懐かしい悪夢
――さむい。
全身を撫でるような寒気は眠りの海から意識を掬い出すのにもってこいの刺激だった。ほんの微かなそよ風でさえ、どうしようもなく体温を奪っていくようだ。
まぶたは重く、四肢はだるい。ゆっくりと自我が沼の底から浮上してくるように、自分が自分であると自覚しつつあると、全身の寒さはますます強くなっていく。薄く瞳が開いても、しばらくぼうっとしたまま、体は動かないでいる。
まだ半分、眠りの中にいるように。
しかし全身の寒さは容赦なくて、くしゅんっと鼻から飛び出したくしゃみが、意識を叩き起こす起爆剤となって弾けた。
「・・・・・・あー」
特に意味のない声が漏れる。視界には――木々だろう、青々とした樹木の葉が空の色を遮っている。
しばし葉っぱを見つめていると、次第に背中の冷たさが不愉快になってきた。冷たいし、痛い。どうにも気持ちが悪くて、上半身を起こそうとする。
うっ――とうめき声を上げながら身体を起こす。まだ完全に覚醒しきっていないアタマを揺り動かしながら、ここがどこぞの林の中であることを徐々に理解し始める。どうやら自分は不用心にも、草木茂る森か林で大の字になって眠っていたようだ。
旅に出てからというもの、こんな不用心な野宿などしたのはいつぶりだろうか。きっと旅を始めたばかりのころ以来ではなかろうか。まったくなんという馬鹿なことをしているんだか、と呆れつつ、その考えに疑問が浮かぶ。
野宿――など、していただろうか。強い疑問。違和感。
「いや・・・・・・」
何かを否定しようと、言葉だけが出てくる。何を否定しているのだ自分は。
考えると千切れていた記憶は整合されていき、ほんの少し前、つい直前、どこで何をしていたのかを思い出してきた。
宇宙、そこに自分はいた。
仲間とともに追い続けていた存在を討ち果たすために。
無数に湧き出てくるクリーチャーを片っ端から薙ぎ払いながら。
自分は最後に、剣を突き刺した。
「――“宇宙を貪るもの”」
そして【ジオ】は言葉もなく叫んだ。叫んで立ち上がった。辺りは自然がその生命力を誇示して、さまざまな色と匂いと音を、合唱するように解き放っている。
それは紛れもなく、ジオの良く知る世界の自然。“宇宙を貪るもの”によって滅ぼされるはずだったものだ。
「か・・・・・・えって、きた?」
たしかに自分は見たはずだ。時空の狭間が閉じてゆくのを、どうすることもなく。
“宇宙を貪るもの”を滅ぼすためだけに作り出された空間に、閉じ込められて、そのまま消滅するはずだった自分。意識が消えていくあの感覚は、記憶になくとも魂が覚えている。恐怖もなければなにもない、雪が掌の熱で静かに溶けていくように、じぶんも形を失っていったはずだ。
しかしこれはどういうことか。あの空間に草木の茂るような緑の自然などあるわけがない。大地も空も、自分以外の物質など何もないのだから。
そうとするならば、やはり自分は生還したのか。あの消えゆく運命から、奇跡が起きたというのか。
使命を全うし、死さえも乗り越えて――
「あっ・・・・・・あぁッ」
生きている喜びがこみ上げてくる。おれは帰ってこれた。この世界に、みんなのところに。
だが同時にそうした思いの裏には、死んで会えるかもしれないと期待した少女の面影が、胸をきつく締め付けてきた。
オレはみんなのところに帰ってこれた。
だけど――マリオンのところには行けなかったんだ。
逝けなかった!
