく旅ができる。
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今は宿を探して歩いている最中である。
宿は関所から歩いて1時間ほどと聞いていた。
回りを見ながらの散歩にはちょうどよいと思ったのだが・・
歩くこと5分。
穂乃花が不機嫌になりだした。
「つかれた~、ねえ、籠でつかまえようよ。」
籠でつかまえる? 何を言っているんだろう?
なにか捕まえて食べるつもりなのだろうか?
そういえば関所で、穂乃花は宿のことシャコウさんに聞いていた。
宿まで歩いていけるか、歩かなくても楽にいけないかと。
それならば、籠をつかえば早く宿に行けると教えてくれた。
それを聞いた穂乃花が、
「籠で、つかまえれば良いのか~。ありがとう!」
そう言って、一人納得していたよな?
籠を、ではなく、籠で、と。
何かを捕まえて乗ると思っているのではなかろうか・・・。
確かめてみよう。
「なあ、穂乃花、籠で何をつかまるんだ?」
「もちろん舌きり雀を捕まえるのよ。」
「なんで舌きり雀なんだ?」
「だから、雀のお宿、つまりお宿に案内してもらうためよ。」
「雀にか?」
「うん、だって有名な話しじゃん。知らないの?」
「・・・・なあ、穂乃花、時代劇、みているよな?」
「うん。遠山の金さんの大ファンだよ。」
「で、武士が乗る乗り物といったら?」
「籠! 前と後ろを人が担ぐの。」
「おお、よく知っているじゃん。」
「うん、二人でツインになって籠を担ぐからツイン・エンジンだよ、すごいよね」
「・・すごいエンジンだね。」
「でしょう!」
「で、籠といえば?」
「雀のお宿!」
「・・・うん、分かった。よしよし、いい子だ。」
「えへへへへ」
だめだ、穂乃花は乗る籠ということに気がつかない・・・
実際に籠を捕まえれば、穂乃花もわかるだろう。
ふと穂乃花から目を外し前を向く。
前方に何やら銀色に輝くものが、地上1m位の高さに浮いていた。
そして、どんどん近づいてくる。
よく見るとメキシコの帽子・ソンブレロの形をしている。
これはUFOではないだろうか?
大きさは二人入れる位の大きさで、渋い銀色をしていて中は見えない。
それから微かにオカリナのような哀愁のある音色が聞こえてくる。
たぶん走っているのを音で知らせているのだろう。
電気自動車みたいに・・・。
さらに近づいてくる。
やはり、UFOにしか見えない。
これが籠か? 籠なのか?
シャコウさんが言っていた籠の通る位置を飛んでくる。
思わず右手を上げていた。
すると、すぐ横まで来て浮いた状態で止まった。
止まると同時に、UFOが突然分裂して2つになった。
あれ?と思った瞬間、二人ともUFOの中にいた。
中は、全面ガラス張りのような閉鎖空間で外がよく見える。
丸見えという言葉がぴったりだ。
そして目に優しい明るさの室内だった。
もしやと、太陽がある方向を見たがまぶしくない。
太陽の形がはっきり見えるし、太陽の方向の風景も逆行には見えない。
不思議だ。
関所の方を見ると、さきほど分裂した片方のUFOが関所の方に走り去った。
室内にあるのは二人分の椅子だけだった。
そして室内は、まるで私達に合わせたようなサイズだった。
高さは、立っても頭がつかない程よい高さ。
椅子に腰掛けて足を伸ばすと、十分に足が伸ばせる長さがある。
快適な空間だ。
椅子は半透明で、座面が座る前は真っ平らだった。
それが座ったとたんに椅子がお尻の形に併せて変形する。
堅さは、堅からず柔らからず、座っていて気持ちがいい。
椅子には背もたれはなかった。
なんとなく背中を後ろに反らせると見えない何かがあたる。
それは、背を柔らかく包み込む。
背中を完全に、その見えないものに預けてみる。
すると、良い角度で上半身が固定された。
圧迫感や不安定感はない。
椅子に体全体が柔らかく包み込まれる感じだ。
すごいリラックスできる。
でも、見た目は背もたれはないんだよね。何これ。
しばらく座り心地を二人で楽しんでいると、アナウンスが流れた。
「どちらまで行かれますか?」
穂乃花と目をあわせる。
俺はアナウンスに答える。
「泊まれる場所を探しているんだけど」
「旅行中のようですね。では温泉はいかがですか?」
穂乃花が、この言葉に食いついた。
「温泉! そこがいい!! 行く!」
「・・・そうだね。温泉でお願いします」
シャコウさんは、旅籠が近くにあると言っていたが・・
温泉とは言っていなかったよね。
関所で会話した内容を思い返す。
アナウンスで、考えごとから現実にもどされる。
「お急ぎですか? 観光してから参りますか?」
「穂乃花、すぐ温泉に、は・」
「すぐに入りたい!」
う、最後まで言わせず、即答かよ。
「了解しました。」
アナウンスが答えると同時に、見えていた景色が一瞬見えなくなった。
そう、思った直後、
「到着しました。」というアナウンス。
振動も加速感もない。
本当に「あっ」という言葉を発する時間もない。
ちょっと聞いてみよう。
「先ほど乗ったところからどれくらい離れた温泉街ですか?」
「温泉街とは、なんですか?」
「いや、だから宿がたくさんある街です」
「宿は1件だけですが?」
「あ、そう・・で、先ほど乗った場所から、どれほど離れているの?」
「34ケドンです」
「え、あのKmでは?」
「Kmとは?」
「え、え、えっと・・」
「お客様の思考を読ませていただいてよろしいですか?」
「え、あ、うん・・」
「読ませていただきます。
距離は、802.135Km誤差±10mです。」
「あ、そうですか・・、ありがとう」
シャコウさんが言っていた場所とは全然違うよね。
まったく別の旅籠だ。
まあ、だからと言って困ることもないしね。
それにしても、頭の中を見ることができるんだ。
まあ、生体認証で脳の指紋が分かるんだから、できちゃうんだろうね。
「お降りになりますか?
外気温28度C、湿度30%、曇天です。
今日一日雨は降りません。
いかがいたしますか?」
「降ります」
「では、よい旅行を」
そのように聞いたと瞬間、外に立っていた。
そしてUFOは消えていた。
籠の料金を請求される事はなかった。
そして、目の前にはこじんまりとした縄文式住居が1つ、ぽつんと建っていた。
う~ん・・温泉宿にはみえないんだけどな~・・・
ストーリー展開には手を加えていませんが、文章が長すぎたり、動作の説明に違和感があった箇所を修正しました。
また、この世界でお金をどうするかが抜けていたため、冒頭に追加しました。
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誤記修正のみ、ストーリー展開は、いじっていません。
電子文書は誤記があっても探しにくいものですね・・・
何度か見たつもりでも間違えます。