待ち合わせに来たのは……
「――――――っ、遅い」
リュウグは苛立ちを募らせながら、馬車の広場でイリスがくるのを待っていた。普通、冒険者の旅立ちは早朝が相場だ。昼近くになると冒険者よりも一般人が馬車を多く利用する為、武器を持っている冒険者は肩身が狭くなる。
同じ料金を払いながら、冒険者の荷物のせいで乗客数が少なくなり、馬車の人からは睨まれるわ、他の乗客からも白い目を向けられるわで散々なことにしかならない。
(ったく、いつまで待たせるんだよ。てか、昨日の俺の判断、間違ってたかもしれないな)
良い金づるになりそうだと思い、案内人を引き受けたものの、リュウグは案内人としては初心者で短気で自由人だ。
人の和よりも自分の利益を最優先にする為、他人に振り回される経験などほぼほぼない。
それなのに、今の現状はどうだ。
待てども待てども依頼者は来ない。
もし、半銀貨を貰っていなければ、とっくの昔にバックれている。
(俺もヤキが回ったのかね)
何度目になるか分からない溜息を吐いていると、ようやく待ち人がやってきたようだ。
「おい、いくらなんでも遅すぎ……」
怒りに任せて怒鳴り散らそうとしたところ、イリスの横に立つフードの子供の姿に呆気に取られた。
「悪い、行こう」
フードの子供と手を繋いだまま先に行こうとするイリスの肩を掴み、黒い笑顔で迫る。
「どういうことか説明して貰えないかなぁ?」
「どういう?」
「その子供のこと! まさかあんたの隠し子って訳じゃないよなぁ? っていうことは何なの? 何で一緒に連れて行こうとするわけ? 誘拐ってわけじゃないんだよな!」
「誘拐ではない。ただ、この子を両親の元へ送ってあげようと思っただけだ」
「はああぁぁーーーーーっっ??」
フードの言葉はリュウグの言葉にビクつき、イリスのマントを掴んで背中に隠れようとする。それを見逃せるほど、リュウグは優しくない。
フードの子供の頭を鷲掴みにして顔を近付けた。
「何、当事者が逃げようとしてるわけ? あんたが原因でお兄さん達は言い争いをしてるんだけど?」
「ぴいぃぃぃ~~~」
半泣きになる子供の顔を見た瞬間、リュウグは眉を潜め、イリスを見上げた。イリスは無言でリュウグを見下ろしている。
「……なるほど、何となくの経緯は分かった」
溜息を吐くと、リュウグは持っていた荷物をフードの子供に押しつけて先に歩き出した。
「じゃあ、今からあんたは荷物持ち。反論は認めない、もし嫌だって言うなら俺はあんたの依頼を断るし、この子供も置いていく。どうする?」
「ありがとう、やっぱりあなたは優しいな」
「……褒められる場面じゃないと思うんだけど。で、ガキもどうする?」
尋ねると、フードの子供は首を前後に振り、リュウグの荷物を背負った。かなりの荷物が入っているにも関わらず、蹌踉けることなく背負って歩けるところを見ると、流石は獣族だ。
正直、言いたいことは山程あるが、今この場で言うことではない。
リュウグは言い連ねたい言葉を全て飲み込んで、イリスの道案内役に徹することにした。