生きている喜びと、死ねなかった悲しみが、立ち上がったジオの膝を追った。まったくの矛盾がジオの心をかき乱す。大地に膝をついてジオは愛しい少女の名を繰り返す。マリオン、マリオン――
一粒、涙がしずくとなって落ちる。頬を伝うしずくは顎の先から零れ落ち、胸のふくらみの上ではじけた。雫が大地を濡らすことはなかった。
はらはら、はらはらと、涙を流すぼやけた瞳で、ジオはマリオンへの想いとはまた別に、ほんの少しだけの理性がはたらいた。
――なんか、ある。
手の甲で涙をぬぐい、ジオは下げた視線に目を凝らす。視力は悪くない、むしろ良い方だ。その自慢のまなこにうつる、この胸のふくらみはなんだ?
なんとなく両手で触ってみる。やわらかい。そこまで大きくはないが、さりとて小さすぎるでもない。そうだ、たしかマリオンの胸もこれくらいの大きさ、だっ――た――
急激に恐ろしくなってきた。汗が一気に噴き出す。いま十本の指と二つの掌が触っているコレ。少し、少しだけ、指を動かす。押す感覚と押される感覚、揉んでいる感触と揉まれている感触。
「――なっななな」
歯の根が合わないとはこのことだ。手が震える。震えると胸に刺激が奔り、咄嗟に手を放す。見つめる両手を握っては開き、握っては開き。
そして視線を三度落とし、胸の膨らみを凝視する。膨らみの頂にはツンと立つ二つの鮮やかに赤い小山があって――くらりと眩暈がした。
これ――コレって!
それはまったく自然な流れで両腕が素早く股間をまさぐる。そして疑念は確信と絶望に変る。
あるものがない。そのことに愕然としつつようやくになって自分の髪の長さまで違うことに気づく。短髪だったはずの髪は、背中まで流れるほど伸びていた。
つまり、つまりである。まったく信じられないし信じたくないしあり得ないのだが、ジオにはその事実しか認識できなかった。
「おれ・・・・・・男じゃ、なくなった」
逆を言うと【女になった】ということ。
しかもどういうわけか全裸である。どうりで寒いわけだ。一糸纏わぬ、生まれたままの姿。白く瑞々しい素肌は、ジオの本来の年齢よりも少しだけ若いくらいだろうか。
なんで、なんだ、なんでがなんで!? あまりの急展開に、数々の修羅場を潜り抜けてきてなお混乱が極まる。
死ぬはずだったけど生き延びた。
気が付いたら性別が逆転していた。
全裸で草の上に横たわっていた。
本当に意味が分からない。誰か事情を知っている人がいたら説明してほしい、切実に。わけが分からなさ過ぎて涙すら流れてしまいそうだ。
どうしようもなく、どうすることもできず、ただ林の中でうずくまる。考えても出ない答えを探していても、全裸の身体は冷えていくばかり。体感的には春が終わり夏になろうかという時期なのだろうが、しかしそれでもやはりなにも着ていなければ寒い。
しかし逆にこの寒さがジオに冷静さを取り戻してもくれた。
あるいは冒険の経験が、ひとまず前へ進ませようとしてくれたのかもしれない。
何にしても、まずやるべきことは。
「・・・・・・服をどうにかしないと。裸のままってわけには」
冷静に考えて、女になったショックも大きいけれど、人として全裸で徘徊するわけにもいかない。この際ボロキレでもいいから何か身につけないと、主に腰回りを。
そう考えるとうずくまっていた身体に力が通っていくのが自分でもわかった。立ち上がって、改めて周囲を観察してみる。
見た限りでは衣服に代用できそうなものはない。
一瞬、聖堂の壁画に写されていた、恥部を一枚の葉で隠している男性の姿を思い出したが、あれはないと即座にジオは考えを消した。あれはない、さすがにない。葉っぱ一枚あればいいわけがない。
衣服にできそうなものを探してジオは場所を変えることにした。大きな葉を探して、それを糸の代わりになるようなもので縫い合わせよう、という考えにひとまず落ち着いた。
そうは思っても、大きな葉の植物が意外と見つからない。あっても群生しておらず、なにより糸の代わりになるものがない。足の裏も痛い、靴も作らないと。
困ったなぁ・・・・・・などと考えながら歩いているときだった。濃厚な緑のにおいに混じって、ツンッと嗅ぎなれた異質な臭いがまじっていることに気づく。
