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帰還 終章

 やがて料理がテーブルにならび、母親も席に着く。


 「さあ、食べましょう。」


 そういって母親は食べ始めた。

父親も、渋々ではあるが食事を食べ始める。

穂乃花は、満面の笑みで食べ始めた。


 もちろん皆、頂き(いただき)ます、と言ってからだ。


 「どう、穂乃花、美味しい?」


 そう母親が穂乃花に声をかける。


 「うん! 美味しい、やっぱお母さんの料理は最高!」

 「あら、あら、久しぶりのお()めのお言葉ね。」


 そう言って母親は満面の()みになる。

そして、その笑みを誠に向ける。


 「おや、誠さん、お口に合わないかしら?」

 「いえ、とんでもないです、美味(おい)しいです。」

 「なら、ちゃんと食べて。」

 「誠君、君は・」


 そう父親が誠に話そうとしたときだ。

母親が、その言葉をぶった切る。


 「あんたは黙っていなさい!」

 「・・・はい・・。」


 父親、形無し(かたなし)である。

うん、かかあ天下と(から)っ風という言葉があったよね。

あれ? これは群馬県だったっけ・・・?。

まあ、日本全国、かかあ天下は多数派に違いないと思う。

そう思い、これからおこるであろう現実から逃避を試みる誠であった。


 やがて静かに食事が終わり、リビングへと全員で移った。

母親は全員のコーヒーを用意し、皆で飲み始める。


 暫く(しばらく)して母親が誠に話しかけてきた。


 「誠さん、今日は会社は?」

 「月曜日に無断欠勤をしたので、今日は顔を出してきます。」

 「そう・・無断欠勤・・。」


 誠は母親の様子に首を傾げた。

母親として何やら思うことがあるようだ・・。


 その時、穂乃花がポツリと(つぶや)いた。


 「うん、私も無断欠勤ね。」

 「穂乃花、貴方は家事手伝いだから欠勤も何もないでしょ?」

 「そうなのお母さん?」

 「もう、この子ったら・・。」


 そういって母親は微笑む。

そして、誠に向き直り姿勢を正した。


 誠はそれにつられ、姿勢を正す。

誠は緊張し、背中に冷たい汗が流れた。

俗に言う冷や汗である。

言葉では知っていたが、実際に自分がかいてみてわかった。

本当に冷たい・・・。


 「で、誠さん、どうするの?」

 「え?」


 穂乃花の母親はそういったきり、何も話さずジッと誠を見つめる。

顔は無表情だ・・・。

だが怒っているという感じではない。

かといって何もかも許しているという感じでも決して無い。


 誠は一度深呼吸をした。

そして・・。


 「穂乃花さんを日曜日から今日、火曜日まで連れ回してしまいました。

申し訳ありません。」

 「え! 誠さん!」


 穂乃花は誠の言葉に驚いた声を上げる。

誠は、深く両親に頭を下げていた。


 「連絡もせず、たいへん心配をおかけしたと思います。

それに関しては深くお詫びします。

ですが、連絡の取りようがなかったのです。

理由は・・話せません。」


 「お前なぁ!!!」

 「あなたは黙って!」


 父親が立ち上がり殴りかかる気配がした。

それを母親が止めたようだ。


 誠は殴られてもしかたないと心に決めていた。

しかし、意外にも母親がそれを止めたのだ。


 誠は不思議に思った。

普通は父親が殴るのを止めないのではないだろうか、と。

だが、今はそんな事を考えている時ではない。

精一杯、誠心誠意()びるしかない、と。


 そう思っていると、穂乃花が両親に向かい声を上げた。


 「お母さん、聞いて!

誠さんは何も悪くない!!

