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駐屯地の内へ



駐屯地は一瞬にしてパニックに見回られた。武装した集団が近づいてくることに、すわ盗賊の集団かと門番が慌てだし、それはすぐに駐屯地内に伝播していった。

近ずく集団から一騎駆けてきた騎士に素性を問いただし、さらに慌てふためくことになって急いでラザールに知らせを送った。

その間に駐屯地の門前、堀にかけられた橋の向こうには、武装した騎士たちが威圧を放って到着していた。


「我々は通せと言っているんだぞ」


騎士がそう言うと、威圧された門番は明らかに狼狽えながら、


「そ、それは、ラ、ラザール様、の許可がなけれ、ば・・・・・・」


と、もはや歯の根もあっていない。もしここで通してしまい、あの気性の激しいラザールの癇に障るのは嫌だった。

もちろんチェーク砦から出立してきて、率いているのはリヒルトであるとわかっていても、ラザールによって染み込まされた恐怖は中々に根強い。

その様子を眺めていたリヒルトは、やや後方にいるだろうマリオンたちを呼びつける。


「お前たちなら門を通れるな?」


通れるな、と聞きながらも、実際の意味は『我々を中に入れるようにしろ』と命令しているに等しい。もともとジオは駐屯地に所属している兵士なのだし、名目として任務を終了させて帰還してきたわけである。

兵役期間の浅いジオもその言わんとするところは理解できたようだが、どうしようと視線をマリオンに投げる。

なんでオレを見る・・・・・・と内心思いながら、たしかにここでいつまでも立ち往生していても仕方がない。どうもラザールには後ろ暗いものがあるらしく、頑として通さないなどということもしでかすかもしれないのだ。

自分はあくまで雇われの傭兵と大差ない立場だだ、ジオは正規の兵士、ならばここを突破するにはジオに頑張ってもらうしかない。


「というわけみたいだから、ジオ、がんばれ」


「うえぇ!? お、おれがぁ!?」


「駐屯地詰めの兵士はお前しかいないんだから、そうなるだろ?」


いけしゃあしゃあとマリオンは言う。実際それが道理なのだからジオには反論することが出来ない。それでも自分一人でこの『部隊』を駐屯地内部へ招かねばならないという重大責任は背負いきれないと救いを求めるが、人のよさそうなグイードはただ人のよさそうな笑みを浮かべるだけで、リヒルトは態度からして『早くいけ』とせっついてきている。


「マ、マリオンさぁん」


「だからそんな情けない声出すなよ・・・・・・。ほらいくぞ!」


腹を蹴られた馬が歩を進める。コッコッと鳴る蹄の音が、ゆっくり大きくジオに聞こえている。

おれ、ただの兵士なのにー・・・・・・。内心はもう涙目になっている。これはただの任務を終えての帰還でないことは、いくら察しの悪いジオでもわかっているのだ。リヒルトたちを駐屯地内に入れたら、きっと間違いなく、何か大変なことが起こるに違いない。もしかしたら自分はラザールに罰せられるかもしれない。リヒルトたちは全員武装しているのだから、最悪の場合は戦闘になることも考えられる。


どうしておれが・・・・・・!


その気持ちは、知らず言葉になっていたらしい。


「もう腹くくれ。オレたちはリヒルトには逆らえないんだから」


「だからって重大なことじゃないのこれ? イヤな予感がすごいするんだけど・・・・・・」


「奇遇だな、オレもだ。一悶着ありそうだよな」


「ダメじゃん!?」


「だがここで逃げ出してみろ、一生追われる身になるぞ? 地の果てまで追い回されて、夜も眠れない暮らしが・・・・・・」


「ああぁぁぁなんでおれがこんなぁぁ・・・・・・」


嘆かずにはいられないジオが少し哀れに感じなくもない。たしかにたかだか新米一兵卒のジオが、リヒルトに睨まれながら、明らかにこれから騒動となるだろう門を自力で開かなくてはならないのだ。しかもそれは同時に、ジオから離れるわけにいかないマリオンにも覆いかぶさってくる問題でもある。

ラザールがどういうつもりであんな白紙の封書を作り、自分たちを殺そうとしたのか。それらをリヒルトはどう受け止めて今回の行動を起こしたのか。それはマリオンにはわからない。