生臭い、鉄の――血の匂い。獣か、魔獣かはわからないが、何かしらの生き物の死骸がこの近くにある。腐乱臭ではない。死んで間もない新鮮な死の臭い。
そっと、ごくごく自然な動作で、ジオの右腕は左の腰の横に伸びる。ジオはいつも左腰に剣を差し手いていた。危機が近いのであれば、剣の柄を握ろうとするのは自然な流れであった。
あっ――
言葉もなく、愕然とする。剣がない。当たり前だ。剣どころかなにも着ていない全裸なのだから。
――ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
一気に汗が噴き出る。これでは話にならない、まさに格好の餌そのものだ。襲われたら抵抗のしようもない。
とにかく全身の感覚を研ぎ澄まして、草木の向こうに何かいないかを探る。草が妙な揺れ方をしたり、大量の鳥が羽ばたいたり。
そうしてじっとしているが、危険な気配は近くにない――そのことに安堵して再び歩を進めると、さほどもなくジオは悪臭の原因である死骸を見つけてしまった。
死骸は獣でも魔獣でもクリーチャーでもない――人間だった。腹部を鋭い爪か何かで引き裂かれたのか、腸が飛び出している。目を驚きと恐怖の色にそめて、その人間だったものは絶命していた。
その装いは、簡素な胸当てを見るに、国境警備の兵士だとわかる。わかるのだが・・・・・・その顔に見覚えがあった。
「デ・・・・・・デルモンド、さん・・・・・・」
デルモンド――かつてジオが国境警備の兵士として召集されたとき、いろいろなことを教えてくれた先輩兵士だ。年齢は20歳。明るく陽気な男で――ジオの初任務となった魔獣討伐で命を落とした。
いまと同じ、腹部を引き裂かれて。
な、なんで――!? ますますわからない。
「なんだよこれ・・・・・・なんなんだよッ!?」
生きてることも、女になったことも、全裸のこともそうだけど!
デルモンドはとっくの昔に死んだはずの人間だ。ジオの時間では2年前に死んだ男だ。
間違いなくこの男はデルモンドだ。なんども世話になったのだ、間違えるわけがない。
2年前に死んだはずの人間が、またここで死んでいる。いい加減に頭がおかしくなりそうだ。ようやく冷静さを取り戻そうとしていた脳が再び混乱しそうになる。
あるいは混乱して前後不覚にでもなれれば、その方が幸いだったのかもしれない。だがそうなるよりも早く、ジオの耳朶を打つ音が聞こえて、顔が思わずそちらを向いた。
怒号と悲鳴。距離は――そこまで離れていない。
不意によみがえってきたのは、過去の記憶。初めての任務で、恐怖のあまり動けない自分、死んでいく仲間たち。
ジオは駆け出していた。足裏の痛みも、全身の寒ささえも忘れていた。それはもはや衝動としか言いようがなく、目の前の草木が鬱陶しくて仕方がなかった。とにかくはやく、はやく!
音は次第に大きくなる。怒号よりも悲鳴の方がはるかによく聞こえてくる。キュリーさん、ゾッダさん、ウルダンさん――彼らの顔が脳裏をよぎって消えていく。
そんなはずはない、ありえない。そう思いつつジオは走る。
「はっ・・・・・・」
大きく息を吐いた。また死体が転がっている。この人のことは良く覚えていないが、やはり見覚えはあった。
「くそっ! なんなんだよぉ!」
泣きたいような気持ちで、ジオはただ走るしかなかった。
やがてジオが飛び出したのは、この林で使われているのだろう林道だった。山林にも人が作った道がある。そしてそこが、記憶にもある戦場だった。そこへいたるまでに、さらに数人の遺体を見送ってきた。疑念は疑念を孕んだまま確信になりつつあった。
魔獣がいる。フリッグベア、そう呼ばれている。身の丈は成人男性二人分とかなり大きく、鋭い爪と牙が武器、巨大すぎる熊型の魔獣だ。
すでに兵士の大半は殺されているらしく、見ると指揮官であるはずの騎士ですら横たわっている。兵士が一人、しりもちをついてガタガタと震えている。
信じたくはない、考えたくはないが――
とにかく今は、あのフリッグベアをどうにかしないと!
