2人の出逢い
ガタンっと、大きめの石を乗り越えた振動で目を覚ました。
懐かしい夢を見た。あれから、もう十年近くは経っている。背中の傷はうっすらと跡にはなったが、今では痛みはない。背中の傷に触れることはできないが、肩に手を付くと、隣でボロを纏って眠っていた男が身動ぎした。
「んあ? もう着いたのか?」
「いや、まだだ。起こしてすまない」
「全くだ。これから仕事なんだ、あんたも少しは寝ておけよ」
「分かっている」
男にはそう言ったが、気が高ぶっていて眠れそうにもない。視線を動かすと、ボロい幌の中に十五人前後の男達が寝入っている。皆、屈強な身体に何かしら武器を持っていた。
かく言う自分も得物を背負っているわけで、目的は皆同じ。
寝入ることもできず、ただジッと待っていると、突然、馬の嘶きが響いた。
「ヒイィィィィィィィィィイイイイィィィィィンッ!!」
ゴトンと、荷台が前後に揺れ、寝入っていた男達の身体が宙に浮き、どこかしらに身体をぶつけて目を覚ましていった。
ある者は自分の得物に頬を殴られ、またある者は別の者の下敷きになったりと様々だ。
そんな中、一人だけ外に出る者がいたが誰も気が付かない。
ボロを纏って寝ていた男も案の定、別の男を下敷きにして、額を強く打ち付けていた。
「ってぇ~~~、何だ、急に!」
男は直ぐさま、起き上がり幌を手で払い外を見る。他の体勢を整えた男達もそれに習って幌を払い除け、外の光景を見て絶句した。
「な、なんだ、ありゃあ・・・」
誰かが皆の言葉を代弁してくれた。
幌の外には、今回の討伐相手である三十人前後の盗賊たちがいた。幌の中にいる男たちよりも貧弱そうな身体をしているが、全員が全員、長剣を持ち、一人に向かって襲いかかっている。
対するのは、長い瑠璃色の髪を赤い紐で一つに結び、琥珀色の双眼で盗賊達を睨み付けている十七、八歳くらいの青年だ。赤いマントを首に巻き、膝上まである青いシャツに白いズボンを身に纏い、自分の身程もある大剣を軽々と振り回していた。
彼が一振るいする度に、盗賊達は腹部を殴打され地面に伏していく。一撃の攻撃は重いが、次の動きに繋げるまでが長いと悟った盗賊達が二方向から襲いかかるも、右手で大剣を振るいながら回し蹴りで相手を地面に伏していく彼の姿に、幌の下にいる男たちはゾッとした。
「なんで、あんな動きができんだよ」
「っていうか、もしかしてアイツ、アレじゃねえ?」
「何だよ?」
「ほらっ! 東の大陸から来たって噂の“蒼の野獣”。ヤツが戦場に降り立てば勝てる戦も勝てなくなる天下無双の戦士ってヤツだよ!」
「ああっ! それなら俺も聞いたことがあるけど、それってゴリラみたいな男じゃなかったか? あんなちっこくて良いのか?」
「知らねえよ! けど、あの動きはまさしくゴリラだろ! 人間業じゃねえよ!」
口々に彼女を評価する男達の話しを聞きながら、一人の男は顎を撫でる。
(確かに結構、筋肉質な身体付きだが、俺たちよりも華奢に見えるんだよなぁ。一撃一撃が重いのだって、大剣の遠心力を使っているだけかもしれねえし、・・・・とにかく戦い慣れしていることだけは確かだ)
彼は自分の身体の欠点をよく知っている。常に体勢を低くして下から突き上げるように大剣を振るっては相手を飛ばし、すぐさま身体を倒すことによって死角から襲いかかってくるヤツの相手をする。
そして彼の最大の利点は素早さだ。目で追い掛けるのがやっとなほど素早く相手をうち負かしている。このままだと、時間の問題だろう。
男はボロを脱ぎ捨て、荷台から飛び出した。赤みの強い橙色の髪が闇夜の街道では一層、人目を引く。それに反し、服装は紺と黒のジャケットに股から踝まで革のベルトを巻いたズボンを身につけていた。男は股のベルトから薄いナイフを取りだし、指の間に挟む。
彼と目が合い、お互いに背中を向けてぶつかった。
「このままだと、あんた一人の取り分になっちまうから今から加勢する。文句はないだろ?」
彼は少しも男を見ようとしない。目の前の敵だけに意識を集中させている。
「俺の名前はリュウグ。しがない傭兵さ、といっても隠密系をメインでやってる。そっちは?」
「イリス。・・・・旅人だ」
「旅人ねぇ、それじゃあ、この討伐も路銀稼ぎかい?」
彼――イリスは小さく頷いた。
しゃべるのが得意ではないのだろう。リュウグはそう判断し、自分も盗賊達に視線を送り警戒する。
「短い間だけど、よろしく頼むぜ。相棒っ!」
イリスとリュウグは同時に駆け出した。
―――その後、十分足らずで、その場に立っている者はイリスとリュウグ以外いなかった。