せめて自分の記憶通りの展開であれば、次にどう動くべきかわかろうものを、ここではすべてが手探りのまま翻弄されるしかない。

なるようにしかならない。そう割り切ることしか、マリオンにはできない。

マリオンたちの馬はやがて問答する騎士の横へ並ぶ。門番は馬上にいるのがジオだとわかるや、驚きと同時に安堵の顔をした。


「ジ、ジオ! こりゃ一体何なんだ!?」


なんなんだと聞かれても、ジオだってよくわかっていない。マリオンも正確には理解しかねているのだが、とにかくこの一団を通すための正当性を主張しなくてはならない。


「その、チェーク砦のリヒルト様の騎士団で・・・・・・駐屯地に用事があって・・・・・・」


そういうジオに、マリオンが囁く。


「帰還報告はいいのか?」


あっとジオが思い出したような声を上げる。


「たた、ただいま伝令使の任務を終えて帰還しましたァッ!」


「お、おぅ」


門番が生返事をする。


「・・・・・・えっ、通してくれないのか?」


ぼそっとマリオンが呟くと、門番はポカンと口を開けてマリオンを見上げ、それから慌てたように何度も頷く。


「あ、ああ、通ってもいい」


少し呆けながら門番が矛先を少しだけ下げて、通過を許可する。ジオが通るのならば問題はない。そう、問題はない。

ゆったりとマリオンは馬を進ませる。これでいいのかはわからないが、とりあえず自分たちが通ることに問題はないのだから、まぁこうなるだろう。

するとまるでそれに便乗するように騎士が馬を進める。何食わぬ顔で門番の横をすっと抜けてしまったのだ。これには門番は仰天してしまい、慌てて止めようとするが、それどころでない事態となる。


「よし、全隊進め」


と、リヒルトの号令があっさりと下される。騎士たちが一斉に動き出す。決して駆けるようなことはせず、あくまで行進の様相で。


「えっ!? ちょちょちょっと待って!?」


とんでもない事態に門番の焦りは最高潮となるが、もはやリヒルトに止まる意思は欠片もない。

門番の静止も聞かず、それどころか「通ってもいいって言っただろう」とでも言わんばかりに堂々と馬が押し寄せ、押し流されるように門番は奥へ奥へと圧しやられていく。

その様子をマリオンとジオはぼうっと眺めていた。マジかよ・・・・・・というのが本音だ。強引にも程がある。

やがて騎士たちはマリオンらに追いつき、リヒルトが悠然と近づいて来るや、


「よくやったな」


などとのたまった。どうやら自分たちの行動は正解だったらしい。それにしても随分と雑な入り方をするもんだ、とマリオンが思っていると、それを読み取ったのかリヒルトが鼻を鳴らして笑った。


「私の騎士を通したのだから、当然、私も通って問題はあるまい?」


「あれは通したというか・・・・・・」


むしろ勝手に入ってきたように見えたが、ジオはそれ以上言葉にはしなかった。言わない方がいいこともあるような気がしたのだ。その判断はきっと正しい。

結果として通してしまったことに門番が膝をついて固まってしまっている。それを申し訳なく思いながら、これからどうなるのだろう、とジオの頭の中はそればかりでいっぱいになっていく。

大勢の騎士たちがぞろぞろと雪崩れ込んできて、駐屯地内の緊張はさらに高まっていく。見たところ正規の騎士団であることは間違いないし、剣を抜いていい状況かどうかも兵士たちには判断できない。しかも一段の中にジオの姿もあるのだから、余計にわけがわからない。

チェーク砦からの騎士団の来訪は誰一人として聞いてはいない。そういう大事があれば、無礼がないようにと事前に通達されることになっている。それなのに何の前触れもなく騎士たちはやってきて、しかも全員がしっかりと武装している。

戸惑う兵士たちをよそに、リヒルトは興味深そうに駐屯地の内部を見回す。


「国境の警備を司っているわりには、なんともみすぼらしいな。以前来た時よりさらにみすぼらしい」


それからリヒルトはグイードを呼ぶ。


「前任者の目から見て、これをどう思う?」


「まぁ、黒ですね」


「そうか」


それだけのやりとりで、リヒルトは満足そうに口元をゆがませる。


「では真っ黒な駐屯地司令官殿に会うとするか」




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