すでに魔獣の目は最後の兵士に向けられている。ジオは兵士に駆け寄った。魔獣の腕が振り下ろされるよりも先に、どうにか――!
誰かしらが持っていたのだろう矛を拾い上げる。狙いを魔獣に定めて矛を投擲する。しかし矛はジオの予想に反して、思うほどの威力を出してはくれなかった。
驚いたのはジオ自身だった。矛は辛うじて魔獣に当たったが、刺さるどころか跳ね返ってしまった。
感覚よりも腕力がない。女性体になったことで、筋力が落ちてしまったのか!?
そんな攻撃だったが、魔獣の意識を兵士から引きはがすことはできたらしい。首がぐるりとこちらを向いた。獰猛な黒い瞳が、すっと細くなる。
「おまえ、早く逃げろ!」
ジオが兵士に向かって叫ぶ。兵士もこちらを向いた。見覚えのある顔、どころの話ではない。疑念は完全な確信に変わった。
兵士は完全に腰が抜けているようで、立ち上がろうとしない。やはりそんなところまでジオの記憶通りだ。
やはり魔獣をどうにか――倒すしかない。
今度は剣を手に取る。気が動転していたため気がいたらなかったが、せめて死体から鎧などを拝借してくればよかったと今更ながら思いつくが後の祭りだ。ジオは全裸のまま、片手剣を構える。本来ならなんということのない軽い剣のはずが、子の身体ではやや重く、まるで両手剣を片手で握っているかのようだ。
ひ弱な身体に、粗末な数打ちの片手剣、そして全裸。なんとも最悪なコンディションは、旅の果てに実力をつけたはずのジオにとってすら、低級魔獣のフリッグベアを強敵としてしまっている。筋力を失った代わりに、元の身体よりも素早く動けることだけが長所だろうか。
魔獣はこちらを獲物と見定めて、距離を縮めてくる。突進してくる。直前で大きく仁王立ちになるのは、フリッグベアの習性である。立ち上がってから腕を振り下ろす、それが奴らの攻撃の仕方だった。
そのとき無防備になる腹部を攻撃するのがセオリーで、ジオも片手剣を突き刺す。しかし刃は貫通することなく、強靭な皮に阻まれてしまう。
「こんなに力がないのかッ」
思わず呟いてしまう。その間にも魔獣の腕は振り下ろされようとしている。いくら身軽とはいえ、これは避けられない――
巨大な、鋭い狂気が頭上から迫る。後ろへ下がるか、横へ逃れるか――短い思案の中で、結論は不可能としか出てこない――
何も考えられない。確実な死を目前にしてしまうと、人は考えることを放棄してしまうのかもしれない。何もかも異常な状況で、訳も分からないまま死んでしまうらしい。
「――ッ」
フリッグベアが向かってくる。自分は剣を構えようとしている。
――えっ?
おかしい、と思った。フリッグベアはすでに攻撃態勢にはいっていた。自分はその腹部に剣を突き刺した。しかし刃は通らず、他の兵士たちと同じように死んでいるはずだった。
咄嗟だった。フリッグベアが再び立ち上がった。剣を構えていたジオは突き刺すのではなく、右へ走り出した。直感的に動いただけだった。振り下ろされた爪は何も切り裂くことはなかった。
「な、なんだ?」
またわけがわからない。剣を突き刺したはずだ。自分は殺されるはずだった。
しかし実際には、自分は剣を構えただけだった。フリッグベアの懐にはいることもなかった。だから死ぬこともなかった。
なんだ今のは・・・・・・? 未来予知? それにしてはリアルな――たしかに剣を突き刺したときの抵抗感が全身に残っている。それは間違いなく現実の感覚だ。
だが考えている時間などないらしく、獲物をしとめ損なったフリッグベアが改めて照準を合わせてくる。マズイっ!
