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3話 黒幕は誰


「上原さん」と花御堂。「君の知る限りでお父さんと共犯になりうる人物を挙げてほしい」


――やっぱりお父さんが無実ってことはありえないのかな。


 そんな内心の不満を読み取ったのか花御堂は口を開く。


「私は晴彦氏は共犯という形で事件に関わっていると考えている。だがそれと今私がやっている探偵活動の基本的な方針とは全く関係ない。私はあらゆる角度から彼が犯人であるか、あるいはそうでないかを検証しているに過ぎないからだ。今君にできることは私の探偵活動にできるかぎり協力的でいることだよ」


「――はい。すいません」


 ――確かにその通りかもしれない。私はこの人を信じて任せる気になったのだから。何よりこの人は今さっき父の単独犯という警察側の仮説をあっという間に崩してしまったのだから。


「祖父か、祖母。ああこれは父方のですけど。あとはお母さん、私。親戚とか家族ぐらいしか思い当たらないですけどこんなものですかね」


「君の家族はそれで全てか」


「いやまあ事件とは絶対関係ないと思いますけど、弟が1人います。中学生で。病気がちでほとんど家にはいないんですけど」


「じゃあそれぞれの属性を教えてくれ。職業とかな」


「祖父と祖母は田舎で理髪店を経営しています。どちらも理容師の資格を持っています。母は昔は中学校の教師でしたが、家事や弟の看病を理由に退職して、今は知人の私塾でフルタイムではありませんが授業をしています」


「ほかには思い当たらないか?」


「――叔父さん、あ、お父さんの弟さんなんですけど。叔父さんだったらお父さんはその罪を被ったりするかもしれません」


「ほう」


「家族だからってのももちろんあるんですけど。お父さん、いや私たち家族は叔父さんにはとても縁があるんです。

 叔父さんは隆之さんと言って、来津中央病院というおおきな病院で働いているんですが、そこの病衣で私の弟は叔父さんの口添えがあってかなり安く治療を受けさせてもらっているんです。

 弟の病気はいわゆる難病と言われるもので、それでもまだ治療費が足りなくて叔父さんからはいくらかお金も借りています。叔父さんから俺の代わりに罪をかぶってほしいと言われたらお父さんは首を縦に振らざるを得ないかもしれません。

 叔父さんのほうにそんな気がなかったとしても、お父さんは自分からそうさせてくれと頼むかもしれません。だって叔父さんが捕まったら弟は――」


 九島警部は眉間のしわを一層濃くすると、部長刑事に一言断って室内にある固定電話を使って内線で誰かを呼び出した。


 数分後、ノックの音ともにいかにもはつらつそうな若い刑事が入ってくる。


「失礼します!」


「彼は内田。うちの班の刑事で、まだ県警に来て2カ月のニュービーです。内田。お前確か正木羽菜の職歴について報告してたよな」


「はい」


「正木羽菜は派遣会社に登録してこれまでにいくつかの職場を渡り歩いているんです。それで、確かどこかの病院で医療事務をやっていたことがあると言っていたな。その病院の名前なんだったか」


「来津中央病院です」

 

 花御堂の瞳孔がぐわっと開かれた。



「それでは律哉さま、来津総合病院に向かうということでよろしかったでしょうか」「ああ、そうしてくれ」


「菊岡さん、よろしければ私が運転しましょうか」と内田刑事。あのあと九島警部から花御堂に正式に調査協力の依頼があり、刑事が一緒にいたほうが話が早いだろうということから内田刑事が付いてきてくれることになったのである。


「いえいえ。お気づかいには及びません。車体の長い車を運転するのにはそれなりにコツが必要ですからな」


「でしたら覆面パトカーを出すこともできますが」


「大変ありがたい申し出ですが、律哉さまは足の伸ばせない乗り物には乗られない主義がございまして」


 なんて不自由な人なのだろう。


「そうでしたか。――花御堂さんはお噂は以前よりお聞きしておりました。一緒に捜査できるだなんて光栄です。今回も早速我々が陥っていた上原晴彦氏の単独犯説の矛盾点を指摘してくれたとお聞きしております」


「別に特別なことではありませんよ。皆さんは絶大な証拠物件とともに逮捕され、加えて自白まで行った晴彦氏を犯人とする仮定でストーリーを考えた。

 一方で私は依頼者の依頼内容のせいで、晴彦氏が犯人ではないという仮定を基に推理する必要があった。だからこそ気付けた。それだけに過ぎません」


「いやいやご謙遜を」


「――あの花御堂さん、私叔父さんならお父さんがかばう理由もわかる、とは言ったけど。やっぱり叔父さんが犯人だとは――」


「君がどう思うと、叔父さんが犯人でなくなるわけでもなければ、犯人になるわけでもない。私はただ事実を検証するだけだ。君が考えておくべきことがあるとすれば。叔父が犯人であったとき、君はどう対応するべきか、ということだけだ」

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