私を一生懸命危険から助けてくれていたの!」


 「なんだ、その危険とは!」


 父親は穂乃花に怒鳴り返した。


 「それは・・、たぶん言っても信じてもらえない・・。

でも、私は本当に誠さんと知り合えて幸せだと思っている。

そして、これからも・・・。」


 その言葉に父親は押し黙った。

母親は一切口を挟まない。


 誠は顔を上げ父親の顔を見た。

そして次に母親の顔を見る。


 まことは一度深呼吸をして両親に話し始めた。


 「私はこの三日間、穂乃花さんと居て思いました。

私は穂乃花さんと結婚したい、と。」


 この言葉に穂乃花が驚いた顔をした。

しばらく呆然とした後、急に顔を真っ赤にする。


 「誠さん・・。」


 そうボソリと呟く。

母親は誠の言葉に、満面の笑みを作った。


 「そう! よかった、それを聞きたかったのよ~。

そうか、そうか、私の子になってくれるのね。

うん、なら、いい。

何も問題はないわ。」


 「か、母さん! 私は反対だ!」

 「そう? だから何?」

 「え?」

 「()()()・何、と、聞いています。」

 「いや、だから、あの・・。」

 「何?」

 「あ、いや、何でも無い・・・。」

 「うん、それでいいの、あなたは。」


 母親は、父親の頭を良い子、良い子した。

まるで子供をあやしているかのようだ。

父親はそれで大人しくなった。


 ポカンとして、誠は穂乃花の両親を見ていた。

穂乃花はその様子を見て、呆れ(あきれ)て声を出す。


 「ねぇ、娘の前でイチャツクの()めてよ!」

 「あら、あら、貴方だってイチャついていいのよ?」

 「え!?」


 「あ、そうそう、誠さん、そろそろいかないと会社間に合わないわよ?」

 「え?! ああ、ヤバい! す、すみません、失礼します!」


 そういって誠は両親に丁寧に頭を下げて、立ち上がった。

そして慌てて玄関へと向かう。


 向かいながら、こんなに簡単に許されていいのだろうか、と、思った。

とは言え、とりあえず穂乃花の両親が許してくれた事にホットする。

さらに言えば、穂乃花との結婚のお許しまで出たのだ。


 ただ、穂乃花にプロポーズする前に両親の承諾を得てしまった。

どうやってプロポーズしようか、あれこれ考えていた自分は何だったんだろう?

そう思うと複雑な気持ちにもなる。

しかし、あっさりと結婚が許されたのだ。

穂乃花から直接答えは聞いてないが、顔をみればわかる。

喜びが大きい。


 その幸せを完全なものにするには一つだけ問題がある。

それは仕事だ。

仕事がなければどうしようもない。


 その仕事、今、誠は会社では危うい状態だ。

なにぶんにも、一日無断欠勤をしたのだから。

無断欠勤をし、次の日の今日も遅刻したとあれば苦境に立たされる。

へたをしたら首だ。

そう思い会社へと急ぐ誠である。


 穂乃花はというと、玄関に向かう誠の後を追っていた。


 リビングに残された母親は、その二人の様子を見て溜息をついた。


 「本当にあの子、妻になれるのかしら?」

 「そうだ、なれん、だから結婚は・」

 「あなた、私の決めたことが不服?」

 「え? あ、いや、だが、まだ嫁には早い!」

 「あら、私が結婚したのは穂乃花より早かったわよ?」

 「え!」

 「貴方が私の言えにプロポーズに来た時のこと覚えている?」

 「え、あ、いや、それは・・。」

 「あの時、私のお父さんに貴方は殴られそうになったわよね?」

 「は、はぃ! 殴られなかったのは君のお陰です!」

 「うん、よく覚えていたわね、よろしい。

貴方の命の恩人である私が穂乃花の結婚を許したのよ?

で?」


 「うううう、・・ゆ・・ゆ、ゆゆゆゆゆ・・・」

 「ゆ? 何!! 男らしく言いなさい!」

 「うんぬ! ゆ、ゆ、ゆる・・、許す! やだけど許す!」

 「許す? 結婚する二人への心がこもっていないわよ、()()()。」

 「くっ! 穂乃花に結婚して・・欲しい・・で・・す。」

 「うん、よろしい。」


 その日、誠は会社で無断欠勤の件を上司から追求された。

とはいえ誠の実力と人柄は社内でも意外と定評があったようである。

そのため無断欠勤については注意だけで済んだ。

ただ、無断欠勤を追及されたとき、穂乃花と結婚をすることとなった事をポロリと言ったため、社内は大騒動となった。

いや、お祭り騒ぎとなった。

そのため、無断欠勤は結婚のためだと勘違いされ、有給扱いとなったのである。

その分、新婚旅行の日数は減らされることとなるのだが・・。

そして結婚と聞いて、悔し涙を流した()も数人いたらしい。

だが、誠はそういうことをまったく知らない。

超がつく鈍感男である。


 こうして誠と穂乃花は不思議な世界から帰り、さらに幸せを手に入れたのであった。

めでたし、めでたし・・・。


 え? 結婚して二人はどうなったかって?

・・・

ふふふふふふふふふふ・・

二人の新居を訪ねてみて下さい。

熱射病になっちゃいますよ?

・・・まぁ、そういうことです、はい。

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