セオリーの戦い方が出来ないのなら、どうしたらいい?
フリッグベアが迫る。さほどの距離もなく、再び目の前で仁王立ちになる。どうする、どうしたらこいつを斃せる――?
ふと記憶がよみがえる。ジオが見たそれは、少女と初めて出会った時の記憶。
あのとき、少女は今の自分と同じように、立ち上がったフリッグベアを前にして――
後へ僅かに歩を下がらせる。剣の切っ先を前へ向け、日出し手は柄尻に添えられる。
そう、そして少女は――マリオンは――
振り下ろされるフリッグベアの爪。それがジオの目の前を過ぎ去る。わずか十数センチほどの差。全身に粟立つほどの緊張が走る。しかし身体はとても滑らかに動いてくれる。
攻撃の後、フリッグベアは四つん這いになる。一撃必殺の攻撃は、その威力が強い分、反動も大きい。両手を地面についたフリッグベアが、顔をこちらに向ける。
あのときマリオンは――
右手に、左手に、両足に力を込めて。
「っああああああッ!!」
気合の叫びを上げながら地面を蹴る。今度は自分から踏み込んで、切っ先をフリッグベアの右目に突き刺す。
攻撃前と攻撃後、それがフリッグベアの無防備になる瞬間。そして目はどの生物にとっても間違いのない急所。
やわらかい部位を潰す感触が、たしかな手応えとして帰ってくる。片手剣の根元まで一気に突き刺す。刃渡り50センチはある剣を奥まで突き刺そうとすると、その激痛はどれほどのものだろうか。刃はそのまま目の神経をなぞるように頭蓋骨をすべっていく。
ビクンッ! と、魔獣の背中が跳ね上がった。痛みに暴れまわることもなく、ただそれだけで動きを止めた。刃は脳に達していた。
力なく地面に伏して、フリッグベアは、もう動くことはなかった。
右手が返り血に染まっている。止めていた息を大きく吐き出したジオは、剣をずるりと引き抜いた。
「ッ――ハァッ」
大きく息を吸う。辺りを漂う死の臭いが肺を満たす。ハァッ、ハァッ、と呼吸を整えながら、その光景の懐かしさに眩暈がしそうだった。
何もかもが――あのときと同じだ。自分が少女と出会った時と、まったく。
それがどういうことなのか、わからないほど馬鹿ではない。
情けなく尻もちをつく兵士。呆然とこちらを見ている。そう、あのときの自分もそうだった。そうやって身動きできないまま、少女が魔獣を倒すところを見ているだけだった。
本当に、なんで、こんなことに・・・・・・
つまりだ。目の前で尻もちをついている兵士は――あの顔は間違いなく【ジオ(自分】の顔だ。あれはジオだ。
では自分は? 自らの胸にある二つの丘を見て、長い髪を触って、そしてさっきの戦いと記憶を思い起こして、確信せざるを得ない。血にぬれた剣を捨て、まだ汚れていない他の剣を拾う。刃を鏡にして、そこに映るのは――
「ああぁ――」
やはり、そうだった。認めたくはないが、その顔は。
かつてジオ(自分)が恋をした少女、マリオンの顔だ。
なぜかはわからないが、自分は死んだはずの少女マリオンになってしまった。恋をして、愛して、結ばれて、そして守り切れず死なせてしまった少女に――
そしてここは――2年前の、あの場所。理由はわからないが過去に戻ってきてしまったということ。
右手から剣が滑り落ちる。ガランっと音を立てて剣が地面を跳ねる。その音に兵士――ジオの肩が跳ねた。
「なんで【マリオン(オレ)】が【ジオ(オレ)】を助けなきゃなんねぇぇんだよおおおッ!!」
全裸の少女の叫びに、少年ジオの肩はまた大きく跳ねた。