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英雄の子であり復讐者イリス  作者: 海埜ケイ
6/20

獣族の子供との出逢い

イリスsideです。



「これで良いな」


 ようやくイリスの満足のいく出来になり、大剣を鞘に戻した。部屋を出て、受付でチェックアウトをして外に出ると、日は既に頂点に高い位置にある。


 マズい、待たせすぎた。

 イリスは早足で町中を歩いた。活気があり、多くの通行人が行き交っている中、そこだけが違和感に見えてイリスは足を止めた。

 人が輪になって話している。時折、罵声に似た声も飛び、獣の泣き声も聞こえた。

 イリスは方向を変え、人の輪の方へ進む。背伸びをしたり身体をズラしながら問題の中心部を見ると、三四人の子供達がフードを被った子供を虐めていた。


「さっさと町から出てけよーー、バイ菌!」


「やーい、やーい、町のゴミ虫。親無しっ子は町のバイ菌!」


 子供は時に残酷なほど純粋だ。このまま他の大人達のように見なかったフリをして通り過ぎるのが懸命なのに、それができなかった。


「バイ菌はクジョするのが大事だって母ちゃん言ってたぞー!」


「うちの父ちゃんみたいにやっつけてやる!」


 意気揚々と薪用の三角に斬られた木の棒を振りかぶる子供に、イリスは大股で距離を詰めて木の棒を掴んだ。


「止めろ」


「はあ?」


「何だ、何だ、おまえ! バイ菌の仲間か?」


「邪魔すんなよー、俺たちゴミ虫のクジョしなくちゃいけないんだからさあ」


「子供も仕事するの、分かる?」


 口々に喧々する子供達から木の棒を奪い、被り振るう。

 目前に迫ってくる木の棒に、持っていた子供は両手で頭を庇いギュッと目を閉じた。

 イリスは寸止めにし、手の甲にコツンと木の棒を当てた。


「誰だって痛いのは嫌だし、こんなものでぶたれたら痛いに決まっている。自分の嫌がることはやらない方が良い」


 イリスが本気で殴るつもりがないと分かると、子供達は顔を真っ赤にさせ、イリスから木の棒を奪い走り出した。


「ふんっ、ギゼンシャのばぁーーーか!」


 子供達はあっという間に雑踏の中に消え、観戦していた群衆も散り散りとなった。

 残ったのは、虐められていたフードの子供とイリスだけになる。

 フードの子供はすすり泣き蹲っている。


「怪我はないか?」


 イリスが顔を覗き込もうとすると、フードの子供は頭を振って拒絶する。


「ないならいい。後、口を出してすまない。私も両親がいないから、ああ言った子供を見ると、口を出したくなるんだ」


 イリスの言葉に、ピクリと反応を示した。


「……お兄さんも、お母さんとお父さんがいないの?」


「ああ、お前もそうなのか?」


「ぅぅん。ボクはお父さんとお母さんがいるんだけど、この町にはいない。あのね、ボクの村はとっても貧乏だから、子供たちが“出稼ぎ”に行かないといけないの。だから、ここにはいないんだ……」


「そうか、大変なんだな」


「うん、大変。毎日、毎日働いてるのに、仕送りできるのは一週間に一度の半銅貨一枚で、ご飯は朝と時々、夜貰えるんだ。寂しいし、辛いけど、お父さんとお母さんの為にボクは頑張らなくちゃいけないんだ」


 拳を握るフードの子供の姿に、イリスは笑みを浮かべフード越しに頭を撫でた。


「頑張れ」


「うん! ありがとう、お兄さん」


 パッと顔を上げた時、彼のフードが落ちて顔が露わになる。


「―――っ!!」


 一瞬、目を疑った。てっきり人族の子供だと思いこんでいたが、フードから現れたのは白い毛皮に黒い大きな瞳、耳は立て、鼻は少し突き出ている。どこをどう見ても犬――獣族だった。

 フードの子供は「あ」と漏らすと慌ててフードを被り直す。

 その時に見えた横顔が切なそうな何かを耐えているような顔立ちだった。


「ご、ごめんね。せっかく庇ってくれたのに、獣族の子供で……」


 フードの子供は両手で自分の腕を掴み、小刻みに震えている。もしかしたら、以前に似たような事があったのかもしれない。その時に何を言われたのかは分からないが、今イリスにできることは、もう一度、彼の頭を撫でてあげることだけだ。


「別に気にしていない。人族だろうが獣族だろうが暴力はいけない。これは共通の認識だろう?」


 フードの子供はバッと顔を上げ、潤んだ瞳から涙が零れていた。


「……ボ、ボクのこと、嫌いにならない?」


「なる理由がない。お前はお前だ、私はお前を助けたいと思って助けた。それだけだ」


 ボロボロと涙を零すフードの子供の頭を撫でながら、イリスは顔を上げた。

 この子を安心させる為にはどうすればいいのか。何が最善なのかを考える。

 ―――出てくる答えはきっと変わらない。




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